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再び始まる

久方ぶりです。

正直、昔とすこし変わると思います。

だって再開の為に読み直ししたらスンゲー恥ずかしい文章とかだし

ちょっとは上手になったかなと思ってます。


 最悪の闘いから数日が過ぎた。

 街は今だ復興できず、空には亡骸の煙が舞い、地上の瓦礫の下にはまだまだ多くの悲しみが閉じ込められていた。街の人々は親しい者の死を悲しむ暇もなく、ただ黙々と救助作業や瓦礫の撤去を行なっている。

 各々が自分に出来る何かを探しだし、食を忘れるほど一心に取り組んでいる。

 だって今この街には記憶しておきたいことなんてただの一つだってありはしない。

 泣くのは、この地獄を終わらせてからでいい。

 後ろなんて振り返らずに、ただ前だけに進む。それしかないのだ。


「お体、お気をつけください」


 セイヤは「頑張ろう」という安易で他人事な台詞に代えて、人々にそんな言葉を使うようになった。


「ありがとう」


 そう言って帰っていく獣人の女性。すこし元気になった様子。


 セイヤはこの世界に住人ではない。元々は現実の日本に住んでいた高校生だった。彼は俗にいう異世界転移者である。そしてこの世界で得られた能力が「マジック・エール」だ。

 この世界には魔法が存在した。ただし女性限定である。

 ところが男性でも唯一例外で魔法を使えるのが、漂着者と呼ばれる現実からの異世界転移者が持つ「マジック・エール」の能力である。しかしこの能力、自分自身や魔物に対してはまったく無意味。発動して得られるのは、女性のみに作用し、なんらかの影響を与えることが出来るというモノだった。

 彼は今この力を使い、復興作業でMPを使い果たした女性の魔力や体力(HP)を回復させているのだ。


「次の人は?」

「タロー、いえセイヤさんでしたね。もう手当ては五十人を越えました。これ以上はまたあなたが倒れることになります。あなたこそ、お体にお気をつけください」


 セイヤはこの世界に転移したとき自分の名を忘れていたため、とりあえずタローと名乗っていた。

 そして彼の問いかけに答えたのはナナハ。

 彼女はセイヤがしばらく前からお世話になっている御もてなし家「とこゆめ」の女中さんである。

 若々しくしおらしい姿をしてはいるが百歳くらいの妖精族のエルフであった。


「まだ大丈夫だよ」

「駄目です。あなたの大丈夫は当てにならないことを承知しております」 

「みんな頑張ってるんだからオレも――」

「セイヤさん。もし今回の事で責任を感じていらっしゃるとしても、その行動はすこし違うと思います」

「……」


 この街に起こった大災害は天災ではなく人災であった。

 超人的な能力をもった敵がセイヤと共に旅をしているオクエン国の姫チィルールの命を狙ったこにある。

 実際にチィルールを守るために合間見えたのはこの「とこゆめ」の女主人であるレデーットという伝説レベルの強さをもったエルフだ。

 常識を超えた能力を持った二人がぶつかり合った結果、天変地異レベルの災害となってしまったのである。

 その上、敵はセイヤの現実世界での恋人「キラリ」であることが判明した。

 自分本位で他人を道具にしか思わない人間ならともかく、まともな人物なら責任を感じても致し方ない微妙な立場だ。

 

「この地の人々は自分に出来る事を必死になさってます」

「だからオレも、マジック・エールの力で」

「いいえセイヤ、あなたにしか出来ないことがあるはずなのです。もっと大きな視野をもってください」

「分かりません。でも、今は……休みます。ナナハさん、ありがとう」


 とこゆめの大食堂の一角に仕切りをたて、診療スペースに使っている場所から出てくるセイヤ。

 本来なら獣人族とヒト族の漁師がケンカしながらも仲良く酒を飲み交わしていた場所だった。

 でも今はケガ人が運び込まれ食事テーブルはベットに使われていた。なんとも痛ましい様相。

 思わずケガ人に手が伸びてしまうが、男にマジック・エールの力は無意味。なにも出来なかった。


(ああ、ジッとしているとキラリのこと考えてしまう。もう誰かオレを気絶させてくれよ)


