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最悪の戦い(前哨戦)


『ヒヒーン!(ケツ、いてーーえええ!)』


 疾走する馬車馬。


(早朝から仕事させられて、いったいなんだってんだ?)


 馬車馬、不機嫌。


(上等の干草でも食わなきゃやってらんねーぜ。まったく……)


 自らの扱いに対して不満を感じる今日この頃。


(にしても、交尾してーなーぁー)


 そろそろ発情期。考えることはだいたいそれに落ち着く。だって、しょせんは馬。


(ん? なんやコイツ?)


 隣を並走している赤い鎧騎士に気付く。

 人間の出せる速度ではい。しかし、その騎士は魔力でジャンプしながら走っている。歩幅十メートルといったところか? ソレを走っているといってよいものかは分からないが。


(人間のクセしやがって、なにワシと並んで走っとんねん!?)


 馬の怒りももっともである。


(しばいたらぁ! ワーれぇ!〔テメー〕)


 林を抜け、山沿いの道に出ていた。

 揺るやかな斜面に開けた道。何人もの人や馬車がそこを通りて来たからできたものだ。

 道右手、谷側の遥か先には川が流れている。水の確保できそう。

 反対の山側の斜面を少し削れば、峠の茶屋も営業できそうな場所である。


(ぬおおお! こんガキャあ!)


 疾走する馬、だが騎士を振り切れない。

 砂塵あげながら並走の二者。


(スカしやがって、このクソが! 見てやがれ!)


 馬、悪巧み。

 加速して一歩前出た後、車体を左にちょっと振る。そしてその煽りを利用して今度は逆の騎士側に車体を振った。

 意図的にテイクバックされた馬車の車体は激しい勢いで右側を走っていた騎士に激突。


「お?」


 不意打ちされた騎士の驚愕。


『ひゃああ! うおおお? にゃああああ!』馬車の中からも同時に三種の悲鳴があがった。


 ちょうど宙に浮いていた騎士は、その攻撃をかわせずに弾き飛ばされ、谷側の斜面を滑り落ちていった。


(ザマーみさらせ! だーぼぉ〔ドあほ〕)


 だから車体からの悲鳴なんて馬にとってはどうでもいいこと。

 今は勝利の満足感。


「だ、大丈夫ですかな? 皆さん、な!?」


 馬車の手綱を握っているヤソウ。自分だけは危険を察知し身を上手く宙に泳がせていた。

 クォーターとはいえ、さすがは妖精族である。

 だが、馬車内の客人達は素人のヒト族達だ。無事なのだろうか。

 恐る恐る、覗き窓から車内の様子を伺う。

 そこには、なんか『なめろう』みたいな塊があった。


(返事はないけどな。きっと大丈夫なんな)


 どっちにしろ今のヤソウにとっては無事を祈ることしかできないのだった。


「にしても、馬! お前、頭おかしいんな?」

「ヒヒーン(あー、交尾してーなぁー)」


 だが、この程度であの『殲滅機械のフォーレストデストロイヤー』が終わるはずもなく。


(ん? まだやる気かワレ)


 鎧騎士、馬の進路上に空から着地。魔法で空を飛び、先回りしたのだ。


(上等やー! ワシの最終奥義見せたらー!!)


 馬、山側斜面を駆け上がる。


「な、なんねー! 馬、突然なんねー!?」驚愕のヤソウ。馬はすでに手綱の指示に従わなくなっていた。

「ヒヒーン(やったらー!!)」

「あかんな? あかんよな、コレ。ヤバイな。もうウチだめなー!」

 

 ヤソウ、馬車から飛び下り、バックレたー!!


「ヒヒーン(見とれよオンドリャー)」


 馬、上った斜面の角度を利用して急転回。

 煽られた車体が遠心力でギュイーンと回転する。


『はなああ? おわあああ? ひいやー!』馬車の中から悲鳴が聞こえるが今はそんなことどうでもいいのだ。


 馬を中心にしてクルクルと回転を始める車体。

 その勢いは斜面を下るほど加速され……


(受けてみるがよい! わが必殺奥義!)


