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我・認識・悪・滅・蘇婆訶(ソワカ)!

それはよせオレに効く


「レデーットさんが?」

「うん。息を吹き返したよ」


 レデーットが意識を取り戻したことをロッカから聞いたセイヤ。

 ロッカはショートボブヘアの愛嬌あるエルフの少女(百十ウン歳程度)だ。レデーットとは幼い頃からの付き合いである。


「息吹き返したとか言うな! レデーットは死んでないダロ!」


 不謹慎なロッカの発言にキレたのはトロイ。

 トレンチコートとゴーグル、それにベレー帽がトレードマーク。

 普段はクールでニヒルを気取ってはいるが、なぜかロッカの前では地が出てしまう。

 いやロッカ自体が人をクッたイタズラっ娘まんまなので誰でもそうなってしまうのではあるが。それにしても相性が悪いのは、トロイの恥ずかしい過去を知っている幼馴染のせいもあるかもしれない。

 そしてレデーットだが、能力を発動させ天変地異レベルの戦闘をやらかしたものの敵に敗北。

 ロッカ達に救出された時分は神経が高ぶっていたせいか何事もなかったが、我が家である『とこゆめ』に戻った途端、意識を失い盛大にぶっ倒れたのであった。

 全身の打撲と火傷、骨も満遍なくヒビが入り、内臓にもダメージがあり内出血で機能低下の重症だった模様。ロッカの言う『息を吹き返した』もまんざらである。


「お見舞いにいってもいいかな?」

「いいと思うよ。レデーットもあの後のこと直接聞きたいと思うし」

「ですよね……」


 セイヤの浮かない顔。なぜならレデーットをそんな目に合わせたのは他でもないセイヤの現実世界での恋人「キラリ」であったからだ。厳しい話になるかもしれないということはセイヤも分かる。レデーットにはお世話になっていたのだから。


「我々エルフはお前達ヒトと変わらない容姿だが年齢は離れている場合が多い。ハーフエルフの私からみても、お前達はまだ子供レベルだ。だからそんなに心配する必要はないと思うぞ」


 トロイが言った。顔が隠れているので表情は読めないが、照れているような口調だった。


「やっさしいー」

「うるさーい」


 茶々を入れるロッカ。それに対応するトロイの様子からして勇気付けてくれようとしたのは間違いないとセイヤも分かった。


「つれて行ってください」

「ああ」

「うん」


 二人につれられてレデーットの寝床に。


「レデーットぉ、起きてる?」


 適当に声をかけながら返事も待たずに障子ドアをスターンと開け放つロッカ。

 

「なにをしてるんだい?」


 入り口脇に立ったままのセイヤに声をかけるトロイ。


「女性の寝床にいきなりは?」

「ふふ。紳士だね。君は」

「ええ?」


 戸惑うセイヤ。

 それを受けてレデーットから「どうぞ」との言葉。

 従い、入室する。

 部屋の中央、畳風の乾燥草の編みこみ絨毯の上に寝台がある。材質は大理石のような石材だ。布団も敷かずに直接石の上にレデーットは横たわっていた。光が透き通る絹のような薄布が掛けられた下は寝巻き着物姿だった。

 そしてひどく疲れている様子。


「どうぞそのままで」


 起き上がろうとするレデーットの気配を察知して先にそれを制止する。


「すまないね」

「いえ! それは、オレのほうがでっ、あの、申し訳ありませんでした」


 そこまでするつもりではなかったのだが和風な部屋のせいで土下座するセイヤ。


「なにがです? 頭をあげてください。あなたに責任はないでしょう?」

「でもオレ達が来なければこんな。それにレデーットさんが闘った相手は元の世界のオレの恋人だったんです」

「ヤレヤレ君らをここに連れてきたのは僕なんだがね。僕に責任あるのかい?」


 トロイが口を挟んだ。


「そんなことは――」

「誰に責任があるかとすれば、それは巡る運命にではないかな」

「くっさ」とロッカ。

「つ、お前ー、茶々いれていい空気じゃないだろー」

「じゃあもおトロイのせいでいいじゃん。はい、おしまい」

「あー! 僕が打ち首になればいいのかよ? 問題解決か? なんなんだよ」

「まあまあ、お二人さん。漫才はそのくらいでやめとき」


 レデーットに仲裁されるもニヤニヤ笑いでそっぽを向くロッカと憮然なトロイ。


「物事の責任なんて誰かのせいにしようと思えば、それこそ三丁目の田中さんちのニートの息子のせいにだってできるもんです。元よりそんな野暮する気はありません。自分で判断して自分が行ったことでやす。私が、この「とこゆめ」の主人がお客様を守るためにやった、ただそれだけのことなのです」

「あ、客、そうだお金、払わないと」

「大丈夫です。護衛オプション付スーパーVIPコース、料金はちゃんとトロイにつけております」


「フッングッ!」


 鼻から息を噴出したトロイ。


「……あ、ああ。任せてくれたまえ」


 とカッコよく答えるが、その声微妙に震えていた。


「ありがとうございます」


 セイヤの言葉はこの場みんなに対しての想いであった。

 責められるわけでなく、全員が自分のことを気遣ってくれたのだ。

 冗談めかした空気でもちゃんと割り切った理屈を示してくれた。

 背負っていた重荷を下ろさせてくれたのだ。

 セイヤは土下座をやめて深いお辞儀をした。

 でもそうなって落ち着いてくると、今度は気になることができてくる。


(レデーットさんの言葉がへんだ。というか普通で、訛っていない。丁寧な口調だから訛りがでないのか?)


 京都弁と花魁言葉が混じった変な訛り言葉がなくなって標準的な言葉使いになっている。最初から気にはなっていたのだがそれを言い出せる雰囲気ではなく。


「レデーット、口調。普通に戻ってるよ」


 とロッカの指摘。さすが空気が読めないというか鋭く読み過ぎというか。

   

「さすがにこの状態ではキャラをつくる気もおきないですよ」

「根性ないなあ。せっかくトロイの真似してたのに」

「百年で訛ったのかと思っていたが、でもどこが僕だったんだ?」


 ロッカがシュタッとポーズをキメる。それは右手で右目を隠し、その肘を左手で覆うポーズ。


「我、救済す、世界を――」


 文章で読んでもさほどだが、口に出すとこれほど恥ずかしいセリフもそうあるまい。


「我、開眼、救世、悪滅、蘇婆訶ソワカ!」

「やっ! やめろーぉ!」


 昔の自分の物真似をされたトロイがロッカを羽交い絞めにした。


「当時のトロイは気合入ってましたなあ。そのポーズを保ったまま崖を滑り落ちて川にドボンと突っ込んでもそのままの格好でしたし」

「レデーット! お前も黙れー!」


(痛々しいまでに中二病患者だったんだな。トロイって)

「セイヤ、違うんだ。こいつらフザケてて!」

「わかってますって。そんな大慌てで否定されても逆効果ですよ?(この人達、仲いいなあ)」

「あ、うん。うむ。そうだな」


 取り繕うトロイ。


「セイヤ、あとでじっくり話し合おう」

「べつにいいです」

「ぅぅぅ――」


 なんの話だったっけ。


 

「けだものプレイヤー ポコル」との二本だてなので更新遅めです。

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