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百々目鬼(どどめき)ととろとろ豚の角煮

「オイ!」


「ハイ?」


 いつも通りに生徒会室へ入るなり、威圧的な声が飛んできました。

 背後にある大きな窓から、今日も日光が燦々と降り注いでいるせいだからなのか、相変わらず後光が差しているかのように、神々しいお姿です。


 陶器のように白い肌、黒くつややかな漆黒の髪、まるで芸術品のように整いすぎた顔立ち。

 そんな、同じ人間でいることが、ムカツキを通り越してもう諦めの心境でしかないような容姿の生徒会長様は、今日はとても不機嫌顔です。


 アレ?

 私、何か気に障るようなことでも、しました?

 最近の記憶をさらっとおさらいしてみるも、特に思いつくものはないんですけど。

 首をかしげ、アレコレと考えこんでいる時です。


「お前は、我が学校のスカート丈について、どう思う?」


「ハイ?」


 これまた唐突に、なぜその質問?


「確か校則では、『スカートは膝が隠れる程度の長さとする』だったと思うのだが、2年や3年連中に関しては特に、とても短いと思うのだが・・・」


 顎に手をやり、何やら真剣に考えていらっしゃる。


 確かに。

 膝上10㎝は、一番足を細くて長く見せるベスト丈らしいので、そうするのはある程度仕方がないとしても。

 それ以上に、プラス5cmから10cmくらい、短い人が圧倒的に多い。


 スカートの裾と床の距離が離れているほど、足は長く見えるらしいからなのだろうが。


 ちなみに私は、自分の足の形にあまり自信がないので、校則をきっちり守る良い子ちゃんです。


 ですが何故? 

 今になって生徒会長が、そんなことをお気になさるのでしょうか?

 先生たちも、見て見ぬふりをしている女生徒たちのスカート丈を。


 ハッ!


「もしかして、生徒会長様は・・・」


「最近、痴漢の被害報告が、増えているんだが・・・」


「ハイ?」


「ん? どうした?」


「イエ、別に・・・。確かにクラスの女子にも、被害にあった子が何人かいると、聞いていますが・・・」


 ヤバイヤバイヤバイ・・・・・・。

 さっき一瞬だけ、“会長はもしかして、校則を膝上20cmにするつもりなのでは”と、疑ってしまいました。


「しょせん生徒会長も、そこいらの男と一緒なんですね? このムッツリスケベ!」


 なんて、口にしたその時には・・・。


 想像しただけでも、失神してしまいそうです。

 胃が、キリキリと痛みます・・・。


 そう。

 ここ最近、痴漢被害が増えている。

 しかも、電車通勤の子達ばかり。

 学校に行く時間帯は、ちょうど通勤ラッシュ時。


 いろんな年齢・職種の方々が、あんな狭いところに箱詰め状態にされ、密集された場所にいるせいで、駅員も警察もそして被害者たちでさえも、悪質で陰湿な上に卑怯極まりない憎っくき犯人(私は痴漢をそういう人種だと思っている)を、特定できないでるらしい。


「その被害にあう女子にも、問題があると思わないか?」


「と、いいますと?」


「スカート丈だよ。あの短さ、どう考えても“私を襲ってください”または“お触りOK! もっとやっちゃって!”と誘っている、もしくはアピールしているとしか、思えん長さだと思わないか? そう考えると、どうにもイマイチ、気乗りがしなくてな・・・」


 会長は、今度は机の上に肘をつき、片手でほおずえを付いてみせると、


「ハア・・・」


 と、なんとも悩ましげなため息なんぞをついて、見せてくれました。

 それにしてもイケメンって、何をやっても絵になるんですね?


 でも、そうなのか・・・。

 スカート丈の短い女子のこと、生徒会長はそんなふうに思っていたんですね?

 私の個人的意見は、


「あんなに、堂々と見せることができるなんて! うらやましいぜ! こんちきしょう!」


 な感じですが。

 ああ、私もモデル体型だったらなあ・・・と自己嫌悪に陥っていると。


「そういえば今日はアレ、作ったんだろうな?」


 いつもの催促が、始まりました。


「はい、今ここに・・・」


 私はそう答えるとすぐさま、彼の前に要望の品を差し出した。


「前回は豚だったから、今日は鶏がいいと思ってな?」


 ・・・という依頼でしたので。


「おお! 前回の豚の生姜焼き弁当よりも、ボリュームがあるように見えるぞ!」


 とてもよろこんでいらっしゃって、何よりです。

 一口大よりも、少し大きめに作っておいて、正解でした!


