12.到着した名も知らぬ初めての街
「街まで運んでいただいて、本当にありがとうございます」
「いいってことよ。道中は助け合わねーとなあ」
「礼を致そう。これで良いか?」
タローとチィルールは、あれから偶然にも街に向かう商人の荷馬車(バカ馬のではない)に拾われ同乗させてもらったのであった。
そして無事到着し、その主に礼をしようとしているのだったが?
「金貨!? やめておくれよ、お譲ちゃん。そんなんじゃないんだ」
「では、なんと?」
「旅はみんながな? 関係ない連中同士でも協力しあわねーと出来ねーもんさ。だからさ? 俺にしたい礼は、またどこかで誰かにやってくんねーかな?」
「なぜか?」
その論理、子供のチィルールには理解不能だった。
「ハハ、まあそういうコトなんで俺は失礼するよ。じゃあな。よい旅を」
「うむー」
「はい。よい旅を――」
二人を街中の大通りに残し、馬車を町外れの市場へと向かわせていく。
髪もボサボサ髭もボーボーのへんなオジサンではあったが、親切な優しい人だった。
そんな感じですったもんだと色々あったのだが、タローとチィルールは無事、その街に到着したのだった。
「いい人だったな」
「ふむ。よくわからんが――」
「で、この街はなんて名前なんだ?」
「は? 私が知る訳なかろう」
「……(コイツ堂々と迷子宣言しやがった)」
異世界の住民である連れ(チィルール)が親切に場所や政情などの状況説明をしてくれるなんて今までもなかった。
まあでもチィルールは元々迷子だから仕方ないかもしれない。
取りあえず道行く人々に尋ねまわり、どうにか役場へと到着する。
(海の香りが街全体から漂ってくる。海岸線はキレイに整備されてるみたいだし漁業中心の産業なのかな。近郊には畑が少なかったし典型的な港街ってトコか)
タローの分析は的を射ていた。
緩やかな山が連なる山脈の南端から南の海に向かって伸びる細長い平地の中にあるこの街は農業よりも漁業や海路交易の中継ポイントとしての経済が発展していた。
貴族も数家存在している。だがスラムも存在する。
北に広がる山々に遮断された僻地であるが、それでも人口は一万ほどだ。
都会までとは言えないが微妙な地方街であった。
「この者は漂着者なのだが?」
「担当の者を呼びます。そちらで少々お待ちください」
役場でのやり取り。
窓口嬢とチィルールのたどたどしいやり取りに一抹の不安を感じるタロー。
(でも空調が効いてて涼しいなあ)
異世界にもどうやら電気はあるみたいだった。
ロビーの待合ソファで呼び出しを待つ二人。
「ふぁーぁぁ」
「ふゅぃーぅ」
エアコンの冷風を堪能し、文明の有難さが身に染みる。一昨日まで密林で遭難してた二人にとっては尚更である。
「お待たせ致しました」
「え?」
「はひ」
だらけていた二人の前に突然、キチッっとした着こなし身なりの男性が現れた。だから慌てて取り直したのだが。
「私が漂着者鑑定資格を持ちますコーギー・スコティッシュという者です。本日はよろしくお願いいたします」
姿同様カッチリとした口調。でも名前はカワイイイメージ。なぜか?
「こ、こちらこそ。よろしくお願いします。(なんかアタリ強そう)」
コーギーの堂々とした態度に怯むタロー。
「ん? 鑑定?」
「いかにも」
「オレを?」
「はい。どうぞこちらへ。対象外の方はもうしばらくコチラでお待ちになってください」
「うむ」
普通に納得しているチィルール。
「タロー、頑張ってくるがよい」
「え? おお……(なにされるんだろ)」
なにが起こるか分からない異世界の常識。
散々それを思い知っているタローは不安になるのであった。




