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13.異世界漂着者の試験


「どうぞ、こちらに――」

「失礼します」


 コーギーという名の鑑定官に促され、その部屋に入室するタロー。


(鑑定って、オレは肛門でも観察されるのだろうか?)


 それはヒヨコの話である。

 でも小難しそうなコーギーがヒヨコを鑑定してる絵面はちょっと面白いかも。


「そちらの席に腰掛ください」

「あ、はい」


 尋問されるつもりでついて来たはずだが、その部屋はいたって普通の小さな事務室。

 座らせられたのは硬い椅子でもなく、やわらかな接客タイプのソファー。

 テーブル越しの対面に座るコーギー。

 

「ではさっそくですが、こちらのレポートをそれぞれ読み上げていただけますか?」

「はい。(セーフ、肛門検査なかった)」


 渡された数枚の紙。


(なんだコレ? イロイロな言語で書いてあるけど?)


 タローの知る限り、その数枚の書類には英語や日本語、ハングルにアラビア語? など、それぞれ違う文面が記載されていた。


「どうかしましたか?」

「いえ、これ、なんだか……」

「読めませんか?」

「あ、いえ、いくつかは読めますけど……」

「では、取りあえず、これを読み上げてください」

「え、はい。あー、ハロー ウエルカム ファンタジ? えーと、パープルクレイジーポケットモンスター、ファック、ブウウウ、マザーファッキンアスホー……この英語のはパスで……」


 その紙には英語のスラングまみれの表現が続いていた。


「ではコチラは?」

「これハングルです。まったく分かりません。でも、ココの部分は日本語で『おかわり』と書いてありますね」

「……では、次はコチラです」

「アラビア語? 読めませんけど、この部分には日本語で『友好』と書かれています」

「ほほう? では次に……」

「あー、これは日本語です。えーと『初めまして、こんにちわ。今、あなたは不安に思っているかもしれないけど、大丈夫。この世界の人々はとてもやさしいです。だから安心してください。きっと友達や仲間があなたを助けてくれます。 쪽발이 くじけないで頑張ってください……』お、ふう……」

「なるほど……」


 タローがそのメッセージに感動している様子を鑑定官はウンウンと眺めていた。


「あの、次は……」

「いえ結構。どうやらあなたは間違いなく異世界からの漂着者で、しかも、日本人ですね」

「はい。それはそうですが……なんで?」


 なんでこんなので納得できているのか不明だ。

 だって日本語が読めて外国語がよく分からないなんて普通のコトだ。

 それで日本人判定だなんてユルユルすぎる。


「フフフ、簡単な話しですよ。なぜならこの世界の人間にはこの書類に書かれたことは全て認識出来ているということです」

「はあ?」

「あなたが読めないといった文書も我々は全部読めるということですよ?」

「そりゃまぁ……、あ! そういうことね」

「我々は異世界人(現実からの人々)との間に言葉や言語の壁はありません。そして見た目も何も変わりません。ですから我々現地人の誰かが漂着者に成りすまして支援金を騙し取る可能性もあります。ですがこの方法で邪な輩を排除できるわけです」

「なるほどなー、だから所々異言語を混ぜるフェイクもあるわけだ。でもそうだとしたら、異世界人(現実からの人々)同士では言葉は通じないということですか?」

「理解が早くて助かります」

「へー。それでこの試験で区別が出来るんだ。上手いこと考えたもんだ」

「あなたは合格です。後ほど証明書を発行します。先程の待合ロビーでもうしばらくお待ちください」

「はい。(うわ、簡単に済むんだな)」

「では――」

 

 どうやらタロー、試験に合格のようだった。


「あ、すみません。もうひとつ質問があります」

「なんでしょう?」

「元の世界に戻る手段はあるのですか?」 

「申し上げにくいのですが……」

「そうですか。じゃあ、過去にそういった人が存在するとか――」

「それこそ我々には知りかねぬ事であります」

「あ、そうか。我ながら間抜けなことを」


 漂着者が再び行方不明になる事件はあるかもしれないが、それが元の世界に再び転移したからかどうかなんて確かめようもない話だ。


「いえ。ああ、そうだ」

「なにか?」

「そうではなく。ただこの街ににも漂着者、しかも日本からの方がいらっしゃるのを忘れてました」

「日本人!」

「そうです。しばしお待ちを。地図を――」


 手書きの地図を渡されるタロー。

 そこには『喫茶 漂着者』との印が。


「その者はまったく話題にならなかったので忘れておりました。もしアテがなければそちらを頼ってみられてはどうでしょう」

「はい! 助かります。ありがとうございました(ん? 話題にならなかった?)」


 異世界で始まる新しい生活。それは現実で一人暮らしを始める以上に何も分からない不安な話であったが、すこし希望が見えた気分で待合ロビーに戻るタローであった。



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