 馬車は回転しながら赤い鎧騎士に向かっていく。


「ヒヒヒヒーーーーィィィンン(トルネードスピン……)」


 凄い勢いで回転しながら鎧騎士に向かう馬車。


「ヒヒン(こっからが奥義の最終形態やー!)」


 馬、少し身を屈め、次の瞬間ジャンプした!

 その挙動に煽られた馬車も併せて宙に舞う。


「ヒヒーン(これこそが奥義最終形態『トルネードスピン流星馬車落としアターック!』)


 宙に浮かぶ馬、華麗に月面宙返り(ムーンサルト)。

 馬車も併せて一回転半捻りする。

 

 『トルネードスピン流星馬車落としアタック』


 それは見事な大技だだった。

 横回転を利用した慣性力の攻撃技と見せかけ、実際は宙に浮かび縦の重力も利用している。

 慣性力と重力の落下を利用した二重ベクトル技だ。その破壊力は二×二で四倍にも膨らむ。

 まさか一介の馬ごときが出せる技ではなかった。

 ということは、やはりこの馬、並みの馬ではなかったということだ。

 しかし、この技は呪われた技でもある。

 この技を繰り出したモノはすべて等しく「リストラ」という憂き目にあっていた。

 悲しみを背負った禁忌の技でもあったのだ。


「ヒッヒーン(イッケーッ!!)」


 馬車、凄い勢いで赤い鎧騎士に命中。


『ドガーン・ピキーン・パリ・ガッシャーン』


 砂塵を舞い上げ木っ端微塵に吹き飛ぶ馬車。


 なんか馬車内にうた乗員も、「ぴヒューン……」って、あさってのほうに飛んでいった!


「ヒヒ(やったか?)」


 馬、自らが繰りだした技の勢いで自分も倒れこんでいた。


「ヒヒッヒ(なん……だと?)」


 馬、驚愕。

 砂塵が晴れていくその中に仁王立ちのシルエット。

 それは赤い鎧騎士。

 

「ヒヒン(バカな……あの技を受けて無傷だというのか?)」


 ずんずんと近寄ってくる鎧騎士。


「……(……)」どーすることもできない馬。


「なかなか見事ではあった。だが、足らぬ!」

「ヒッ」

「ここまでのようだな」


 槍を構える鎧騎士。


「ヒヒーン……キューン? くいん? キュンキュン? キュィーン?」


 馬、プライド捨てた。

 仰向けになった腹見せ。降伏の証。

 そして甘え声。


「きゅきゅ? クゥイーン?」

「かわいくない!」


 赤い鎧騎士、馬を蹴り飛ばし谷底へむかって突き落とした。


「キュンキュン、キュいーン!」


 斜面を滑り落ちていく馬。


「ヤレヤレ」


 呆れる鎧騎士。


「な! なんねコレ!」

「ん?」


 突然、驚愕の声が、天からその場に響いた。


「なんて惨い!」


 声の主はレデーットだった。ようやく現場に到着したのだ。

 彼女は魔力で宙に浮いたまま辺りの惨状を確認する。

 木っ端微塵に吹き飛んだ馬車。

 チリじりに吹き飛ばされ、倒れて意識のないタロー達三名。

 様子を見たレデーットの感想だが?


「アンさんがヤッタんね?」

「ん……いや」


「あ、主様な! ソイツですな。そいつがヤラカしましたなー!!」


 さっきまで隠れてたヤソウ。ここぞとばかりに出てきて煽ったー!!

 だって自分の責任問題になるかもしれなかったし……

 レデーットに鎧騎士をボコってもらえば口封じにちょうどいい。


「許しませんで? アンさん、よくもウチらの子を!!」

「……」

「覚悟しいぃーやあぁぁ!!」


 本性を出しかけたレデーットの様子が……

 姿が……


 妖精族の揶揄言葉「人外」


 その言葉の意味が今、発現する。


 最悪の戦いが始まろうとしていた。


(めんどくさいなぁ――もおぉ!)


 鎧騎士がイラついて舌打ちした。



内容は、まぁ、いつも通りです。

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