16昭和www
懐かしむ要素ありません
喫茶店「漂着者」
まんまの店名に、タローはやや不安感。
だが、店内に入ってマスターと会話。
すると、すべて合点がいった。
まずは店内の様相。
赤色のソファーとミラーボール。
ガラステーブルの足は車のタイヤ(?)を横倒しに積み重ねてる。
強烈なレモン系の柑橘類の匂いが店内に溢れている。
そのくせ、下水っぽい匂いがどこからか漂ってくる。
変な歌謡曲? がBGMでながれてるし。
昭和だな。
コレ多分昭和だわ。
ネットで見たことがある。
想像できなかったけど、いま分かる。
インベーダーゲームがあれば、まんまだわ。
これが昭和。
と、納得いったタローであった。
「へえぇ! 君、日本人なんだ!」
店長いやマスターも日本人だった。
歳はアラフォー? いやアラフィフか?
若作りしてるけど、リーゼントにしたそうな髪型は髪が足らずにオールバックになってるし、店内のムードからしても、五十歳越えてるかも……
「はい、平成から来ました」
「ヘーセー? ってドコ中?」
やっぱこの人、昭和の人だ。
「それより、注文いいっすか?」
「いや、まて少年、ちぃょおっと、待ってな」
マスター、なにか仕込んでる。
たぶん、期待できるとタローも予感。
「おまち!」とマスターがカウンターのテーブルに出したものは……
「うおお! マジかよ」
「おおっ! 本気だ」
ハンバーガーとコーラだった。
「ずっと、ずぅっとぉ――」
「わかるぜ? だから、俺は店始めたんだ」
いただきます、も言わずに齧り付いた。
「うぉぉぉ」
「はは」
正直、そんな美味いもんでもない。ただ、懐かしいだけだ。
この世界にも、パン? はあるし肉も野菜もある。
でもこうやって組み合わせて、ソースを、の料理はないのだ。
「これぞ、まさに、ハンバーガー!」
「ははは、マッ○くらいにはな?」
けど、コーラは……
「これ炭酸……」
「すまんな、こっちソーダがないみたいなんだ」
「なるほど」
炭酸だけでなく味も安っぽいコーラまんまだ。
コカ○ーラのレシピ恐るべし。
さすがにしょうがない。
「おかわりを所望する!」
隣のカウンター席で、同じものをガツガツ食ってたチィルール。
口周り、ソースまみれ。
ハンバーガーとコーラ、たいへんお気に召した模様。
「で? どうよ?」
おかわりをガッついているチィルールを避けて、
マスターはタローの傍まで、わざわざカウンターを通り抜けてきた。
なにか、言いたいことがあるようだ。
「なにがです?」
「こっち(の世界)はモテるだろ?」
「えへ? そうなんですか? オレ、森から出てきたばっかで」
「そっかぁ、まだ、知らなかったかぁ」
「え? やっぱりアニメの主人公みたいに? うへへ」
「まぁ、うん、そうなの? かもな? 」
なにか歯切れの悪いマスター。
さすがに不安になってくる。
「なんなんです?」
「君、若いから知らないかな?」
「だから、なんなんです」
「男の嫉妬は自分を裏切った女に向かうんだけど、女の嫉妬って、付き合ってた男にじゃなくて、浮気相手の女に向かうって知ってる?」
「それは、まぁ、ドラマとかで――」
「んで、コッチの世界って微妙に男女逆転してるでしょ?」
「まぁ」
「で、こんな話がある……」
マスターは語り始めた。
昔、一人の漂着者がいた。若い男だった。
彼は見知らぬ世界に漂着し、とある町娘の少女に救われる。
それは運命的な出会いと思われた。
だから、たちまち恋に落ちる二人。
が、しかし、あるとき、男の前に美少女剣士が現れた。
その剣士は誰にも言えない心の傷を背負い、不良ていた。
その娘を救いたい、男は献身的につくした。
そして、ついに娘は男に心を開く!
