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チィルールはアスペっ子


「いやあ、遅くなって申し訳ありません。皆々様方」


 家主、ホストであるギイさんの声。


 夕食、その広間に案内されたセイヤ一行。

 中央に置かれた大きなテーブル。

 メイドさん達に、それぞれの席に促され着席。

 建物は南国東洋風なのに食堂は洋風スタイルだ。異世界のクセしていちいち現実っぽい。

 場にはホストであるギイさんとその奥さん、そしてまだ「ひっく」とすすり上げているギコくん。目と鼻先がちょっと赤い。

 兄のギグくんの姿はなかった。まだ立ち直れていないようだ。まあ仕方ないところ。今頃ふとんの中で身悶えしながら泣き喚いているのかもしれない。


「今宵、我が屋敷に。オクエン国姫君、チィルール殿下をお招きいただければなれ――」

「うむ!」

「……」

「苦しゅうない!」

「……」


 長くなりそうなギイさんの儀礼的な挨拶口上をバッサリと切り捨てるチィルール。

 こういうパターンにはうんざりしているのであろう。でもそんな言い回しを誰に教わったのやら。

 こうなるとギイさんも、もはやナニも言えなかった。


「では、あ、皆々様方、乾杯の用意ぃぉ?――はい。では、チィルール殿下とオクエン国、そして我がセンエン国との友好発展を願いまして、乾杯ーっ!」

「うーむっ!」


『乾杯ー!』


 始まる夕食。

 

「うん。酒じゃないなコレ」


 セイヤはグラスに注がれた透明な液体を少し味見して安心。軽やかな甘みと酸味のあるマスカット風味の液体。料理にも合いそうな飲み物だ。


「キポキポの果汁だね。コレは」

「キポキポ?」


 いまだ異世界のことに疎いセイヤに、情報屋でヒト族と妖精族とのハーファであるトロイが教えてくれた。


「センエン国原産の果実の汁で、ここでしか呑めない貴重な汁だよ? だって実を搾って取り出した果汁は一晩で腐ってしまうほどデリケートだから輸出も難しいんだ。収穫した実自体も一日で腐るしね」

「汁――酒じゃないよね?」

「うん。酒じゃないよ? だから安心して呑むといい。ふふふ」


 思わせぶりなトロイの様子。


(あんまり呑まないでおこうっと)


 賢いセイヤ。


「さあさ。どうぞ一献」

「うむ」

「チィルール殿下におかれましては――」

「うむ! 苦しゅうない!」


 チィルールの杯に汁を注ぐ女性。

 ギイさんの妻でキュキュという。

 ギイさんは犬っぽいのに奥さんは猫っぽかった。

 妖精族は同種族で集まる習性だったが獣人族はあまりこだわりがないようだ。


「では料理のご用意を。これはとても特別な料理です。どうかお楽しみになさってください」


 自信満々のギイさん。というかちょっと得意気味。お尻から覗いているシッポが千切れんばかりにフリフリ状態だー。

 ワゴンに乗せられた大皿が登場。そこに盛り付けられている料理。


「ふふふ。では私自ら御取りわけいたしましょう」


 チィルールの前に置かれた皿に料理を取り寄せるギイさん。


「どうぞ殿下。『生のお魚』に、ございます」

「あーぁ、もったいぶっておったからなにかと思えば『御造り』か」

「ええ!?」

「なにか?」

「……」


 残念そうなギイさん。シッポも勢いをなくす。


(チィルール! そこは知ってても、もうちょっとホラ『私御造り大好きなのー』とか言いようがあるだろが。自信満々で出してきたギイさんが、あーああ、犬耳もシッポもがっくりシナシナになってんじゃねーか)


 哀れなギイさんに同情するセイヤ。 


「召し上がれたことが? 生のお魚を?」

「うむ。セイヤが所望してな」


「あ、オレの故郷ではポピュラーな料理で、でも大好きだから、ウレシーなあ。感激です。ありがとうございます」

「それはそれは――」


 シッポの揺れ復活。


「えー、私これ好きくない」とリリィーン。


 シッポ、うなだれた。


「珍味で美味しいじゃないか。ボクは好きだよ。いったい誰がこんな食べ方を発想したのか興味深いよね」とトロイ。


 シッポ、再びはち切れんばかりにフリフリ状態。


「実はなにを隠そう、この食法は私と息子二人が最果ての無人島に漂着したとき、その絶望の果てに最後の――」

「うーむ! 苦しゅうない!(腹へった。はやくメシ食わせろ!)」

「……」


 何か訴えたそうなギイさんを睨みつけるチィルール。

 シッポ完全に内側に丸まってしまった。

 でもそれが幸いして、テーブルには御造り以外の料理も色々と並べられることとなる。


(強引にぶった切ったなあ。でも失礼だがメシの前に長話はちょっとな――よくやったチィルールといっておこうか)


 チィルールのアスペっぷりに初めて感謝するセイヤであった。


 

「けだものプレイヤー」のほうも途中なんですが今は書ける時間が少ないのです。

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