オエオエおー
『いたーだきますっ』
セイヤ式の食前のお祈りは瞬く間にチィルール達に普及してしまっていた。だって簡潔だったし、神以外にも、食事そのものの命やそれを運んだり調理する人達にも感謝するという発想は斬新だったからだ。
でも台詞のイントネーションが小学生みたいになっているのはセイヤもちょっと後悔しているところ。
「おいしー」
みんなの素直な感想。
「この御造りって鯛? うん、これは、うまい!」とセイヤ。
「どれだ? これか! うむ、いいではないか。なんとも滋味深い」とチィルール。
「それよりこっちのコレ、おいしいーっ。 コリコリする歯ごたえがタマラナーイ」とリリィーン。
「あーそれは、貝だね。貝? 生の?」とトロイ。そして目線を避けて沈黙する。
「ん? リリィーンちょっと待て。さて?生でも食っていいものとダメなモノがあります。お前、もしかして生の貝? 食った?」
「うん。ん?」
セイヤの質問に素直に答えるリリィーン。
「それは残念でした。生の貝には毒がありまーす。ご愁傷さまでした。今宵の宴は、残念ながらリリィーン最期の晩餐に変更となりました」
「はぅあっーっ!!」
「皆様、これから旅立たれていくリリィーンに、どうか惜しみない拍手を――」
「はっああー!?」
パチパチと拍手が始まった。
「いっやああー!」
青ざめるリリィーン。
「そー慌てるな。せいぜいお腹がピーピーになるうえに口からオエオエおーになって、上と下から出るわ出るわの大惨事になって、ソレに耐えられないと死ぬだけだから。ま、頑張って」
「……」
セイヤの励まし。
でもリリィーンの顔色は青から真っ黒になった。
「待ってください」
とギイさん。みんなも注目する。
「確かに生食はお腹を壊す場合もありますが。ここに用意させていただいたものは全て私が試食して安全を確認したモノばかりでございます。そちらの貝にしても蒸していますし、問題はないかと――」
「だそうだ。よかったな、リリィーン」
「セイヤ、貴様……」
「じゃあ、ま、オレも、うん。旨い。アワビみたいだなコレ、サイコー」
「お前……」
確信犯でリリィーンをからかったセイヤ。
それを理解してまわりも爆笑した。
「お前ら本当に仲が悪いよな」
チィルールの台詞で再び爆笑するのだ。
リリィーンを残し、みんなニコニコ顔で食事をすすめる。
楽しいひと時だった。