 会長は弁当箱の中から、箸でその中の一つをつまみ、パクリ・・・と、食いついたかと思うと。


「すごいな! 外はカリっと、中はジューシーじゃないか」


 少し興奮したような声で、目を輝かせながら、そう言い放ちました。


「鶏のもも肉に調味料を足すたびに、しっかり揉み込むこと。揉み込む調味料の中に、酒と玉ねぎのすりおろしが入っていることで、柔らかくってジューシーなお肉になるんですよ。ちなみに外がカリっとしているのは、2度揚げをしているからです」


 ということで・・・。

 今回は、“鶏のからあげ弁当”です。

 “冷めても美味しい”を目指して、頑張らせていただきました。


 白ご飯の上には、ごま塩かけて。

 おかずには、鶏のからあげを筆頭に、卵とスナップエンドウ炒め、ひじきの煮物にピーマンとパプリカの塩昆布ナムルで、彩りよくしてみた力作でございます。


 特に、“ピーマンとパプリカの塩昆布ナムル”は、塩昆布とごま油の組み合わせが絶妙で、クセになるお味です。

 赤・黄色・緑と、色のコンストラストも、素敵だしね~。


 と、自分の作った弁当に、感無量と言わんばかりに浸っていると、


「お前は、校則をきちんと守っているようだな! よろしい!」


 気が付けば会長は、私の足へと視線を向けて、なにやらとても満足そうにうなずいてます。


「お褒め頂き、光栄です」


「そうだぞ? 他の男どもに堂々と生足見せるとか、マジありえんからな? これからも、それ以上に短い丈のスカートをはくことは、オレが許さん!」


「・・・肝に銘じます・・・」


 って、どうして私、この人にスカート丈を決められないと、いけないんだろう?

 毎度ながら、よくわからないお方です。


「会長、さっきの話から察しますに、もしかしてまだ、痴漢の対処はなさっていないのですか?」


「いや。すぐに対処し、既に犯人に制裁を加えている、真っ最中だが?」


 さすがは生徒会長様、相変わらずお仕事がお早いようで。

 それにしては、ずいぶんと浮かない表情をしていらっしゃるようですが・・・。


「しかし。まさかあいつだったとは・・・」


 困ったように、眉をひそめて顎に手を当てながらも、苦笑していらっしゃる。


「え? もしかして、うちの学校の生徒なんですか?」


「ああ。保険室のベッドの上で今もなお、うなされているやつだ。しばらく制裁を与えてから、それなりの対処をしようと思っている」


「え? 保健室・・・・・・」


 確か、保健室には・・・・・・。

 

 何故か最近、両手を包帯でぐるぐる巻きにしている、三枝 剛志(さえぐさ たかし)風紀委員長がいるのは、同じクラスだから知っているんだけど。

 毎朝、学校に来るなり男子トイレに駆け込んでは、深い溜息とともに戻ってくるので、風紀委員長としのプレッシャーなのか? と、クラスのみんなから心配されている。


 その彼は今朝、とうとう、


「目がぁぁぁ~!オレの体中に、あの目があああぁぁぁ~~!」


 と、新川さんと同じようなフレーズで、学校に来るなり男子トイレにて、発狂していたらしい。

 確か今、本人の希望で保健室で休んでいるはず、なのだが。


「まさかね~?」


 だって彼は、真面目が服を着て歩いているような、校則違反は決して許さない、1秒の遅刻だって鬼の形相になる、そんな人だから。


 だからこそ、そのクソ真面目さが評価され、今回の風紀委員長に抜擢されたはずなのだ。

 まあ一部の噂では、自分の好みの子といいますか、可愛い子には甘い・・・ぶっちゃけ、えこひいきの激しい気の小さいやつだ! と聞いたことはあるんだけど。


「・・・で、今は何個目になったんだ?」


 今日も、弁当の中をキレイに平らげた生徒会長様は、突然、そんなことを口走りやがりました。


「?」


 と、思っていると・・・。


「フフフ・・・。今現在で、88個になりましたわ」


 という、甘えたようなネコなで声した女性の声が、聞こえたかと思うと・・・。

 口裂け女さん同様に、背後から生徒会長に抱きつく、女性の姿が目に入りました。

 長い黒髪に、血の気のない白い肌をした、白い着物の裾から見えるはち切れんばかりの巨乳が、とても羨ましい美女。

 そのでっかい胸を生徒会長様の背中に、惜しげもなく押し当てていますが、彼は全く興味のないご様子です。


「えっと・・・あの・・・ソレはナニ?」


 そう。

 その、驚くほどに羨ましい豊満なお胸さまよりも、気になって見入ってしまう部分。

 彼女の両手には、それぞれ6つづつの目が、ついておりました。

 ・・・・・・って!


「目なの~! ソレ、見えるんですか?」


 一体、どんな仕組みなの?


「フフフ、もちろん見えるわよ~」


 口元に手を当て、上品に微笑えむ美女。


「ソレ、布とかが当たったりして、痛くないですか? 目の表面が乾くとか・・・」


「そうねぇ~。それは、あるかしら~ん」


 お心当たりが、あるようで。

 左頬に手を当てながら、悩ましげなポーズで考えていらっしゃる。


「そろそろケリをつけないと・・・。三枝のやつは、マジでヤバいな?」


 そう言いつつも、会長は口角を釣り上げて、何やら楽しそうに微笑んでいらっしゃって・・・。

 その笑顔、マジで怖いですから!


