宴
これから宴が始まる。
それはこの館の主の復帰祝い兼、災害復興の証を意味する宴だ。
災害以降、皆まともな食べ物を口にはできていなかった。
それがようやく今日、久々にまともな食事、いやソレを通り越したご馳走が食べられるのだ。
漁を再開した漁師達から届いた海鮮珍味。復旧した街道から平時にはいつも通りに運び込まれてきていた各地の名産品が今再び。
とこゆめに運び込まれていた怪我人達も軍が設営した傷病施設に運び込まれ、適切な治療がおこなわれている。
ここは明日からにでも営業が再開できるほどにまで回復したのである。
「みんな! 大変だったけど、私達よくやったよね!」
グラスをもったロッカが部屋に響き渡る声で発声。注目を浴びる。
「おぉうー!」
「張本人のレデーットも元気になったし!」
「なにが張本人ですやっ!」レデーットのツッコミ。
「わははは」と部屋に集まった者達から笑いが起きる。
「みんなグラスは行き渡ったかな? 乾杯できそう?」
「がやがや」
「それじゃ、準備して。いくよー。レデーットの快気と、とこゆめの復旧に……ゴクゴク――」
グラスの酒を飲み干すロッカ。
「コラー! 乾杯の前に飲み干すなー!」とトロイのツッコミが入って――
「かーっ、かんぱーい!」
「あははは! 乾杯!」
「カンパーイ!」
みんなも酒を煽り始める。なんのことはない、ロッカが音頭で先に自分だけ飲み干すのは定番のギャグだ。いつもならレデーットが突っ込むところで今回はトロイが、でありこれが定例である。
そしてメンツの中には満面の笑みにもかかわらず涙ぐんでいる者もいる。
なぜなら本当にいつもの様子が戻ってきたのだ。こんなの、うれしいに決まっている。
「みんな飲んじゃえー! どうせ明日は開店休日だー!」
「わはははー!」
災害直後で誰も店に来ないことを把握したうえでのロッカの不謹慎発言。
眉をひそめながらも笑顔のレデーット。
文句を言おうとしたものの、会場の空気を読んで大人しくするトロイ。
そんな様子も全部含めて宴会の騒ぎが盛り上がるのだ。
「初っ端から盛り上がってるな」と冷静なセイヤ。
部屋の中央に料理の載った大きなテーブルがふたつ。ここから各自料理を選りだすセルフのバイキング形式。お座敷なのだが席は決まっておらず、座布団みたいなクッションの上にみな座っている。立食パーティならぬ座食パーティとでもいうかのスタイルであった。
「面白い形式のパーティだな」
料理を載せた皿からフォークで肉団子をモグモグしてるチィルール。
お膳みたいのが散らばっており、そこに皿を載せていいみたいだ。
「コレおいしい。なくなる前にもっと――」
そう言って皿に山盛りに料理を盛って来るリリィーン。
「わー、いるよねこういうヤツ。お前、それ食べきれるのか? だいいちマナー違反だし」
「食べるし」
「ふーん。コッチのコレとかもスゲー旨いんだけどな(納豆みたいな味で懐かしい)」
「……」
「それ食べたらお腹いっぱいでもう食べれないかもな」
「……」
「リリィーン。こういう形式のときは少しずづ試してみて、そこからお気に入りを選ぶのがコツだぞ。ほらソレちょっと寄こせ」
「チィ様ぁ」
そう言うだけあってチィルールのお皿はオードブルを乗せたみたいに綺麗に少しずつ盛ってあった。さすがは一国のお姫様、パーティ慣れしている。
その皿の上にドンっと料理を全部移し変えるリリィーン。
そして再び、セイヤの言っていた料理を取りにいくのであった。
「……」
困惑の表情。
無言の後、その皿をセイヤのほうに向ける。
仕方なく、ソレをフォークで摘まむ。
「はいはい。――お、コレ旨いぞ」
「ナニ、私も――本当だ」
「アワビと牛肉を合わせた様な味で食感も似てる。青味があるワサビみたいな香草のチョイスも絶妙だな。まるで肉と貝の刺身のいいとこ取りだ」
「なんなんだろコレ」
「あはは。それはキノコだよ」
そう言って場に入ってきたのはトロイだ。
「ゲッ! キノコか。でも。うーん。なるほど。この旨味と食感はあり得るな」
「ウゲ! キノコぉ。私は苦手だが、こんなに旨いものもあるのか」
「あるよ。このセンエン国西地方の特産品でこれは一級の名品だしね。キノコ苦手なの?」
「いえ。コレは、おいしいです。なあ、チィルール」
「うむ。よいな、コレは。――うんコレはな、良いぞ」
セイヤとチィルールは森で遭難中、食べる物がなくなった時に仕方なく口にしたキノコでラリパッパして、天国風景の地獄を体験したことがあるので。
「持ってきた」
さっそうとリリィーンが帰還。
やはり料理が山盛りになった皿を携えて。
「いただきまーす。モグモグうんうん――ん? コレ、おいしくなーい! 臭いー。キラーイ」
皿をコッチに突き出してくるリリィーン。
でも今度は誰も反応しない。
チィルールの皿に載ったおいしい料理をつつく三人。
「なんで?」
「ふざけんな。お前、ちゃんと責任持って食べろよ?」
「学習という言葉があるのだが、いや、なんでもない」
「ボクもソレ苦手」
「なんでーぇ!」
そんなやり取りもかまわず、宴は盛り上がってくるのでした。




