ショタコンうさぎ
(私のメンツなんてどうでもいいじゃないか。チィーちゃんのことを優先しなきゃ!)
決断したルルーチィ。
恥を覚悟でギイさん親子との再会を決心した。
善は急げとばかりに店長に辞表を提出。
追いすがる店長を振り払って二階の窓から脱出。
みんなにお別れの挨拶もできないまま、南の街ギギギガ行きの寄り合い荷馬車に飛び乗ったのだった。
(殺しかけた相手と再会かあ。どんな顔すればいいのか。というか怖がられて会ってくれないか)
複雑な思いがめぐる。
(ん?)
ふと気づいたが、乗客達の様子がおかしい。
立ちっぱなしで詰めれば二十人くらい乗れる広さの車に十人も乗っていないのだが、なぜか自分とその隣の女性を除いてみんな隅っこのほうに寄り固まっているのだ。
(なんだ? あ、こいつのせいか――)
隣の女性。二十歳越えくらいのお姉さん。栗色の髪はクセのない真っ直ぐなストレート。そして頭上のウサ耳は自信なさげな感じで両方ともお辞儀している。
一見して無害で大人しそうなウサギ族の人なのにみんなが警戒して距離をとっている理由。
それは彼女が出刃包丁を両手で握り締め、ブツブツと呪詛めいたことを呟いていることにほかならない。
(殺気はないからいきなりってことにはならないだろうけど、そりゃみんなビビるわな)
けれど戦闘訓練を受けて育ったルルーチィには大したことには思えなかったのだ。
「ねえ、あなた何やってるの? みんな怖がってるじゃん」
「え? あ、はい。すみません」
いきなり話しかけられて慌てる女性。
でも素に戻った感じ、やはり大人しそうな人。
包丁を鞄にしまい込んだ。
ほっとする他の乗客達。
「力にはなれないかもだけど事情くらい聞くよ? ギギギガに到着まで数刻あるしね」
「ありがとうございます。じつは……」
訳を語るその人。名前はパシュナさんという。
「性悪男に騙されて有り金すべてを取られたんです」
「それは、たいへんでしたね(どっかで聞いたことのある話だが、まあよくある話だしな)」
「あのネズミ男、少年をかたって私に近づいたあげく……」
「うんうん(よくある話よくある話)」
絶対にすっとぼける覚悟のルルーチィ。
敵を騙すにはまず自分から、である。
「だから私は彼と一緒にお風呂に入ってあげておチンチンを洗ってあげて、そしたら立派になって困ってたから私がちゃんと処理してあげて、その後も一緒にお布団の中であんなことやこんなことを教えてあげて、他にもいろいろとやってあげたのにいいい!」
「へ~(ないなーソレはないなー)」
通報案件だった。
しかもパシュナさんが逮捕されるほう!
「なのに彼、イタイケな少年ではなくて、実は子持ちのオッサンだったなんて! 絶対に許さない! ブーッ殺ーっっすーぅうう!!」
「落ち着こう! ね? だって獲物はここにはいないでしょ?」
「ハァハァハァハァ……」
「……(どこの部分が一番のキレポイントなのか聞いてみたい気もするが)」
さすがにそれは聞けない。
出刃包丁を再び握り締め、取り乱したパシュナをなだめるルルーチィ。
「それになんでそのことが分かったの?」
「有り金を持ち逃げされた時に置手紙があって『ショタコンババア! ざまぁ! アバヨ!』との見出しでコトの全てが書かれていました」
「あぅ、それはそれは――(ネーたんの旦那、よけいなコトしてんじゃねーよ!)」
「あの時以来、私は狩人となったのです」
「なるほど。お気持ちはよく分かります(なら、なんで目標から離れるこの馬車に乗ってんの?)」
今はバカンス中で留守とはいえ、住処のある街から離れる馬車に乗っているのだ。
まさかルルーチィも知らないネーたん家族のバカンス先を把握しているというのか。
だとしたら恐るべき情報収集能力であるが。
「その獲物の居場所、アテはあるの?」
「いえ」
「そっか(目当てはすぐそばだったってのに運のない人だなあ)」
「ですが必ず見つけだして、刺された回数ブンだけきっちり刺し返します!」
「ぶーっ」
包丁を握り締め覚悟を口にしたパシュナさん。
そのモノの言いようにルルーチィは吹き出すしかなかった。
パシュナさん、いったいナニを挿されたんですかねェ。




