いたたまれない内容
馬車は目的地に到着する。
運転手は車内に伝わるベルを鳴らして到着を合図した。
車のドアを開け乗員が一人ずつ降車してくる。
最初に降りたのはギコくん、いっぱい遊べたからなんか満足そう。
次はチィルール、「ムフー」と鼻息たてて興奮冷めない様子。
そして彼らのクッション投げに付き合わされたその他のメンバー、みなゲンナリと疲れた様子で降車してくるのだった。
「なんだい。にぎやかだったみたいだけど」
車外の高い位置にある運転席の隣からハシゴを伝って地上に降りてくるトロイ。
「子供の遊びに付き合ったら、キリがなくてもうクタクタ」とセイヤ。
「打ち解けたみたいでいいじゃないか」
「でも揺れる馬車の中で動いたから疲労ハンパねえわ」
「なにか話を?」
「いや、速攻でチィルールが参入したから」
「そうか。君らもつくづく真面目な話ができないよね」
「う、それはお互い言いっこなしで」
「うむ」
全員の降車を確認して馬車は発進合図のベルを鳴らし出発した。門のある玄関先にセイヤ達を残して車庫へと向かうようだ。実際、あのマンモスみたいなのが引いてる巨大な馬車が目の前にある門をくぐることはできない。
「帰ったぞ! 開門!」
まるで砦の城門かのような頑丈そうな正面玄関。その上に作られている見張り台から家主であるギイの姿が確認され、門のカンヌキが外された。
物々しいのは出入り口だけでなく常駐している門番らも武装していることもだ。
まさに砦かのようだった。
「お帰りなさいませ」
「うむ。なにか変わったことは」
「いえ」
そんなやり取りの後、中に促されるセイヤ達。
門の向こう側に大砲や投石器などがびっしり設置されていた。戦闘態勢準備万端な要塞のよう。
「長旅でお疲れになったでしょう。部屋を用意させますので一休みなさってください。しばらく後、夕食の用意が整いしだいお声がけ致します」
「ギイさんて、王族か豪族などといった立場の方なのですか?」
庭の様子などからセイヤが疑問を口にする。
「いえ。我々獣人族にはヒト族のような身分階級はありません」
「へえ(ということは獣人族ってみんなこんな家に住んでるってことか)」
などと思っていたのだが。
「ちなみに獣人族の名誉のために言っておきますけど、コレはお父さんの趣味であって、皆が皆、このような好戦的な家に住んでいるわけではありません」
とギイの長男ギグくんが説明をいれてくれた。
「なぜだ。いつ敵が、魔物や宇宙人が攻めてくるかもしれないではないか」
「来ません。お父さんはへんな動画の見過ぎです」
「だってカッコいいだろう?」
「友達に笑われて恥ずかしいです」
「そんなロマンの分からないヤツはこっちから絶縁してやれ」
「っ……」
「まぁまぁ。オレはカッコいいと思いますよ」
「そうだよ。カッコいいよ、お父さん」とギコくんも同意。
「だろう。二人とも良く分かってるじゃないか。それにくらべてギグは最近反抗期に入りおって、まったく」
「そういうことではなくて――」
「まぁまぁ。ギグくん、お父さんは家族のことがとても大事でみんなのことが心配なんだよ。君も大人なら分かるでしょ」
「う……」
「お兄ちゃんは大人だよ。だって女の人の裸の写真見たら、おチンチン大きくなってゴシゴシこす……」
「ギ! ギコーっ!!」
突然、ギコくんの核爆発級の発言。それは場を……
顔真っ赤にしたギグくんに怒鳴られ、慌ててどこかに向かって逃げ出した弟ギコくん。もう姿はどこにもない。
やり取りをうかがっていたチィルールとリリィーンも顔が赤くなってるし、そばのトロイも知らない様子を決め込んではいるが頬がすこし赤い。
コチラ側に背中を向けたままのギグくん。そのまま振り返りもせず無言のままどこかに走り去っていった。
父親のギイさんは「がはは」と無神経に大笑いしているし。
セイヤだけが真っ青な表情だった。
(い、いたたまれねー。オレもどっか行きてー)
ごめんなさい