『べつに、アンタのためじゃないんだから。フンッ』
男は思った。
『俺の時代、キターッ!』
だが上手くはいかない。当然だ。現実なのだから。
町娘の嫉妬は男の想像もつかないものだった。
嫉妬に狂った町娘は台所の出刃包丁を握り締め、女剣士に立ちはだかった。
『決闘なら望むところだ』
惨劇は起こった。
プロを相手にした娘は……
両手、両足を切り落とされてしまった。
あげく、当事者の男は芋虫になった娘の顔を無理やり踏みつけさせられた。
さらに男の足もろとも、娘の頭蓋に刃をつき立てられた。
男は激痛とともに、娘の死に様を足の裏に記憶することとなった。
「……という話だ」
「?! なにそれ? めっちゃ怖いんですけど」
マジでビビる。
ここ魔法のあるファンタジー世界でしょ。
これからエッチな格好した妖精とかと出会ったりする展開じゃねーの?
ダークシリアスなの?
ジャンル違わくね?
と思うのも当然である。
「ここは現実だ。羽目はずすと悲惨なことになるぜ?」
とマスター。
「いや、でもなんで町娘、剣士に勝負挑んだの? 勝ち目ないでしょ!」
「え? 勝ったの町娘だよ?」
「なに言ってんの? プロって言ったじゃん」
「だから町娘、魚屋さんで、魚捌くのはプロだったんてば?」
「はあぁ?!」
なに言ってんだこのオッサンと思うタロー。
剣や包丁振り回したことないけど、人の両手両足ちょん切るのって魚捌くのと大差ないの?
いやいやいや、な訳ねーよ。
ダークシリアスが急に三文コメディになった。
(なんだ嘘かよ)と思った、のだが?
「アンタぁ! 帰ったよ? どこだい?」
カウンター奥の裏口から、三十路くらいのオバ、オネーサンが中に入ってきた。
「おぅ、コッチだ」
「カウンターの外でなにやって、あら、お客様? いらっしゃいませ」
お昼時を外したこの時間、たぶん普段、客はいないのだろう。
「遅かったじゃねーか?」
「ああ、大漁でね。いい魚が目白押しだったんだ。晩は期待していいよ」
「楽しみだねぇ。お前の目利きで選んだ魚は常連にも評判だからなぁ」
(ん?)とタローは思った。
やり取りからして夫婦なのだろう、しかし?
「お客さん方、ごゆっくり、どうぞ、ほら、ダタロウ、ちょっと手伝って」
「おう」
(ダタロウ?)
「あ、俺の名前、ヤマ・ダタロウっていうんだ」
マスターの名前?
「あ、すみません。オレの名はヤマダ・タローです」
「あー、うん。コッチに来た日本人の男はだいたいそうなんだ」
カウンターに戻るマスター。
マスターは不思議なことを言った。
しかしタローは、マスターが右足を引きずっているのことの方が気になった。
(いや、まさか? でも、マジか? この二人って? ええーっ!)
緊張する。
ヤバイかも、とタロー。
『ゲーップ・ふーっ』
でっっけーチィルールのゲップ!
おかわりした挙句、いつのまにかタローの食いかけまで食い尽くしてる。
でもそんなこと、どうでもいいのだタローにしては。
「あ、あの、お勘定」
タローは慌てふためきながら清算を済ませ、店を後にした。
その後、店内でおこったことなんて知らない。
「あの坊や、蒼い顔してたけど、大丈夫なんかい?」
オカミがダタロウ(夫)に問いかける。
「おう、あいつ、俺の後輩よぉ、心配いらねぇよ」
「はあ? じゃあ、またあの与太話吹き込んだのかい?」
「あいつのためだわさ」
「なに言ってんだよ。まったく――それよりアンタ」
「はあ?」
「さっき足、引きずってた。また痛風でたね?」
「ちげーよ! あれはアイツをダマス演技で」
「ダマラッシャイ!」
「はひぃ」
「今晩、晩酌なしだよ! いいな?」
「ふぇ?」
「ああっ?!」
「はいぅ」
人を呪わば穴二つ




