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カマイタチとジューシーなチキンのトマト煮込み

「ん? これは・・・」


 いつもどおりの昼休み。

 私は、いつもどおりに生徒会長室にいます。

 そして、目の前には・・・。


 艷やかな黒髪と、日本人にしては白すぎるだろう! って突っ込み入れたくなるような透き通った白い肌をした、美貌の持ち主がいらっしゃいます。

 ただし、男ですが・・・。


 今日もいい天気なせいか、座っていらっしゃる背後にある窓から入る、陽の光を一心に浴びていらっしゃるそのお姿は、いつも通りに後光が差しているかのごとく、神々しくていらっしゃいます。


 が。

 弁当を前にした途端、それは錯覚であったのかと疑ってしまうほどに、残念なお姿に・・・。

 きっと本人、全く自覚がないのでしょうが・・・。

 まあ、私にしかそう見えないので仕方がないんですけどね?


 見えるんですよ、エアなワンコしっぽ。


 その エアしっぽなるものは、ブチ切れんばかりに、ブンブンと左右に揺れております。

 まるで、サンタさんにもらったプレゼントを開ける幼稚園児のごとく、喜びを隠しきれないかのように・・・。


 表情はいたって普通通り、平常心を保っておられるお顔でいらっしゃるのですが、エアしっぽはだませません!

 そんな彼が、楽しみで仕方がないと言わんばかりに弁当のフタを開けた・・・その時にございます。


 冒頭のような声を、だされたのは・・・。


 と同時に、


「やっぱり、入れるべきだったのか・・・」


 という後悔の念が押し寄せます。

 なぜならば・・・・・・。


「お前は、“無し派”なのか・・・」


 と、顎に手を当てながら、そうおっしゃったのだから。


 私の予想としては、好き嫌いはないとはおっしゃいますが、こだわりの多い生徒会長様。

 男性の食のこだわりをネットで調べたところ、“甘いものはおかずにならない!”という理由で、おかずにさつまいもやかぼちゃにフルーツがあるのは許せない! 派が多いとあったので・・・。


「おかずに入れた日には、何を言われるのやら・・・」


 考えただけで、体中にガクブルが発生し、ここで入れまいと英断したはずが・・・会長様はもしやの“有り派”だったとは!


 後悔先に立たず・・・ということで、早速その場で膝を折り、代官様に許しを請う農民のごとく土下座しとこうとした、その時でございます。


「まあ、缶詰のパイナップルだと、栄養価は台無しだからなあ・・・。そこまで考えているとは、なかなかの心遣い! えらいぞ!」


「は・・・はい・・・」


 なんでだろう?

 褒められました。


「パイナップルには、ブロメリンという酵素があるんだが・・・」


「はあ・・・」


「その酵素には、タンパク質を分解する作用がある。これによって肉が柔らかくなったり、腸内での消化吸収を良くしてくれたりする効果があるからこそ、取り入れる場合が多いと思われるんだが・・・、ひとつ、弱点があってだな?」


「はあ・・・」


「ブロメリンは熱に弱くて60℃以上に加熱すると、その効果がなくなってしまうんだよ。よって、缶詰のパイナップルを使おうなど論外だ! 庶民ならあえて生のパイナップルを入れるという、家計に響くようなリスクは背負うまい。俺がお前にいつもいう、“庶民的な弁当”に、生のパイナップルは食材としては、ふさわしくないからな」


 と、とてもご満足なご様子。

 流石は、常に学年トップなお方。

 いろんな知識を、もち合わせていらっしゃるようです。


 ちなみに私個人の意見といたしましては、“無し派”にございます。

 だって私、パイナップル自体が苦手なんですもん。

 アレ、食べ過ぎると口の中の上の方が、ヒリヒリして痛くなるんだよ?

 って、もしかしてこうなっちゃうのは私だけ?


「では、会長は普段、召し上がる時には・・・」


「我が家では、“有り”だな。パイナップル入りは発祥の地である中国でも、古く清朝中期に生まれた、由緒正しき歴史のあるレシピなんだぞ? 知らなかったのか?」


 え?

 そんなおおごとな料理だったの? 恐るべし!

