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ギャラ発生

過去回2です。


 出港した貨物船を見送るアリスとローリィ。

 船にはタロー(セイヤ)とチィルール、リリィーンの三人が乗り込んでおり、これからセンエン国へと密航していくのだ。

 その船を水平線の彼方いつまでも見送っているマフィアの首領ドンアリス。

 だが彼女は別にタロー達との別れを名残惜しんでいるわけではない。

 部下のリリィーンに旅の無事を願って渡した自分の愛刀『銀河小鉄』との別れを惜しんでいるのだ。

 それには参謀ポジションのローリィも呆れてしまう。

 仕方なく彼女は前にアリスの目前にチラシを差し出す。

 それは刀屋さんの得売広告。

 糸目なのにキラキラした輝きをまとった目でローリィに視線を返す。

 ウンとうなずき返す。

 ピョンピョン飛び跳ねかねない勢いで刀屋さんの方向を指し示し、いてもたってもいられない様子。

 ヤレヤレといった感じで目的地へと歩みだす。

 隣を歩くアリス。ちょっとスキップ気味。

 そのうかれた様子をたしなめるべくお尻をパッチーンと叩く。

 途端アリスはマフィアの首領ドンとしての威厳を取り戻すべく背筋をまっすぐに伸ばし、歩幅も大股で緩んだ顔の筋肉も引き締めなおすのだった。

 でもストレートロングの黒髪の先端はすこしだけピッコピッコしているのだった。


 目的地の刀屋さんに到着。開店時間ピッタリだ。実はまだ早朝だったので近くの喫茶店で朝食を取り時間をつぶしてから来たのである。

 中に入る。店内は武器屋らしく無骨な雰囲気。

 開店したばかりであるから客は二人以外に誰もいなかった。

 そして二人を値踏みするかのようなしかめっ面のオッサン店主が一人、新聞を読みながらレジカウンターの腰掛に座っている。いらっしゃいませの言葉すらない。

 照明は棚上段のガラスケースに飾られた高級な刀の一部にしか当てられておらず。その他の刀は倉庫然とした店内の薄暗い闇の中で重々しい気配をかもし出している。

 アリスのお目当てはもちろん上段に飾れた金ピカに装飾された高級品。

 だがその値札金貨三十枚三百万円相当。

 隣に並んだローリィは首を横に振っている。

 だから隣の棚に移動。

 各棚にはそれなりの業物が並んでいる。

 値札金貨十枚百万円相当。

 再び首を横に振る。

 露骨に仕方ないなぁといわんばかりの表情をアリスは浮かべながら、さらに隣の棚に移動。

 値札金貨一枚前後の刀がテーブルに並べられていた。

 だがこの範囲こそアリスも本命。

 自分はここまで妥協したのだから、この中で一番いいものを、という計略であった。

 ウキウキの気配を悟られないよう慎重に刀を物色始める。

 だが無常にもローリィは首を横に振ったのだ。

 そして彼女が指差すのはさらに隣に置かれたワゴン。

 その中に無造作に山積みされた刀達。

 セール中銀貨一枚(千円相当)と書かれた派手で場違いなポップがジャンク感を引き立たせている。

 アリスはポカンと口を開きローリィへと視線を送ったが、彼女はにこやかな表情で大きくうなずくのみであった。

 仕方なく、ふてくされ顔で面当てがましく刀の物色を始める。

 その中から取り出した一本。抜いてみる。ギギギとなにかを引きずる感触。刀身が錆びていた。

 ローリィの目前に突き出して見せる。

 だが彼女は次を探せとばかりにワゴンへと視線を向けるのであった。

 なかばヤケっぱちで数本抜いてみていたのだが、その数本目に思わぬ獲物を発見。鞘も柄も木製ではあったが、その刀身の見事な刃文。ワゴン商品にしてはなかなかの業物。

 覗いたローリィも納得でうなずく。

 だが当のアリスはまったく気に食わない様子。

 なぜなら鞘に焼印されたその文字。

 それをローリィに見せる。

 『まぐろ丸』と刻印されていた。

 これ武器の人斬り刀じゃなくて、まぐろ解体用の包丁刀だわ……

 ワゴンに戻そうとしたそれを横からローリィが手を伸ばし、無常にもそれを持って店主の方へと――

