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十年前に来た少女の話


(いつからなのか?)


 いや、知っている。

 十年前のあの時からだ。

 自分の問いに自分で答える。


(なに? ここ? なんで、みんな?)


 私には記憶がなかった。

 だが、一般常識的なものはちゃんと理解していた。

 それでも、その時の状況はわからない。分からなかった。

 

(どうして? なんで酷いことしようとするの?)


 剣や槍をもった兵隊さん? が私を襲ってくる。

 いうことを利かせようとして暴力しているわけじゃないのは分かった。

 だって、みんな殺気が……

 

(どうして私を殺そうとするの?)


 まわりの皆が敵だった。


(中世のヨーロッパ? 石畳の洋風建築? そんな街の真ん中にいて? 私はなんで殺されようとしてるの?)


「このっ! 魔王が!」

「魔王? こいつが魔王?」

「ああ、魔王の転生に違いない。だってあり得ないだろ! 異常な魔力だ」

「なるほど、魔王だからか!」

「そうか、だから魔王なんだな!」

「魔王が出たぞー!」

「殺されるぞ! 戦えーっ!!」

「おおー!!」


 正義のためと信じて一致団結する武装集団。だがその思考はお粗末、自身達の行動原理の理由が『根拠なき結論』でしかない事に気付いていない。

「根拠はある! だってアイツの魔力は異常に強いから普通じゃない、でしょ!?」という論理不在の意味不明感情論が彼らのアイデンティティ。

 その主張自体は間違っていないので反論はできないだが、反論できないからと言って、なんでそれが彼女が魔王の転生である、という証明になるのか? そんな強引な主張に疑問を感じる民衆は少ない。

 残念ながら、正常な判断を出来る人はほんの一握りでしかない。

 そして一部の人間が、その支離滅裂な論法を否定しても誰にも理解されない。それどころか滅ぼすべき敵のスパイ扱いされて迫害されるのがオチである。

 だから賢い人は何も言わず、沈黙するだけだ。


「殺せー! 平和のために、殺せー!!」

「戦えー! 争いのない世界のために、戦えー!!」

 

 結局、だから民衆は暴走する。


(なんで私、いきなり殺されなきゃならないの? ひどい! ひど過ぎる! 許せない!!)


「私は魔王なんかじゃない!」


「魔王だからだ! だから、そんな嘘もつく!」


「な? じゃあどうやって証明すればいい?」


「人ならば大人しくすればいい」


「私は最初からっ……いや、わかった。大人しくする。騒がして済まなかった。申し訳ありません」


「よーし! ならば! 死ね!!」


 甲冑の女剣士が、いきなりだった。


 平伏している私に目掛けて剣を、伽あげられてギラギラ輝いてる剣を振り下ろしてきた。


(なんで!?)


 それ以外の感想はない。


 思いかえせば、私は平和な世界で生きていたのだろうと思う。


 こんなリアルそのものの現実的なこと経験したことなかったんだろうと、感じた。


『ガギャ! キィィィイイイーーーーンン』


 不自然な剣戟の音。


 ざわめく群集。


 驚愕の女剣士。


 剣士の剣は砕けていた。


 平伏している生身の人間が放つ、ちょっとした魔力の防御壁で、女剣士ご自慢のブレードソードは木っ端微塵に破裂したのだった。

 そんな状況、ヤラセの演劇でもなければあり得ない風景。


「あの名剣が砕けた?」

「なにソレ? あり得んでしょ?」

「すごい……」

「あ、そうか、すげーな!」

「なんだよ。そういうことか! あはっははああ」

「いや、たいしたもんだったぜ?」

「すっげーじゃん! おもしれー!」


 だから、事を見ていた群衆、なんか「パチパチ」拍手始めた。


「な、ななな? な?」


 演劇のヤラセではない、それは斬りかかった女剣士が一番自覚している。


「き、貴様? まさか、本当に?」

「めんどくさい。もう、こんな茶番に付き合う気はない」

「は、は、はぁ、はぁ、ハっあぁぁ……」

「どうした? 魔王退治するんじゃないのか?」

「いやっ!」

「なにがだ?」

「いや、いやいや! いやあああああ!!」


 自慢の剣を砕かれた女剣士は慌てて逃げ出した。

 

 みんな状況が理解できない。


「おい、お前ら?」


 群集、拍手やめ、ちょっと緊張。


「どうやら、私は魔王らしい。なら、魔王らしくしてやろうじゃないか? ああっ!?」


 街はパニック状態になった。

 悲鳴をあげ皆散り散りに逃げ出し、大層な騒ぎになった。

 その後、数刻して街はゴーストタウンになった。


(なんで、こんな?)


 理解不能。


 そしてそれからの生活。

 街に残された食い物を漁り、定期的に現れる敵を打ちのめした。

 逃げ場はない。

 だって地理なんてわからない。

 ここがどこで、自分が誰かすら分からないのだ。

 惨めだった。


(助けて? 君。もう名前も思い出せないよ? でも君のことが好きな気持ちは覚えてるの……だから、助けて? 待ってるから。ずっと待ってるから!)


 一人ぼっちの街の中、星空を見上げながらすがる思い出での微かな記憶。


 だが、彼は現れなかった。


(もう、忘れたよ。顔も思い出せない君……それに待ってたとしても、私はすでに、な?……)


 孤独を戦い抜き、気付けば十年の歳月である。


(今、私はこんな僻地にまで出向き、殺し合いをしに来てるんだよ?)


 『殲滅機械のフォートレスデストロイヤー・大将軍ハナコ』それが私の名だ。


 彼女は、レデーットと最悪の戦いを開始しようとしていた。



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