「え? どうしてですか?」


「こいつ・・・百々目鬼の腕から目が全て消えたとき、それは三枝のやつにすべての目が移ったことを意味する。これは、ヤツの“死”を意味するんだ。やばいだろう?」


「ええ・・・。確かに・・・」


 会長の話によると。

 三枝風紀委員長が女性の体に触れる、女性のスカートや身につけているものを触る、のぞきなどをすると、百々目鬼さんの目が、彼の体あちこちに出現するらしい。


 それがもう、88個って。

 風紀委員長、この短期間にどれだけの女性に、触りまくったんですか?


「褒美の品をもらったら目のチカラで、警察に行こうと思いますが」


「いや、それはマズイ! まずは生徒指導室に行って、洗いざらい自白してもらってからにしよう。 オイ、あれは作ってきたか?」


「はい、こちらに・・・」


 そういって、私は紙袋の中から、ひとつのタッパーを取り出す。

 それを受け取った百々目鬼さんは、ふたを開けるなり、


「まあ! なんて、美味しそうなハチミツ色~」


 目をキラキラと輝かせ、その中の一つを手でつまむと、そのまま口の中へと放り込まれました。

 その行為、なんだかとてもエロいです。


「すっごく柔らか~い! それでもって口の中に入れたら、まるでとろけるみたい。色ツヤもいいけど、味にも独特の深みとコクがあって、とっても美味しいわ~」


 両頬に手を添えながら、とても満足そうにございます。


「確かに! ホロホロのとろっとろで、これはウマい!」


 会長は、驚いていらっしゃる御様子です。


 今回、私に出された指令は、“やわらかい肉料理”。

 よって先日、近所のスーパーのタイムセールにてゲットした、豚バラ肉の塊を使用することにしました。

 ポイントを押さえれば、誰にだって美味しく作れる、お手軽簡単な角煮です。


 例えば、黒砂糖と豚肉、相性がいい! とか。

 茹で汁を足すときは、水でなくお湯でとか。

 醤油を先に入れると味が染み込みにくくなるので、あとで入れるとか。


 圧力鍋を使わなくても、ちゃんとトロトロで柔らかい角煮は、作れるんですよ。


 百々目鬼さんは、会長に取られると思ったのか、ものすっごい勢いで、タッパーいっぱいに入っていたはずの角煮を、ペロリと平らげてしまわれました。


 よほどお口にあったのか、手についていたタレまでも、ペロリと舌で舐めとるお姿も、めちゃくちゃエロいです。


「美味しかったわ! またよろしくね!」


 そう言って、私をギュッと抱きしめたと思ったら、そのまま姿を消してしまわれました。


「ソレ、また肉料理ってこと?」


 目が100個もあるのに、肉料理?

 それよりも、目にいいものを食べたほうがいいんじゃ?


 いろいろあるらしいけど、特にルテインの多いほうれん草とか、アントシアニンの多いビルベリーとかを多く含んだ料理を、持ってくるべきなのかしら?

 きっと何百年も、会長のお家に使えているのだろうから、老眼も考慮すべきなんじゃないの?

 もっと、自分の目の健康を考えて欲しいわ!


 そんなことを考えていると・・・。


「オイ!」


「ハイ!」


「こっちに来い!」


「ハイ・・・って、えーーーーーー!」


 考え事を中断し、声のする方に視線を向けると・・・。

 生徒会長様はいつの間にか、部屋の中にある3人用ソファーへと、移動なさっておいででした。


 そして・・・。

 なぜか、自分が腰を下ろしている隣の席を、ポンポン・・・と手で叩いております。


「何をしている? 早く、ここにす・わ・れ!」


「ハハハ、ハイ!」


 ピシリ・・・と生徒会長の左眉間に、うっすら青い筋が浮かんできたような気がしたので、私は慌てて指定された場所へと腰を下ろすことに。


 すると・・・。


「あの・・・これは一体・・・」


 なんと!

 ファンクラブの皆様が見たら、袋叩きに合いそうな光景が、出来上がってしまいました。


「オレは寝る。10分したら起こせ!」


「ハイ・・・」


 そう言うと、生徒会長様は・・・。

 私の膝の上に頭を乗せた彼は、そのまま両目を閉じてしまわれました。


 え?

 コレ、どういうこと?


 混乱したまま、その場に固まってしまう私。

 しかし、目を閉じてしまった生徒会長様は、そんなことを気にする様子もなく・・・。


「第一だなあ~」


 突然両目をカッと見開き、ビシリ! と人差し指を私めに向かって下から突き上げると、


「お前は、オレにだけ触られていれば、それでいいんだよ!」


 と、すっごく真面目なお顔で、言い放ったのでございます。


 え?

 ナニソレ・・・。


 ・・・・今日も、意味がわかりません!


 こうして私は会長への謎を深めつつ、一日を終えたのでございます。

百々目鬼 (どどめき)


 生まれつき手癖が悪く、金と見るや盗みを働いてしまう人間の女性に、無数の目が現れて妖怪となったらしいです。

 その無数の目は、彼女の盗んだ金に宿る精霊たちらしいです。

 体中に不気味な目を宿しているので、キモイ妖怪だと思われがちなのですが、美女らしいですよ。


 好物は“お肉”だと書いてあったので、今回は豚の角煮にしました。

 いろんなお肉を使ってたくさんご馳走して、百々目鬼さんの胃袋をわしづかみにしちゃましょう♪


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