 ただの、“なんちゃって中華”だと思っていた自分が、恥ずかしいです。


 “日本の家庭料理”だと誤解していた自分を反省している私を尻目に、会長様はいつものごとく、丁寧な箸使いと綺麗な所作にて、お弁当を召し上がっていらっしゃいます。


「ほお。甘酸っぱいケチャップ味の効いた、どこか懐かしい味わいだな・・・」


 お気に召していただけたご様子。

 油っこくなるのを防ぎ、あえて揚げるのではなくたっぷりの油で揚げ焼きにした、豚モモ肉。

 このお肉にはもちろん、しっかりと下味をも見込ませております。


 それに、彩の鮮やかな野菜たち、玉ねぎ、にんじん、ピーマンを加えてケチャップで炒め、最後に甘酸っぱいアンを絡めて出来上がった、今回のリクエスト“酢豚弁当”です。


 その他のおかずとして、箸休めにとさっぱりした味わいの、ほうれん草と人参ともやしの3色野菜ナムル、卵焼きポケット(厚焼き玉子の真ん中を割って、具材を入れたもの。今回の具材は、カニカマと大葉で彩りよく仕上げました)に、


「おお~! これが、“ハニワウインナー”か。お前は本当に、器用だな!」


 会長の熱いリクエストによる、、“ハニワウインナー”にございます。

 ただ、皮なしウインナーに、ストローで目と口をくり抜いて、両手を出しただけの代物ですが・・・。

 コレの何が気に入ったんだか・・・いまだに会長様のご趣味は理解不能です。

 

 それも頭からパックリと・・・お気に入りキャラ? 頭からパックリといかれてしまいましたよ?

 やはりお気に入りは、頭からガッツリいかれるのでしょうか?

 そんな会長のお姿に、うっすら寒気を覚える私は、おかしいのでしょうか?


 そんなことを考えている私に突然、会長から質問がとんでまいりました。


「そういえばお前は最近、家庭教師をつけて勉強をしているらしいな?」


「はい。最近近所の公園に、通り魔が出るらしいんですよ。なんでも若い女性ばかりが狙われるとかで・・・。それで、ボディーガートも兼ねて、母の知り合いにお願いしているんです」


 そう。

 最近、ご近所の公園にて、通り魔が発生している。

 被害者は全て、若い女性。

 体のあちこちをカッターかナイフのようなもので、切りつけられるというものだ。

 “仕事マジラブ”な両親も、流石に私が心配らしく、自分たちのどちらかが帰ってくるまで、知り合いの大学生のお兄さんに、受験も近いということから家庭教師も兼ねてボディーガードに来てもらっているのだ。


 K大経済学部の3年生、中原 潤次郎さん、21歳。

 母の務める会社のファッション雑誌部門の、編集長さんの息子さんだとか。


 モデルかと思うほどに、すらっと背が高くって、なかなかに可愛らしいお顔立ちのイケメンさん。  

 女性ウケしそうな可愛い笑顔に、軽やかなトーク・・・雑談が多いので正直、手を焼いております。

 こっちはマジで、勉強がしたいんだよ!


「学校では、どんな男子がモテるの?」


「かっこいい男子いるの?」


「好きな子いる?」


 そんなの、どーてもいいだろうがーーーー!

 さっさと、勉強を教えやがれ!


 そんな怒りを毎日、心の中に貯めつつも・・・。


 近くのマンションにて一人暮らしと聞いていたので、私の家で一緒に夕飯を食べてもらっているのですが・・・。


 そういえばこの酢豚、彼も大絶賛で、


「パイナップル入れないとか、君はよくわかっているよ! フルーツが暖かいなんて、しかもおかずに入っているとかありえないよね? それにしてもこの酢豚、この甘酸っぱいアンとカリっと上がった豚肉とが絡んで、とっても美味しいよ!」


 なんて、褒めていただいた一品だったわ。

 その彼はここ最近、何故かお休みが続いている。


 そう。

 あれは来なくなる前日。

 家の前で、別れの挨拶をしたときのこと。


 突然、どこからともなく突風なるものが吹き、彼の頭上からハラリと、何かが飛んでいった。

 それを慌て追いかける彼。


 そして・・・。

 私は見てしまったのだ!

