最悪の戦い 次手動く
(手ごたえがない……)
レデーットの感想。
(ケタ外れの魔力は感じるが、それだけ? 素人?)
レデーットが空間を蹴って左右に空中移動。
赤い鎧騎士はレデーットの素早い動きについていけず、彼女のなぎ払いを正面から受けて空高く放り出されてしまっている。
なぎ払いとはいえ、魔力をともなった強烈な攻撃は赤い鎧騎士の身体を山から山へとやすやすと弾き飛ばすほどだ。普通の人間なら攻撃された瞬間に五体バラバラになる威力。
そんな攻撃を先ほどから連続して受けて弾き飛ばされている。
『ドオオッン』と衝撃音と同時に山の中腹にめり込んでいる鎧騎士。クレーターになった地肌の真ん中で無様な格好を晒している。
(なんねコイツ? 受身もようとらん。でも?)
違和感を感じる。
(なんでコイツをいたぶっとるワッチが?)
レデーットに弾かれ、宙を舞う赤い鎧騎士。
たまに反撃で槍を突き出すが、素早いレデーットにはかすりもしない。
そして逆に、反撃をかわせずに大地に叩きつけられている。
(なんで、いたぶっとるワッチのほうが、焦ってるんな!?)
いいようにもてあそばれている赤い鎧騎士。
だが、まったく気合がない。
死を確信して諦めている感じではない。
左手の分厚い盾もまだ構えてすらない。
(コイツ! ここまできて、ワッチの力量を測ってるというかや!?)
完全に逆上しそうなレデーット。
『グギャああああ!!(なら! この炎を喰らってみなさんせ!!)』
レデーット、裂けた口から黄金の炎を吐いた。
それは火炎放射にも見えるが、実態は魔力攻撃である。
だが、受けた相手は炙られた蝋人形のように溶けてゆく運命。
「うあ!?」
赤い鎧騎士が悲鳴?
慌てて自分を盾の中に身ごもらせた。
『グヤアア(魔力の炎で焼き焦げろ!)』
今までと様子が違う。
赤い鎧騎士は完全に盾に隠れて防御体勢。
分厚い頑丈な盾は炎を遮断してはいるが?
『ガヤア!(熱作用を防げたとして? 息はどうするや? ワッチの炎は魔法やけどあたりの空気も排除する本場モンの厄介モンでせ?)』
黄金の炎は実在の炎ではないが、炎のように空間を支配する能力でもある。魔法の力は物理現象ではないが類似した特長も持っている。だから、物理的現象の炎も魔法的現象の炎も、同じ『炎』と呼ばれる。
『ギャギャッガ?(熱で溶けるか? 息で窒息か? どっちにしろアンさんの弱点ですわな?)』
レデーット、赤い鎧騎士のことがだいたい分かっていた。相手が自分の力量を測ろうとしていたと同じく自分も相手の力量を測っていたわけであるから。
『グゥウウウ(コイツはバカ魔力持ちなだけの完全ど素人や。戦闘術をしらんのや。分かってみれば、実に他愛ない。本性出すまでもなかったわけなや? このまま反撃も出来ずに焼かれる運命な。……テキトーなところで許してやるかいな?)』
余裕のレデーットだが?
相手の鎧騎士の様子がおかしい。
この困惑は何度目だったろうか?
『ギャガ?(コイツは? いったい)』
金色の炎攻撃にうごめいてる防戦一方の赤い鎧騎士がなにかを始めた。
前面の炎攻撃は盾で遮り、背後の山の斜面に向かって右手の槍で攻撃を始めたのだった。
『ギャッハ!(穴を掘ってワッチの炎から逃げ出したいけへ? それで、熱さはしのげても? なあ?)』
だが、レデーットは分かっている。
『ゴオオ(コイツはそんなタマじゃないですわな……なにかする気なのわ、わかるんすが? 地面をほじっても、なやぁ?)』
炎を吐きながら様子を見守る。
レデーットは知りたいのだ。
手合わせした相手の力量。
相手はまだぜんぜん本気をだしていないのだから。
『グ……(ワッチの変身シークエンスを待ってもらったかわりに、待ってやりましょ? 礼儀でヤスね)』
だが、その余裕が命取りだったのだ。
やはり、強敵は変身シークエンス中にブチ殺すべきなのだ。
そのことを、これからレデーットは知ることになる。
「失礼」と赤い鎧騎士は言った。
『ガガ(なにがや?)』
「ふふ、待って頂けたことですよ。『化け物』のお嬢様、じゃなかったオバ様?」
『ギャアアアアアアア!』
レデーット、激昂!
「人外」「異形」「化け物」の単語は妖精族に対しての蔑称だ。彼女が怒るのも無理ない。
『!!(誰が、オバ様だー!!!)』
完全に怒ったレデーット。
炎のレベルMAX!
あたり全てが金色に輝いた!
『(死ねやー! コンっ、の、くされ外道!!)』
金色に輝く世界。
山々はこんがりとキツネ色に焼け、空すら黄金に輝いている。
不思議な空間。
ここに存在出来てるのはレデーットと攻撃を受けている赤い鎧騎士のみである。それ以外は虫も含めてすべて蒸発した。
半径十キロ四方の命はすべて途絶えた。
草木、微生物含めて有機物全てが全滅した。
『ガアア!(後悔しても遅いで? もうここには誰もおられませんからな?)』
最悪の結果だ。
レデーットの最終技『煉獄』が発現した。
今は小規模だが、場合によっては世界を滅ぼす。
これ以上は危険だ。
「さすがにコレはちょっとキツイな」
盾に隠れた鎧騎士。身動きとれず結構ピンチ?
『ガッハ!?(もう、いまさら、許しませんでーっ!?)』
「ん? いいよ? べつに……」
『?』
「だから、君ら、あー、うん。この世界の奴らのコトなんてどーでもいーってこと!」
それが絶体絶命の者が発する発言なのか?
『(この状況の、どこにそんな余裕が?)』
観察する。
増援の可能性はない。
交渉の余地はあるのか? いや、ない。あるなら初手で解決している。
だとしたら、結論は一つしかない。
『ガアッ!(この状況でワッチを倒すっていうてるんかー!!)』
レデーットの煉獄は威力を増した。
「ああ。(めんどくさいなあ。どーしてこの世界は私を静かに暮らさせてくれないんだろう……)」
赤い鎧騎士の嘆きだった。
(こんな世界のことなんて、どーでもいい! なのに、なんでみんなが私を構う?)
異世界からの漂着者である彼女の素直な気持ちだった。
(変な力のせいで、普通に生活することもできない。なんなの! いったい!)
何度も自問自答した疑問。
(こんな力がなかったら、こんな世界でも、普通の幸せを手に入れられたかもしれないのに……)
それも、後悔という単語とともに何度捨てた台詞だったか。
(私はこの世界で、いったい何のために生きてゆくんだろう?)
だが答えは、知っている。
今がその答えの結果を出すべき状況なのだ。
「チィルール殿下を殺す! 邪魔するヤツも殺す! それが、この世界での私の役目なんだ!!」
赤い鎧騎士の悲しみをはらんだ絶叫は……
敵であるレデーットにしか届かない。




