キメラのキキト 中
シリアスです
警報鳴り響く施設。
突然の変化に戸惑うキキト。
口元をパパの血で汚し、肉を頬張りながらあたりをうかがう。
やがて武装した戦闘員が現れ、魔法の力を発動。その力をぶつけてきた。
爆音と炎をあげ、破裂する魔法。または天に雷が煌めき、その雷光とともにキキトに炸裂する魔法。
「キレイ・パンパン・キレイ」
「効いていない!」
狼狽する魔法使いの戦闘員達。
「ナニ? ハナビ? マツリ!」
食べかけのパパを放り出し、キキトは戦闘員達にスキップするかのような小走りで向かっていった。
「パンパン! ピカピカ! ドーンドーン! マツリ・マツリ・コレガ・マツリ」
「怯むな! 撃て!!」
「キャッキャ! マツリ・タノシイ・マツリ・ママ・ママモ」
ボクはキキトの母の手を引き、施設からの脱出を急ぐ。なぜなら、キキトの次の目標はこの人に確定していたからだ。
「こちらです。ささ、早く!!」
「まってくださいぃいぃー」
その悲痛な声。現実を受け入れてない。すべてが突然過ぎたのだ。無理もない。
「本当にキキトが? 主人を?」
「残念ですが」
「ウソですっ! キキトは素直でいい子でした。そんなことをするはずありませんっ!!」
「我々は見誤ってました。素直さというものを! 取りあえず、キキトが来る前にここを脱出してください」
「ウソっです!! こんなの! ウソです!」
「わかりました。でも取りあえずココをでましょう。そして街にでてディナーを召し上がった後で、また戻ってきましょうね? ……キキト、にも、お土産を、買って……」
適当な言葉を使ってやり過ごす。
キメラの潜在能力はあなどれない。
一刻も早くココから遠ざかなければならない。
その間に戦闘員に終わらせてもらう。
事実はその後で理解してもらえばいい。
「ささ」
「キキトに……お土産を」
「はい。きっと喜びますよ」
「そ、う、よね……」
「ママ!」
「キキト!?」
「遅かったか」
ボクらに追いついてきたキキト。
「ママ・マツリ・マツリ・タノシイ・マツリ」
「お祭り? 楽しいぃ、の?」
「ウン・ママモ・ママモ」
「うん。私も……」
キキトに歩み寄ろうとする夫人。
「待ってください。キキトの姿が分からないのですか!?」
キキトの様子。数刻前よりも段違いに全身の結晶が発達、全身に広がっているその禍々しい様相。しかも全身は血まみれで、おまけに千切れた戦闘員のモノと思われる腕が肩からぶら下がっている。
「……(戦闘員は全滅したか――)」
「ママ」
「キキト」
「ダメだ!」
「トロイ・キライ」
急接近してきたキキトにボクは成すすべなく弾き飛ばされ、建物の壁に背中からしたたかに激突して身動きできなくなった。
「……(運動能力がケタ違いに発達している。わずか数刻のあいだに?)」
「ママ・マツリ・マツリ・ドーンドーン」
「ええ、一緒に……」
「タノシイ・タノシイ」
「ふふふ……」
「待て!! キキト! パパは一緒じゃなくていいのか?」
「パパ?」
「そうだ! パパはドコだ? どこにいる!?」
「パパ・ドコ? ココ?」
お腹を撫でる。
「パパはどこにいる?」
「ココ」
「そうか、じゃあもう、キキトのこと抱っこできないな」
「!!」
「お話もできないな」
「パパ!」
「ママのこともそうする気か?」
「チガ……」
「自分がナニをやったか分かるか?」
「……パパ」
「もういない」
「パパ! パパ! パパ・オカワリ・オカワリ・オカワリぃ……」
「クッ。キキト、パパは御代わりできないよ」
「パパァ! パーパァ!! パーパ・アアーアー!」
悲痛な鳴き声。
「……(ボクらはキキトの素直さを見当違いしていた。だが今ならやり直せるのか?)」
キキトの嘆きにいたたまれなくなった夫人が彼女を抱きしめる。
「ママ……」
「はい。ママはあなたのこと愛していますよ」
「ママ・スキ・ママ・スキ・オオキイ・スキ」
「私もです。ずっと一緒ですよ」
「ママ・スキ・オオキイ・スキ……タベ、ギャアアアアアアア!!」
キキトが悲鳴をあげた。なぜならボクが妖精のナイフを使ってキキトの肩を貫いたからだ。お姫さまのように大事に育てられていた少女には経験したことのない激痛であったろう。
痛みから逃れようとして夫人から後ずさった。
「キキト、今、君、ママを食べようとしたね?」
「ママ・スキ・タベタイ」
「やはりキメラは、そうなのか。ダメということか!」
「ママ・スキ・ママ・スキ・タベタイ・スキ」
「パパと同じように、いなくするんだね」
「……」
「ご無事ですか!?」
その時、重武装した戦闘員達が現れた。
「隊列! ヨの三!」
隊長と思われるその人物の号令によって素早く展開する戦闘員。
「開始!」
投げ槍と弓矢がキキトに向かって降り注ぐ。ほとんどは結晶に弾かれていたが、それでも数本が掠るとキキトは怯んだ。
「目標は攻撃魔法耐性が極端に高い。魔力を載せた直接攻撃で仕留めろ! 魔法は牽制に使え! 休みを与えるなよ」
鍛錬を重ねたツワモノの風格を感じさせる。
「これなら大丈夫か?」
ボクは安心し、夫人ほうへ注意を向けた。
「今のうちです。早く……」
「!!」
意表をつかれた。ボクは夫人に平手打ちを喰らったのだ。
「?」
「なぜ、邪魔をしたのです!!」
「あ……」
「くっ……」
夫人はスタスタと何処かへと去っていく。
ボクは慌てて付近にいた兵士に声を掛けた。
「あの夫人の監視を、できれば安定剤の投与。自殺する可能性が高い」
事情の飲み込みが早い兵士だったようで、数人の部下を引き連れてすぐさま夫人のあとを追ってくれた。
「後はキキトか……だってもう、どうしようもないじゃないか」
これはすでに悲劇的な幕引き以外考えられない状況だった。