 カッパといいますか、ザビエルさんというべきなのか、頭上だけに髪の毛がお亡くなりになっている彼の後姿を・・・。

 彼の言い分(とっても必死なる言い訳)によりますと・・・。

 なんでも極度のストレスにて、円形脱毛症なる頭上ハゲになった彼は、カツラを常備しているのだとか。


「大学生って、大変なんですね。頑張ってください!」


 そういうのがやっとで、あえて笑いを必死にこらえたはずなのに・・・。

 本心では、“勉強を教える自信がないのなら、さっさと辞めちまえよ!”って思っているのをグッと我慢して、ねぎらいの言葉をかけてあげたはずなのに・・・。


 あれから彼は、我が家に来なくなったのだ。

 なんでも、


「君の家に行った日に限って、カツラが飛んでいくんだ・・・」


 という、謎の言葉を残して・・・。


「その通り魔なら、さっき捕まったらしいぞ?」


 会長はそう言うと、生徒会室にある50型液晶テレビのリモコンのスイッチを、弁当を食べる手を休めることなく押されました。


「え・・・」


 そこには・・・。


「なんで犯人が、中原さん?!」


 涙でぐちゃぐちゃの顔をした、イケメン台無しなカッパハゲの中原さんが、警察署の中で叫んでおりました。


「彼女たちに傷をつけると、俺にも傷が付くんだよ~」


「しかも、次の日には治っているんだよ~」


「なんで、誰も信じてくれないんだよーーーーー!」


「助けてくれよーーーーーーー! ここは警察だろう?」


 などと、訳わかんないことを泣き叫び、女性警官さんになだめられております。

 そんな情けない彼の姿を、ただ呆然と見ていると、スマホがブルリと震えました。

 

「え?」


 入ってきたLINEは、母からのもので・・・。


“中原編集長が突然辞職しちゃったから、今日からお母さんが編集長よ♥”


 って・・・。


“昇進、おめでとうヽ(´▽`)/”


 って、返しといたけど・・・。


「やはり、怨恨絡みか・・・」


 そうつぶやいた生徒会長様の、口角がゆるりとつり上がったその美しすぎる笑顔に、恐怖を覚えるのは私だけ?

 テレビの報道によると・・・。

 その甘いマスクでもてまくりだった中原さんは、カツラであることがバレたとたん、女性にこっぴどくフラれる日が続いていたのだとか。


 ア○ランスにて、育毛及び増毛しようにも、皮膚が弱くてうまくいかず、結局はカツラに頼る日々。


 そんな中、同じ学部の女子たちに、カツラであることを笑いものにされ、激怒が頂点に達した中原さんは、毎日あの公園を通り彼女たちを一人ずつ待ち伏せして、夜な夜な刃物で切りつけまくることで、憂さ晴らしをしていたらしい。


 そのうちに、彼女たちを切りつけ傷つけることに快感を覚えた中原さんは、あの公園を通るなんの関係もない若い女性たちまでも、切りつけるようになったのだという。


「お前に危害が及ぶ前に、手を打っておいて正解だったな!」


「え?」


 ということで・・・。


「これで、任務終了だニャ?」


「疲れたニャ~」


「ご褒美、楽しみに待ってたニャ!」


 窓から、明るいパステルピンク・ブルー・イエローをした3匹のちっさい生き物が、ピョン! ピョン! はねながら、部屋の中へと入ってきた。

  体長は20cmくらい、細長い胴体に短い四肢、細長いシッポ、鼻先がとがった顔には丸く小さな耳がある、可愛らしい動物たちが・・・。


「アレ、日本語喋ってる?」


 と、言うことは・・・。


「今回の事件に、大いに貢献した“カマイタチブラザーズ”だ。アレは、持ってきているんだろうな?」


「ええ。こちらに・・・」


 そして彼らの前に、弁当とともに持ってきたタッパーを、蓋を開けて差し出した。


「いい匂いだニャ!」


「とっても、おいしそうだニャ!」


「今すぐ、食べるニャ!」


 そう言うなり、頭から突っ込んで、無我夢中で食べ始める“カマイタチブラザーズ”。

 はっきり言って、可愛すぎる!


