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取り戻せない過去


(この世界が昨日、終わったわけでもない。新たな時は前に進んで行く。すべきことはまだたくさんあって、目の前のことに囚われて立ち止まるわけにもいかない。すべてはまだこれからなんだ)


 災害にみまわれた街の様子にショックを受け、すべてが終わったかのような気にでもなっていたセイヤ。

 けれどチィルールや子供達の様子を見て、疲れた心はすこし癒されたのだ。


(チィルールを無事に国に帰してやらなきゃだし。でもチィルールの国との連絡がうまくいっていない。いや自分でなんとかしなくちゃならない。色々な思惑で動く国際政治的な問題があるから、特定の行政支援をあてにするのはヤバイかもしれない)


 事は戦争が目前に迫っている状況である。

 うかつに誰かの指示で動くと罠にはめられる可能性も。

 とはいえこの異世界に精通していないセイヤは独断で動くこともできない。


(チィルールはあてにならないし。だってこの事態の元凶はアイツの迷子からだしなあ。レデーットさんの回復を待って、それからトロイにも相談してみよう)


 この世界にやってきてそれほど長い時間はたっていないが、それでも色々な出来事をへて巡り会った頼りになる仲間達もいるのだ。

 

(そーいや、こんなヤツがもう一人いたな。あーァー)


 そう、元マフィアの構成員にしてトンファーの使い手、そのミニ四駆がごとき動きで魔物達をバッタバッタとなぎ倒した素敵なチンチクリン、その者の名は『リリィーン』。

 その彼女がセイヤの視界に入ってきた。

 裏口の土間に靴も脱がないままで腰掛けている。

 小さく丸まった背中。その後姿は、なんだか悲しそう。

 

「リリィーン、どうした? さぼってんのか? ってなわけないよな」

「……」


 後ろからかけたセイヤの軽口も通用しなさそうな雰囲気。


(街の復興手伝いに出させたけど、結構キツイこともあるんだろうな)


 街の被害なんて私には関係ないといった素振りだったリリィーンを、復興手伝いに参加させたのはセイヤである。無論、セイヤが強制しなくてもこの状況で食っちゃ寝なんて許されるはずもなくだが、呑気な彼女にはよい社会経験になるはずであった。


(薬が効きすぎというか、刺激が強すぎたかな)


 ここまで落ち込んでいるのを見ると、自分には責任ないにしても後ろめたい感じはするのであった。


「みんな、いっぱい、死んでた」

「そうだな」

「みんな、泣きそうな顔で、いっぱい、頑張ってた」

「そうだ。頑張ってる」

「いやだ。こんなの。もうイヤ」

「……」

「帰り、たい。みんなのトコへ、帰りたい……」

「リリィーン……」


 元々はマフィア「血染めの天秤」の末端構成員に過ぎないリリィーンであったが、首領ドンの直々の命によってセイヤ達の護衛兼付き添い案内に任命されたのだった。

 本人の意思によって仲間になったわけでない彼女にとっては、とんだとばっちりだと感じているのだろう。

 丸まった背中がさらに小さくなったかに感じる。

 すこし震えているのは、泣いてるせいかもしれない。 

 そばにしゃがんで様子をうかがうセイヤ。

 二人きり、切なさと悲しみに満ちた空間――

 

(普通ならコイツの肩を抱き寄せるとか、後ろからハグするとか? 童貞ならそう思うかもしれん。だがアニメや漫画じゃあるまいし、オレとコイツの関係でそんなコトしたらチカンだの変態だの大変な騒ぎになること必死!)

 

 アニオタの童貞ではないセイヤの危機管理能力には侮れないものがあった。

 ゆえにあえてリリィーンの頭を叩く程度の強さでポンポンするのだ。


「元気だせー」(あくまで男扱い、いや後輩とか男の子を励ます感じでゆく)

「……」


 セイヤをうかがう無言のリリィーン、その表情。


(うわぁ、コイツ、落ち込んでる女の子の励まし方も知らないとか。童貞だな、間違いない……とか考えてる顔してんなリリィーンのヤツ)


 とセイヤは思った。


「リリィーンが頑張ってるのはみんな知ってる。だから、帰ってもいいんだぜ?」

「タロー……」

「タローじゃないセイヤだ」

「セイヤ!」


 キラキラした表情に変わったリリィーンに続けるセイヤの言葉は――


「銀河虎鉄だっけ? 首領ドンの金色蛍さんから渡された刀って」

「はあぅっ!」


 旅立ちのとき、マフィアの首領ドンで金色蛍の異名をもつアリスから手渡された名刀『銀河虎鉄』。

 

「ソレを持って行くがいい。そして必ず無事に戻って来て私に返すのだ。いいな?」


 と首領ドンのアリスはリリィーンに告げた。

 感動的な絆の証、そのドラマチックな旅立ちの情景よ。

 だがその刀『銀河虎鉄』は旅の途中、無残な最期を遂げたのであった。

 リリィーンの前に立ちはだかった強敵に自前のトンファーは役に立たず。その時、手にした『銀河虎鉄』。「首領ドン、私に力を!」使い慣れない刀を駆使し、強敵を倒したリリィーン。だが、勝利とは引き換えに『銀河虎鉄』は無残な姿に……なんてことはなく。

 突然あらわれた強敵、その目にも留まらぬ一撃にリリィーンは絶体絶命のピンチ。だがその時、たまたま『銀河虎鉄』が彼女の身代わりとなり砕け散り、リリィーンは一命を取り留めることができたのだ……ということもなく。

 地面に転がしたソレを、うっかり踏んづけてボッキリへし折ったのが事実である。


「帰っていいんだ。仲間のみんなや優しいシスターのところに、な?」 

「おま、おま、おままままままま」


 首領ドンのアリスは刀マニアだ。その一番のお気に入りをポッキリいったリリィーン。


「ん? どうしたリリィーン」

「接着剤、接着剤、うーんと凄い接着剤、どこかに接着剤、スゴイ接着剤……」


 ぶつぶつとなにかを呟きながらヨタヨタとどこかに向かって歩いていく、その真っ青なリリィーンを見送るセイヤ。


「よかった。いつものリリィーンに戻ったみたいだ」


 安堵するセイヤであった。


 

以前よりフザケンナー力が強まってます。

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