犠牲
『デコイⅠ、消失。応答ありません』
ナナハの耳通信。
『……っ、イーサ。各員、作戦を続行』
『イーサ』
レデーットが各員に通達。
(動揺した感じは伝わらなかった、そう思いたい)
だがムリだ。デコイⅠ担当のミーハは古株のハーフエルフだった。慕う後輩も多いし、レデーットが信頼を置いているのも皆知っていた。口調で伝わらなくても動揺してないことが伝わらないはずがなかった。
「レデーット?」
レデーットのそばに控えるトロイが声をかけた。
「わかってます。今はあの子達のことを」
「ああ、頼む」
「レデーット、慌てなくてイイよ?」
一緒にいるロッカも言葉をかけた。
「そうでやすな――」
「うん、あのコ達逃がした後でキッチリ落とし前つけにイコ?」
「はああぁぁ…… まったく、そうでヤス。ククク……」
「待て! まだ本性だしちゃダメだろ? カンベンしてくれよ? お願いだから!」
本性出しかけたレデーットを慌ててたしなめるトロイ。さすがにビビッてる。
「わかってやすって。ククク、はよ、来んかなぁ。もうなんかあの子らのことなんてどーでもえーわぁ……ククク……」
「お、おい?」
「大丈夫だよ、トロイ。レデーットはこの街に来て賢くなったんだから」
「え? あ、うん。でも?」
「ククク! はぁぁぁ。ククク……」
(本能出かかってるじゃん! いきなりボクらに襲い掛かって来ないよなぁ?)
暴走したレデーットのことを知ってるトロイは気が気ではなかった。
百年前、レデーットが暴走し、エルフの里三つと魔物や魔獣の住む森を五つ滅ぼしたことを思い起こす。
(あの破滅の悪夢を無意味に発現させてどーするか。獣人族の街なんて十や百程度、簡単に滅ぶぞ?)
心配するトロイをよそに、ロッカが……
「レデーット! 待て! 待て、だよ! そうだ。よーし、ヨーシ――」
「ロッカぁあああ!!?」
暴走しかけたレデーットになんて侮辱を!
「よーし・ヨーシ。いい子だね」
「おおおお、おま……」
レデーットの頭ナデナデのロッカ。
「じゃあ、お手!」
「ぎゃああ! やめろー!!」
でも従ったレデーット。ロッカの手のひらにお手した。
「なんじゃーそりゃああああああ!!!」
取り乱すトロイ。
「トロイもやってみたら?」
「はああ!?」
「ほら?」
「マジか?」
「ほーらっ」
レデーットをチラ見するトロイ。
『フみゅ?』
(う、たしかになんか、オメメきらきら? 期待してるのか?)
「じゃ、じゃあ、お手……」
右手を差し出すトロイ。
ガブリとその手にカジリついたレデーット。
「ひぎゃああああ!!?」
悲鳴を上げて手を引っ込めるトロイ。手のひら、フーフーしてる。
『きゃははははは!』とレデーットとロッカが大笑い。
「だ、騙したなーぁっ!」
「トロイは相変わらず愉快やね」
「逆に長生きしそうだよねー」
「ま、おかげさんで、リフレッシュできましたへ」
「あー、面白かった」
「ぬぐぐぐぐ」
なんかよく分からないが、とりあえず一食触発の現場は収まったようだ。
これもトロイの活躍のおかげである。多分……




