もうコレしか方法がねえェェ
過去回1です
話は少し前に戻る。
それはまだセイヤが自分のことをタローと名乗り、追っ手に襲われる前の『とこゆめ』でノンビリ過ごしていた時のことである。
深夜、中庭で刀を構える者の姿が月夜に映し出されていた。
その者以外に人影はなく、一人庭中央辺りで刀を素振りしている。
と言えば研鑽している立派な剣士にも思えるが、実は違う。
だってその者とはリリィーンであったし、刀を素振りとは言ってもキメポーズを模索しているにしかすぎないからである。
(キメ台詞は『今宵我が剣は、ノドが乾いている』じゃなくて血が飲みたいとかナンとかだったけ? ダサいよなあ。他にもっとカッコいいのはないかなあ)
マフィアの首領アリスから預けられた名刀『銀河小鉄』を持ち出し、キメポーズの開発に余念のない彼女のことはある意味もっともリリィーンらしいといえる。
だが彼女はまだ幼いにわかの剣士である。
それなりの重量がある刀を振り回していれば握力がだんだんとなくなってくるのだ。
そしてついに刀は手からスッポ抜けて月夜の星空へとヒュンヒュン回転しながら舞い上がる。
「はぅあっ! 首領のお宝、銀河小鉄に傷でも付けようものならああー」
何ができるわけでもないのに抜き身で回転している刀を追いかける。
「岩ああああ!」
落下地点に大岩。
カッツーンと音を立て握り手の柄の頭で直立した銀河小鉄。
刀身は無傷である。
「よ、よかった」
ひと時の安堵。
だが刀は重力の力に従い、切っ先を下に向けて大岩の肌を滑り落ちてくる。
「ほげー」
命の危険に咄嗟に反応。ジャンプしてそれをかわす。
のはよかったのだが、地面と大岩の間に立てかけられた状態になった銀河小鉄。その上にジャンプしていたリリィーンの身体が上側になった刀の側面上に――
運動神経が良ければ上手にかわせていたかもしれない。でもリリィーンは所詮リリィーンだったから、両足を揃えて刀身に圧し掛かり、グニニっとたわんだ刀身も限界を越えボッキリと真っ二つー。
もうこの名刀をへし折るにはこの方法しかねええ! といわんばかりの按配具合だった。
「ひゅひゅーーーー!」
声にというか音になっていない悲鳴。
その高周波音に反応した付近の犬達が次々に遠吠えを始める。
「はひゅ?はひゅ?はひゅう?」
バクバクと脈打つ心臓。
折れて二つになったソレを震える手で重ね合わせるも、元には戻らない。
すこし知恵をしぼる。
折れたところにツバを塗って――くっつかない。
まあリリィーンの知恵だとそんなもの。
だが彼女にも今まで生きてきたうえでの経験がある。
過去幾度も積み重ねてきた失敗の実績が。
だから折れた刀身を鞘に滑り込ませ、さらには柄も収めこむ。
そして何食わぬ顔でその場を立ち去ってしまうのだ。
『えー? なんでー? 私分かんなーい。誰のせーい!?』
この台詞で大体はピンチを切り抜けてこれたのだ。
今度も間違いないはず――と思っていたら……
「はひゅーーー!」と再び超音波悲鳴。
誰もいないと思っていたその場に人影があった。
建物本館の二階のテラスからこちらを眺めているその人物。
紛れもなくタロー(セイヤ)そのものであった。
(み、見られてた!? あわわ。よりにもよってタローにっ!?)
なんかコチラを眺めてるその表情。
ウンウンと何かを納得したかのようにうなずき、その生暖かい目線が全身にまとわりついてくるよう。
「あわわわ……」
隠せない動揺。
それすらも全て見越したかのように、タローは『ニヤッッコリ』とリリィーンに微笑みかけながら、その場を後にして姿を消したのだった。
「はっひゅうーーーー!」
その悲鳴に獣達が呼応して遠吠えをあげた。