 細長いしっぽをフリフリしながら、懸命に食べるそのお姿、動画に収めたい・・・。

 まあ、妖怪だから無理なんだけど・・・。


 ということで、まるで血の海に頭を突っ込んでいるような、ある意味グロテスクなその光景。

 彼らが必死に食べているのは、トマトの甘酸っぱさがクセになる、“チキンのトマト煮込み”。


「お肉が、柔らかくてジューシーニャ!」


「トマトが、甘酸っぱくて美味しいニャ!」


「さっぱりしていて、いくらでも食べれるニャ!」


 と、大絶賛。

 お肉には、鶏の胸肉を使っているんだけど、一口大に切ってから酒・砂糖・塩を加えて揉み込むことで、とっても柔らかくって、ジューシーなお肉になるんですよ。

 

 そのお肉を、ちっこい両手を真っ赤に染めながら、モノすっごい勢いでかじりついているそのお姿は、まさに猛禽類そのものです。


「彼らの連携プレーにより、通り魔事件は解決されたわけだ」


 ということで。

 この度は、“目には目を! 歯には歯を!”のハムラビ法典なるものが引用されたらしい。

 女性を傷つけると、まずイエローが中原さんを転ばせ、次にピンクが被害者と全く同じ傷を中原さんに付け、寝ている間にブルーが傷を治すといったことをずっと実行していたのだとか。


 そして私のうちに来た帰りには、必ずイエローが突風を起こして、カツラを投げ飛ばして遊んでいたのだそうだ。


 毎日、そんな意味不明な事が起こるので、とうとう彼は精神的に異常をきたしてしまったらしい。

 テレビの報道によると、精神鑑定にかけられるらしい。

 社会復帰を果たしたとしても、きっと周りからは奇異なる目で見られる続ける事になるだろう。


「ご愁傷様です・・・ていうか、ザマーみろ!」


 心の中で、合掌をしたあと、すぐさまテレビから視線を逸らす。

 だって私が今、最も眺めていたい光景は・・・。


「そんなにがっつかなくても、たくさんあるからね~。なんなら明日も、作ってあげるよ~」


 真っ赤に染まった小さなそのお顔をハンカチで拭き取りながらも、そのなめらかで触り心地の良い彼らの毛触りを堪能させてもらっています。

 ああ・・・日々のストレスが、薄らいでいくわ~。


 気が付けば完食した彼ら3匹を、思わず抱きしめてスリスリしてしまっていたでございます。

 う~ん、い・や・さ・れ・るぅぅぅぅ~~。


 そんな中。


「お前ら、あの男に返すものがあるだろう? 褒美はもうたらふく食べたんだから、さっさと返して来い!」


 三匹の首根っこを、片手でいとも簡単に、まとめてつまみ上げた生徒会長様。

 まるで、今にも丸焼きにしてしまいそうな勢いです。


 3匹は何故か悲しそうな声で、


「ニャー」


 と一声なくと、すぐさま姿を消してしまいました。

 お姉さん、とってもさみしいわ。


「まったく! 誰があの男のかつらをおもちゃにしていいといったんだよ!」


 どうやら、“カマイタチブラザーズ”は最終的には、中原さんのかつらをおもちゃがわりに盗んでいたようです。


 可愛らしい・・・。

 かつらにじゃれついている彼らを想像し、おもわず顔の筋肉がゆるんでしまう私。


「オイ、その顔気味が悪いぞ・・・」


 しかし、しかめっ面をした生徒会長様は、お気に召さない御様子。

 なにやらとても、ご機嫌斜めでいらっしゃいます。


 一体、何が気に食わないのやら・・・。


 突然、頭を私の胸元にグリグリと擦り付け、くるりと顔を向けたかと思うと、上目遣いで私を見つめはじめ、


「第一だなあ~・・・」


 突然、ビシリ! と人差し指を私めに向かって突き出すと、


「お前は、オレだけなでていれば、それでいいんだよ!」


 と、すっごく真面目なお顔で、言い放ったのでございます。


 え?

 ナニソレ・・・。


 ・・・・今日も、意味がわかりません!


 こうして私は会長への謎を深めつつ、一日を終えたのでございます。 

鎌鼬カマイタチ


 釜のような爪を持ったいたちの姿で描かれることが多いです。

 疾風に乗って、3匹のカマイタチが現れます。


 1匹目が、人を転がして倒します。

 2匹目が、刃物で切りつけます。

 3匹目が、薬をつけていくため出血がなく、また痛まないらしいのです。


 これらは、悪神のいたずらだといわれているのだとか。


 彼らは、切ったその傷口から生き血を吸うとも言われていたので、あえての好物=トマトです。

 吸血鬼にように、生き血を吸えない時にはきっと、トマト食べてたんでしょうから・・・。


 かまいたちさんたちに、トマト料理をたくさんご馳走して、彼らの胃袋をわしづかみにしちゃいましょう。


 ・・・・・・変な切り傷が日に日に増えてしまう前に。

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