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11.タイトルどーん!


 馬と荷馬車馬は横並び、小川のほとりで川の水を飲んでいる。

 二頭とも、やり遂げた感だして清々しい感じ。

 ブルブルと震わせた身体から汗がキラーンって宙に舞うみたいな。

  

(チャンスは今だ)


 タローは馬から降りた(落ちた)。

 けっこうな高さからの落下ではあったが、コケが蒸して水に濡れてやわらかな地面がショックを和らげてくれたので怪我はない。

 続いて馬上にダランと垂れ下がっているチィルールを引きずり降ろすと、小脇に抱えて逃げ出した。

 

(こんなブレーキの壊れたハチロクみたいな馬いらんわ。事故って廃馬になりやがれ)


 彼らが馬達から離れると、入れ替わりに馬車馬に向かうオッサンの姿があった。

 そのオッサン、さっきの競争の果て、荷馬車馬がスピードダウンしたら落下して地面に擦り付けられた。

 その衝撃で、手綱から手が離れてそのままどっかに転がっていったのだが、どうやら追いついたらしい。

 そしてオッサン、荷馬車馬に向かってキック・キック・キーック!

 それは当然である。


(いいぞ。オッサン、もっとやったれ!)


 タローも同意。


『ヒヒィーン』


 だが荷馬車馬、その攻撃に無情の反撃キック。

 蹴られたオッサン、宙に舞う。

 地面に落下して動かなくなったオッサン。


(生きてたら、またどこかで会おう――オッサン)


 タローにもとかくにも、その疫病馬から距離をとって逃げたかったのだ。


「ゼィハッ、ゼィハッ――」


 息があがっていた。チビで軽いとはいえ、チィルールを抱えてではこのへんが限界だ。


 だから、若草が茂る丘の斜面にチィルールを放り出し、自分も隣に寝転んだのだ。


 見上げた青い空。


(異世界転移したら楽して勝ち組になれるって誰か言ってなかったか? オレはコッチに来て誰にも英雄扱いされてないし全然モテテもないんだが。それってヤバくね?)

 

 そのクセ、魔物に襲われたり飢え死にとか交通事故?など、リアルバットな展開はちゃっかり色々と体験してたりする。


(やっぱアニメ(妄想)は妄想アニメだよな) 

 

 しばらくすると呼吸も整ってきた。


(これからどうしよう)


 これから街に行って役場で漂着者証明をもらうことは決まっているが、事はもっと先の話。

  

 (学校に転校? あるのか高校? 十六のチィルールが剣振り回して騎士ゴッコしてる世界で? だったら就職? 会社あるのか? 家は? 生活は? 税金は? 保険は? 年金は? コンビニないのに、どうやってスマホアプリに課金するの?)

 

 現実世界なら、教師や親とか大人たちがレールを用意してくれている。

 それを「押し付けでウザイ!」と思ったのは過去のことになった。

 今ではそれが思いやりの気持ちだったことを理解できる。

 自分の責任を、自分が全て背負わなくてはならない重み。

 そのプレッシャーの重さを想像できていなかった。

 多分、大人たちはみんなコレを経験している。

 だから、たとえ嫌われたとしても子供たちに厳しくできるのだろう。


(現実って、どこ行ってもツレーもんだな。ってか今のオレは無一文のホームレス……今の財産『服』だけですわ。剣も無しで『ふく』しか装備せずに魔物が出てくるフィールドにいるレベル1のオレってマジヤベェ、ニートよりスゴヤベーわ)


 しみじみと人生とか現実って感じのモノを思いしり無常を感じている、その時――


「モガーッ!」


 突然チィルールの絶叫。

 意識を取り戻したが、まだ馬上にいる気らしい。

 両手が手綱を握ってるポーズで跳ね起きた。

 だがここは馬上でない。

 跳ね起きた勢いで、そのまま丘の斜面をでんぐり返しで落ちてった。


「チィルール!? おわっ」


 あわてて追いかけたタローも、さっきまでの疲労からか、足がもつれて一緒に転がり落ちてしまった。

 世界が回転してた。


「大丈夫か? タロー? しっかりしろ!」

 

 先に落下したチィルールのほうが体勢を先に建て直し、逆に後から転げ落ちたタローのこと心配している。


(その台詞、コッチのだって……)


「落馬したか? 怪我は? 痛いトコないか?」


 本当に心配そうな、いや、申し訳なさそうな顔。

 責任を感じているらしい。


「大丈夫だって。馬は普通に止まったし、降りたら逃げてったから」

「そ、そうなのか。よかった」


 安堵のチィルール。

 だが?

 落ち着いた途端、モジモジし始める。

 股間の様子に気がついたらしい。


(オシッコ漏らしたからなぁ)


 どう反応するか意地悪な気持ちが沸き起こったタロー。


「あー、これはー。な? 女にはイロイロあってぇ――ふゅ」


 困ってる。そして、ちょっと涙目。

 そろそろ限界。


「ごめん! オレ、初めての馬で怖くって」


 チィルールからの、もらい小便で濡れたズボンの股間を前に出し示した。

 途端、明るくなるチィルールの表情。


「なんだ、お前のもらい物か。ワハハ。男のクセに生意気ばっか言ってるけどカワイイとこもあるじゃないか。まったく――だが気にする必要ないからな? あーはっは」


(だから、その台詞コッチのだって……)


 とにかく、こんな感じでどうにもこうにも「カッコのつかない異世界での普通の話」。

 


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