チンコロリン
とあるキャラと合流するメインキャラクター達
フェリーの中。
とこゆめで持たされたお弁当を食べ終わり、二人がけのシートで寝こけているチィルールとリリィーン。
窓側に寄りかかっているチィルールの膝を枕にして眠るリリィーン。
お腹いっぱいになったあと、暇をもてあました結果である。
(まぁ、おとなしくしてくれるぶんには有難いよな)
と思いつつ向かいの席のセイヤも眠たそう。
(こいつら目を離すとなにヤらかすかわかったもんじゃねえし)
眠気をとばすよう背伸びする。
「もうすぐ到着だと思う。セイヤも眠ればよかったのに」
と隣に座っているトロイ。わざとらしく自分の膝をポンポンしている。
「う、追っ手に追われる可能性もあるのに、出発早々こいつらみたいに無警戒なんてダメだし」
「はは。これからはボクもいるし、いざとなったら頼ってくれるかな」
「それは、もちろん頼りにしてます。このパーティ唯一の戦力ですし」
「あー。うん。でもボクは情報屋で戦闘はあんまり――」
「わかっています。でも残りは戦闘力ゼロの能力者ですし。チィルールとかオシッコ漏らしながら敵に突っ込んでいくんで、オレが後ろから捕まえて逃げます。その間の時間稼ぎだけでも。ちなみにリリィーンは囮に使えるんでほっといてもOKで」
「えあ、う、うん。君は若いのに老成というかドライだよね。でも、もっとこう男の子らしくというかぁ――クールにキメるとかさあ?」
感心というか呆れてる様子のトロイ。
「カッコつけてる余裕なんてないんで。チート能力とかないし」
「マジック・エールがあるじゃないか。使いようによっては前大戦の勇者のようになれるかもしれない。そうだろ?」
「それがですね。女性の魔力を増強させるのはなんとなく分かるんですけど、余計な思念とか混ざるとなにが起きるか分からないパルプンテになっちゃうんで」
「ぱるんて?」
「なにをヤらかすか分からないヤツになにが起こるかわからないパワーチャージなんて怖くてできないですよ。ロケットみたいにオナラ噴射しながら空に飛び上がりそのまま星となって消えたとか、チィルールなら普通にありそうでウカツにできないです」
「ぶふーっ! オナラとか、それで飛ぶとかw」
「……(ありゃ。なんかウケた。トロイって下ネタ好きなのかな)」
クールなニヒルを気取っているトロイが爆笑していた。それはめずらしい光景であった。
そんなやり取りがあったあと、フェリーは無事目的地に到着する。
二人を起こして荷物の確認。それから下船準備。
接岸の後、船首の前部が岸に降ろされタラップとなり乗客達はそこを伝って船を降りていく。
船体から出ると視界が広がり、岸に集まった出迎えの人々の様子が見えてくる。
(けっこうな人の数だな。この中から会ったこともない知り合いの知り合いとコンタクトできるのか?)
セイヤの不安。だがそれは次の瞬間木っ端微塵に吹き飛ばされた。
「おーい! おーい!」
と一際大きな声を上げている犬系獣人族のおっさん。
しかもドデカイ応援旗みたいなのを振り回している。そしてそこに描かれている言葉『チィルール殿下ようこそギギギガへ♡』とかデカデカと書いてある。
(アレかー! でもさー、オレ達はお忍び行脚中なんだぞ? あのおっさんアホなのか?)
「おー盛大な歓迎ではないか」
「お前もアホか。追っ手に狙われてるからウラをかいて迂回しているんだぞ。あんな盛大に居場所を宣伝してどーする?」
よく分かっていないチィルールを注意するセイヤ。
「そうだったか。でもしかし――」
「いいから、無視しろ。相手のことは認識したから、後で人気の無い場所を見計らってこっちから合流すればいい。いいな」
セイヤは残りのリリィーンとトロイにも注意をうながす。
二人とも無言でうなずいている。どうやら理解された模様。
「殿下ー! ギイ・グーグーです。ギイが参上したしましたー! チィルール殿下ー!」
「……」
大旗を振り回しているギイ。
無視するセイヤ達。
「ギイってあの中央政府議員の?」
「あの人、行方不明じゃなかった」
「死んだとか」
「いや、ちょっと前に無人島で遭難してるのが見つかったってニュースやってたよ」
まわりの人が彼の噂話。それなりの有名人らしい。
ただでさえ注目を浴びるそんな人から大声で名指しされる、お忍び行脚中の姫君『チィルール』。
「姫ー! 姫殿下! 不肖わたくしめの息子二人も殿下の到着を待ちわびておりましたー!」
「チィルール様ー!」
「でんかー! ひえでんかー!」
ギイの隣でやはり「☆wellcome☆」とか「かんげい!」とか書かれた手製の旗を振っている二人の少年が目に入る。一人は中学生くらい。もう一人は小学生低学年くらいの子だった。
「セイヤ……かわいそうだ」
「いいから」
心にいたむものがあるのは承知のうえで無視を続け、人ごみに紛れたまま彼ら親子を通り過ぎていく。
だがである。他の乗客はみな獣人なのにたいして、セイヤ達は人族、おまけに一人は妖精族のハーフとくれば目立つのは当然であった。
旗を振りつつもギイの視線はセイヤ達を追ってくるのだ。
「おい、見てる。じーっと見てるぞ」
「そっち向くな」
じーっと横目で疑惑の眼差し。完全に疑っている。間違いない。
「チィルール姫ー! ようこそー!」
「チィルール様ー!」
「でんかー! ちーるーるでんかー!」
さらに三人の雄叫び。
「オイ、あんなに必死に私のことを」
どうにもチィルールは慙愧に耐えない様子。
だから仕方なくセイヤも知恵をしぼって、チィルールに向かって、こう告げた。
「おい! 今から五分だけの間、お前は『チィルール』じゃなくて『チィーコ・チンコロリン』だ。いいな!?」
「なぜか?」
「ぶーっ! そ、それは、あんまりに、あははははははw」
そのやり取りに反応したのはトロイだった。
やっぱり下ネタ大好きだった。
トロイの爆笑につられてリリィーンもゲラゲラ笑い出す。
顔が真っ赤になったチィルール。
「な、なあああ! 私の名は『チィルール・ロクドル・オクエン・ヨシモト』だーっ!!」
絶叫で名乗りを上げてしまった。
「あああ。もう」
向こうから、ニヤリ顔でしてやったりとうれしそうな顔をしたギイが旗を振りながら息子達を引き連れダッシュで近づいてくるのだった。