 泡を食ったアリスは大慌てでその包丁を取り戻そうと必死にしがみつく。

 当たり前である。

 マフィアの首領ドンが腰からまぐろ包丁を携えて往来を練り歩くなんてカッコ悪すぎる。きっと影でみんなから指を指されて笑われるに違いない。

 瞳に涙を浮かべ首を全力で横に振り、全身全霊をもって必死にイヤイヤするアリス。帰りたくナイーヌばりのイヤイヤっぷりであった。

 そのおかげでどうにか許してもらえる。

 だから今度はそれよりもマシな刀を必死になって探すのだ。

 だがそれこそがローリィの計略であった。もうアリスは高い刀の方には目もくれずにバーゲン品の刀を漁っているのだから。

 アリスの背後でニヤリと歪な笑みのローリィ。

 ゴミクズ刀の中からなんとかマトモなものを必死に探しているアリス。

 だがそのマトモなモノ自体がない。折れているか錆びているか曲がっているかのどれかであった。

 そして最後の一本。バーゲン品にしては鞘も柄もそれなりの風格を感じる一品。

 だから逆にあてにできない。そんなものがこの中に混じっていること自体が不自然なのだ。

 そしてその予感は当たる。

 抜こうとしても抜けない。完全に錆びついて刀と鞘がくっ付いているようだ。

 だがである。そうなるともう、まぐろ丸しかなくなってしまうわけで。

 それだけは避けたいアリスちゃんは頑張った。全身全霊の力と魔力を振り絞り、神に願いをも込めて抜刀にかけた。

 そしてそんな可哀想なアリスちゃんに神様は同情したのか、その刀はガリガリギィギィときしんだ音を響かせながらついには抜けたのであった。

 その刃、予想通り完全に錆びていた。

 ところがだ。錆の隙間から赤い光がこぼれている。

 その刃の異様なたたずまいはアリスとローリィのみならず、店主までも身を乗り出して様子をうかがっていた。

 アリスはその刀に魔力を注いだ。反応する刀。赤茶けた錆が一気に消し飛び、その本来の姿を曝け出した。

 美しい刀であった。一直線にくっきりとした刃文の見事さもさることながら、その刃文が薄い紅色に発光して揺らいでいる。

 ただの刀でないことは一目瞭然明白だ。魔力を自身に帯びた妖刀魔刀の類い、それは滅多にお目にかかれない超級品だ。

 これに一番慌てたのはこの店の店主である。錆びついて抜けない店頭展示用にしか使えないお飾り刀だと思ってワゴンセールにぶち込んだのだ。それなのに実は名刀名品超級の業物だったのだ。

 店主慌てて売り場に出てきて脚立に飛び乗りジャンプ。

 一番高い場所に展示してあった高級刀に手を伸ばし、ガラスケースを開けるもの手間だとばかりに叩き割り、ソレを掴むと転倒しながら着地した。

 そして這いつくばりながらアリスの前へ参上。

 卑下た笑みを浮かべながら手の刀とアリスの持った刀を交互に視線を巡らせる。

 だがアリス、ローリィともに断じてノー。

 ズイっと突き出し哀願の様子。

 だが決してノー。

 さらに金貨十枚を取り出し付け足した。

 しかしノー。

 睨みをきかせた顔で絶対にノー。

 代わって銀貨一枚を突き出される。

 青ざめた店主の頬を伝わる一筋の涙。

 差し出された銀貨一枚をワナワナと震えながら受け取る。

 さらにである。

 ローリィが店主に店のチラシを突き出してきた。

 チラシには「このチラシご持参の方一割引」の文字が……

 もう笑ってた。

 最初しかめっ面だった店主が愉快そうに泣きながら笑ってた。

 清算が終わり二人が店を出た後も、わざわざ入り口まで見送りに店主が出てきてずっと手を振り続けていたのだった。

 

 港の駐馬車場まで歩きの二人。

 抜いた刀を振りかざしご満悦のアリス。刃文の紅色が美しく揺らぐ。

 

「決めた! この刀の名は『幻火三日月』だ」


「アリスちゃんって相変わらずバリバリの中二センスよねえ」


 ギャラ発生、とかコメントされたい。


 

次回は時系列戻ります。

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