14.異世界の通貨
「タ、タロー! どうであったか?」
「え? はあ、まあ大丈夫。漂着者として認められたけど」
「そうか、うむ。でかしたぞ」
「オオゥ(なにが、でかしたのか分からんが)」
心配そうだったチィルールの反応に意表を付かれたタローの反応。
「しばらくここで待ってろってさ」
「そうであるか」
異世界からの漂着者試験を受けたタロー、無事に認定されたのだ。
その間、待合ロビーで一人待っていたチィルールは何気に心配だったようだ。
それから二人してロービーに飾られている水槽の中の熱帯魚みたいなのを眺めていた。
「こら。突っついて脅かせてやるなよ」
「であるか?」
「ほーら、お前たち、エサだぞう? なんてね。あははは」
「タローのほうがヒドイではないか。わははは」
水槽ガラスをツンツンしてみたり、エサをやる仕草で魚を誘ってみたりと、子供みたいなイタズラで時間を潰していた。もしかしてそのために用意されてるのかこの魚。なんてね。
「タロー・ヤマダ様ー」
「はい」
受付のお姉さんに呼び出される。
「ではコチラが支援金の五十万五千五十オクエンです。お確かめください」
「はい(オクエンって……それに紙幣じゃなくて硬貨通貨か)」
さすがファンタジー。
(金貨が五枚で銀貨も五枚それでこのちっちゃい銅貨が五十枚?)
シャツボタンサイズで薄っぺらい銅貨を数えながら、オクエンの単位構成に疑問を感じるタロー。
「なあチィルール。この世界には他にブロンズ硬貨とかあんの?」
「ないが」
「マジか? じゃあ銀貨以下の買い物はこのちっちゃなコインをバラバラさせながらするのか」
オクエンの単位を円に例えるなら、金貨一枚が十万円、銀貨一枚が千円に、そして銅貨が一円となる。
とすると千円以下の買い物はすべて一円でしなければならないということになってしまう。無論、千円出したら、おつりも全部一円玉……
「バラバラなどしない」
「じゃあ銅貨にすごい価値があるわけだ。一枚でパンが買えるとか」
「そんなわけあるまい。金貨はともかく他はこうやって使うんだ」
タローから銅貨五十枚を受け取ったチィルール、手の平に包み込んでギュッとしたかと思うと開いて見せる。そこには纏まって棒状に繋がった五センチ程度の銅貨が。
「へー。スティック状で使うモンなんだな」
「そいうことだ」
再び握り締めるとバラバラに戻っている銅貨。
「じゃあオレも、やってみる……できないが?」
「男に魔力があるわけなかろう。できなくて当然である」
「バラバラ銅貨で買い物決定……どんだけ男に厳しいんだこの世界」
「心配はいらん。大概は五十枚単位であとはそれを横に連結した百枚、それを重ねて数百枚といった形で流通しておるからな。自分でわざわざ作る必要もない。ほれこんな風ににな」
ドレスのポケットから取り出して見せてくれる。
その硬貨はスティックが横に並んで繋がって板状に固まっていた。
「棒が四本で板状にか、これで二百オクエンってことだよな」
「そうだな」
「にしても、銅なのにやたら軽いな(プラレベルの軽さ)」
「銅ではない。昔は本物を使っておったらしいが、重いから軽い合金に変更された。ちなみに金貨と銀貨は本物である」
「お、おう。なるほどな(そんなんならとっとと紙幣に移行しよーよ)」
「あの、よろしいでしょうか?」
通貨談義に夢中になって窓口のお姉さんを置いてけぼりにしていた。
「はい、すみません」
「あとはコチラが漂着者証明書カードになります」
「へー。これあるとなにか特典とか優待キャンペーンとか特別なこと出来たりするんですか?」
「いえ。まったくございません」
「……へー(表に出たら捨てればいいのかなコレ)」
「以上です。新たな世界での生活、どうぞ頑張ってください」
「はい、どもっす」
どうやらこれで手続き終了のようだ。
もう役場には用がない。
「さて、行くとするか」
「うむ」
テクテクとタローの後ろを着いてくるチィルール。
(ってことは、コイツともお別れか……)
タローは無事、独り立ちの手段を手に入れた。
あとはもう……