 一人になれる場所を目指すセイヤ。

 足取りは重い。

 とりあえず寝床に向かう。それしか思いつかない。

 とこゆめの奥に進むと、子供達の無邪気なはしゃぎ声が聞こえてくる。


「チィルールのやつ……」


 中庭で子供達と遊んでいるチィルールを発見。


「コラー! 貴様らー!」


 怒鳴るチィルール。

 だが怒鳴られたはずの子供達は逆に大はしゃぎである。

 歳はすこし離れてはいるが、容姿が幼いチィルールは、子供達にとって畏怖の対象ではないようだ。


「ぷにゅきゅあ、みーっけ!!」

「あー!」


 子供の一人がチィルールのスカートをまくりあげ、彼女お気に入りのぷにゅきゅあパンツをあらわにした。


「コラー! 悪い子はお尻ペンペンだー」


 一斉に逃げ惑う子供達。

 完全におもちゃにされている。

 その様子を微笑ましく眺めるセイヤ。


(でも、よかった。あの子達も元気で――)


 あの子達は家族をなくした身寄りのない子だった。

 今はとこゆめで一時引取り、チィルールが面倒をみている。

 当初やってきたあの子達の絶望的な顔色は大分回復している。きっとチィルールのおかげなのだろう。

 それにこの非常事態に手助けをしたがったチィルールにとって子守はちょうどいい役割でもあった。

 なぜならこの大災害のことを「オクエンの姫がこの地に来なければ」と考える者も少なからずいるからだ。そんな民衆の真ん中に彼女をさらすわけにもいかなかった。そんな者達だって冷静になればソレが言いがかりなのは分かるだろう。しかし今この悲しみの状況で、やりきれない思いをぶつける相手を欲しがるものまた人として自然な成り行きでもある。


「あーあ。情緒豊かだった庭園が。悲惨だなコリャ」


 異世界だが日本庭園風だったこのとこゆめの中庭。

 枯山水の小石は踏み荒らされ吹き飛び、蒸したコケが永い時間の趣きを醸していた大岩は、そこから滑り落ちる子供の身体に剥ぎ落とされ、真新しい岩肌をさらけ出していた。ししおどしにいたっては、誰がやったのか石で下向きに完全固定されて音もでなくなっている状態。

 池があったり隠れる物陰が豊富な入り組んだ庭園は、子供達にとって最高の遊び場に違いない。


「風流のフの字も吹っ飛んでるじゃん。大災害だなコレ」


 まさに大災害の現場そのものである。

 子供達の元気に換えれば安いモノなのかもしれないが、家主のレデーットがこの庭を見たとしたら?ご愁傷さまでした、というほかない現状。


「おお、タローではないか」

「タローじゃない、セイヤだ」

「タローはタローだろーが。セイヤなんて変な名前はへんだ」

「タローのほうがよっぽどヘンだ。オレはセイヤなの!」


 セイヤの姿を見つけたチィルールが近寄ってきた。


「一緒にアイツらを捕まえよう!」

 

 ちょっと興奮状態。きっとすこし楽しんでいる。


「悪い。オレ、もうMPゼロだし」

「そっか」


 HPとかMPとか通用するのが異世界の証。


「チィルールにしか出来ないことだから、頑張ってくれ」

「うむ」


 胸を張るチィルール。


『ドボン』と音がした。

 子供の一人が池に跳び込んだのだ。


「コラー!! お魚さんが驚くだろーが!」


 子供達に向かっていく。

 わーっと逃げ出す子供達。

 そんな様子に何かが満たされながら、その場を後にしたセイヤだった。


(なんかちょっと楽になった)


 

シリアスですが説明回ヤムナシなのです。

早くドタバタにしたしですが、もうしばらくご容赦ください。

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