トロイ レポート(最悪の戦い)
解説回です。
戦いは終わった。
結果、チィルール殿下は無事であった。
が、被害はそれなりのモノになった。
レデーットをはじめとして配下の者、直接的な戦闘行為によって重軽傷者十二名。
赤い鎧騎士の異常な大規模攻撃によって発生した地震による被害、これはまだ統計が取れてはいないが、家屋倒壊とそれに伴う死傷者数は相当数にのぼるとみられる。事実、この街の代表である大団長が中央政府に救難を要請し、中央軍も救難物資とともに街に集結し始めていた。
今、街は戦闘の終わった戦場さながらの様相であった。
一国の姫殿下を守るに値する被害といえば不謹慎だが、あの化け物を退散させる為になら仕方ない結果とも言える。
ただどっちにしろ直接的にも間接的にもこの事態の責任はマンエン国の命によって行動した赤い鎧騎士(大将軍ハナコ)にある。
お忍びでこの場に訪れていただけのチィルール殿下に責任はなく、第三の中立国であるセンエン国内でかってにオクエン国とマンエン国の政争問題を持ち込んだマンエン国に責任義務があるといえる。
もっとも当のマンエン国側は今回の事件(侵攻)を「センエン国が犯罪者を庇ったためによって引き起こされた悲劇であり、マンエン国に責任はない」との主張をしている。
マンエン国王、自分の我侭が通らないと周りのモノ全てを、自分の妨害をする外敵と見なすようだ。
そしてなぜか自分こそが被害者であると考えているフシさえ見受けられるのだ。
このような行動原理、王として君臨できている国内限定でなら通用するかもしれないが、国際世論的には敵ばかりをつくり孤立していくだけである。事実、センエン国内では中立を撤回しオクエン国につくべきとの意見が多数にのぼっている。
もっともそのことに対する報復によってマンエン国経由の経済航路が切断された場合、センエン国の経済に甚大な被害がでることになるので、それは正直達成できそうにない話である。
だが今回の出来事に対して強硬な主張をしているギイ・グーグー議員などは「これは人道の問題であって経済問題ではない。たとえ我らが泥水を啜る百年前の生活に戻ったとしても正義の真理を知る文明人として、断固たる態度をもってマンエン国に抗議すべきだ。我々センエン国はマンエン国の従属国ではない」との主張を繰り返している。内容は立派なご高説だが、これは逆にマンエン国に逆らえば百年前の生活に逆戻りになる、と受け止められて逆効果になってしまっている。経済という文明に飼いならされたペットにとっては今更野性の自然生活は酷ということだ。サバイバル生活でも経験してなくては理解できない話である。
さて今回の出来事に対して、世界の人々が一番の興味を持っているのがオクエン国なのだが?
当のオクエン国政府、ただセンエン国に対して、大規模な援助と犠牲者に対する哀悼の意を表明したのみであった。
本来ならマンエン国に対して宣戦布告もあって当然の事態だったにも関わらず、マンエン国に対してのコメントは一切ゼロ。それは非常に不気味な沈黙であった。
色々な憶測が世界を駆け巡る。
その世界政情不安のあおりをモロに喰らったのがチョウエン国。
経済的に停滞していたチョウエン国。
もしそのままオクエン国とマンエン国が再び全面戦争に突入すれば一番の利益を得るのはチョウエン国だったはずなのだ。戦争が起きてオクエン国で不足するであろう物資を前掛けで調達していたチョウエン国。だが戦争の気配はいっこうにない。だぶついた物資が暴落し、破産倒産の経済崩壊嵐が国中に吹き乱れたのだ。
暴落した最低値の物資がオクエン国に流れ込む。
そして経済崩壊を起こしたチョウエン国はオクエン国と交渉に入っている。
チョウエンの最大債権者はオクエンであったし、逆に今のオクエンの経済レベルならチョウエンの債権など放棄してもさほど痛くもなかったのだ。いやそれ以上にチョウエンの債務を全て引き受け可能な国力であった。
ゆえにチョウエンが再びオクエン国になるのも時間の問題と思われる。
だがオクエン国はマンエン国をどうするつもりなのか?
自国の姫殿下の命が狙われた事実が世界中に広まっているにもかかわらず、なにもしない、などあり得ない話しなのだ。
だが公式な見解は今だない。
不穏で不気味な情勢が続く。
トロイ・T




