15.タローと、チィルールとの……
役場を出て表通りを歩くタローとチィルール。
その役場で用を済ませた二人にこれからのアテはない。
(役場で自立支援のお金は貰ったし、異世界(現実)から来たオレは、これでこの世界での暮らしに取っ掛かりができた。だから、チィルールとはもう一緒にいる必要はない)
タローの予感。
それは、別れの気配。
(思い返せばこの世界に来て十日くらいか――チィルールと出会って、コイツには色々とお世話……になった以上にオレがお世話してやったもんだなーぁ)
話が普通と逆な二人。
タローがいなければチィルールは密林で迷子を続けていたし、でもチィルールがいなければタローだってどうだったか? な話。
(まあ感謝はしてるよチィルール。さて、お別れはどう切り出すか? それとも切り出される方なのかな)
隣をテクテク歩いているチィルールを横目で見た。そしてその事に改めて気付かされるのだ。
「クスッ」
「ん? なにが可笑しい?」
「いや別に」
「むむ。なぜか?」
「言ったら怒るし」
「怒らぬから申してみよ!」
「うんっじゃ、お前ほんと、ちっこいなあー」
「なあー!!」
「怒らないねー?」
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬ、言わなーい」
「なぜか?」
「なんでもなーい(オレっていつの間にこんな小幅で歩くクセ付いてんだよw)」
他愛ない会話。
解せぬチィルール。
でもタローが本当に可笑しかったのは、その小さな彼女の歩幅に合わせて小さく歩く自分の習慣に気付いたせいだった。
(こんなやり取りも、もうお終いなんだよな。……でも、そんな神妙な間柄でもないし、別れの挨拶は軽い感じで『じゃあな、バイバイ!』でいいよな。うん)
感傷がこみ上げる。
「うーぅ……まあ、だがである。さて、これからどうするか?」
「え? ああ、まずは腰を落ち着ける場所(住家)かな。(チィルールから切り出してきたか。でも上手な言い回しじゃないか。お前にしては上出来だな)」
「宿か、なるほど」
「まあ取りあえず(宿か、当面はそうなるか。やっぱ)」
「だが、それよりもだ。大切な事があるのではないか?」
「え?」
正面に向き直ったチィルールの真摯な眼差しに『ドキッ』としてしまうタロー。
(なんだよコイツ改まって、ちゃんとお別れしてほしいってことなのか?)
「分からぬか?」
「あ、ああ、あのな?」
「ん?」
(まさかコイツ、誘ってやがる!)
タローの出した結論。それは――
(私はもっとタローと一緒にいたい。でもそんなこと自分から言い出せない。だから、あなたのほうから言って欲しい『なにより君が一番大事だから、ずっと側にいてやる。守ってやるから』……って感じかあ。そんなメンドクサイ少女ドラマに付き合う気はさらさらないが。さてどうしたものか)
言葉が見付からず、見詰め合う二人。
「タロー」
「チィルール」
「……」
「……」
『ぐきゅぅううう』と盛大に鳴ったチィルールの腹の虫。
「ぐぬ……」
「あー、はいはい。メシね。そーいうことね。オレにお金が入った途端にソレね」
「な、金なら私だって持っておるわ!!」
「あっれー? いいのかなあ。せっかく奢ってやろうと思ったのいに?」
「男に奢られるなどとー!(ぐきゅううぅ)」
「身体は正直よのおぅ」
「ぬうう! 腹など減ってはおらーん!!」
「あっそ、じゃあこれからオレはメシ食いに行くから」
「タロー?」
「じゃあな。バイバイ!」
テクテク進んでいくタロー。
置いてけぼりのチィルール……
「……タ、タロー? ま、待て、……私も行くぞ!!」
「ん? お腹ヘッタか?」
「ヘッタぞ!」
「よし、奢るぜ」
「うむ。よきにはからえ」
(あーあ。このままズルズル付き合って情が移らなきゃいいけど……)
二人、並んで歩いてゆくのだった。




