表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/25

抜け首とふんわりスイーツ

「こ、これぞまさに、“男飯”!」


「はあ、ソウナンデスカ?」


 弁当のふたを開けるなり、なんでガッツポーズをとってんの? この人・・・。

 まさかそのポーズが男らしいだなんて、勘違いをなさっているのではないのでしょうね?


 今日も、リクエスト通りのお弁当をご提供できて命拾い・・・ではなく、満足です。

 そう思っていたのに・・・。


 なんで、急に雲行き怪しくなってんの?


 さっきまで、子供みたいにはしゃいでいたはずの生徒会長様は、今では弁当の中を睨みつけ、まるで嫁に対して重箱の隅をつつくようなことを言いそうな、お姑さんみたいな顔になっております。

 私の家も小さい頃、お父さん側のお婆ちゃんとお母さんがよく、影でバトっていたなあ・・・と思い出すくらいのお顔を、今度は私に向けてこられましても、正直迷惑なんですけど・・・。


「今回は、オレの指示通りの食材なんだろうな?」


「・・・と、いいますと?」


 私の返事を聞くなり、そのお美しいお顔に、深~い眉間のしわなんぞを刻まれまる悪魔、・・・もとい生徒会長様。


「チッ! ここまでバカだったとは・・・」


 という、聞き捨てならないお言葉を叩きつけたかと思うと、


「庶民の食べ物に適した、豚肉を使ったんだろうな? と聞いているんだ!」


 その大きな目を皿のように細め、“鳴かぬなら、今すぐ殺してしまえ! ホトトギス”的な容赦なく殺気立った視線を、わたくしめに向けております。


 ・・・そういえば、慣れって恐ろしいですね?

 毎回、こういうパターンをくぐり抜けているせいか、耐性がなるものが身についてしまいました。

 あんまり、嬉しくないスキルですが・・・。


「もちろんです。イベリコ豚でも金華豚でも、ましてや国産黒豚でもありません。今回使用の豚肉は、近所のスーパーにてタイムセール対象品となったものを、手ごわい主婦の手から勝ち取ったものに、ございます!」


「それはすごい! 合格だ!」


 “エクセレント!” と大声で叫んで、拍手までなさる生徒会長様。

 “姑バージョン”は、どこかに吹っ飛んでいった御様子です。


 彼は満足気な視線を再び、弁当箱の中へと戻されました。

 私はといえば・・・。

 生徒会長様の反応を確認後、彼に見つからないように細心の注意を払いながら、“はぁぁぁぁぁ~~”と、深~いため息をもらさせております。


 前回。

 私は、とある失敗をしでかしました。


 それは。

 タコ・カニ・宇宙人なる要望があったウインナーのことなので、ございます。


「オイ!」


「ハイ?」


「タコ・カニ・宇宙人ウインナーは、どうして赤ウインナーではないんだ?」


「え?」


「お前はバカなのか? あの真っ赤な、いかにも着色料バリバリな上に、ただならぬ安物感を漂わせている、庶民におなじみ“赤ウインナー”でなくては、すべてが意味のないものになってしまうだろうが! 第一あれを使わないと、宇宙人が火星人っぽくならんのが、どうして分からないんだ!」


 と、おしかりなるものを受けてしまったのです。

 そう。

 私が使ったのは、“シャウエッセン”。


 まさか、あんな見た目が明らかに体に悪そうなウインナーを、生徒会長がご所望だったなんて!


 ・・・ん? アレ?


 ・・・・・・なんで宇宙人=火星人仕様でなくてはいけないの?

 もしかして、会長のその東大一発合格レベルの頭脳の中では、宇宙人=火星人オンリーなわけないですよね?

 って、火星人だから赤とか、安直すぎやしませんか?


 普通、赤ウインナーを使って欲しいのは、タコとカニの方だろうがーーー!!


 しかしそんな反論、私にできる勇気などなく・・・・・・。


「食材費は全て、オレのポケットマネーから出しているんだから、要望はきちんと満たせ!」


 とのご命令に対し、ただ、うなずくことしかできないなんて・・・情けない!

 拒否権? 

 そんなもの、私に存在するわけ無いでしょうが!


 ここまでで、もうお分かりであろう!

 生徒会長のみならず、私のお弁当の食材費もまるっと全部、全てを生徒会長の私費にて賄っているのだ!


「これは一ヶ月分の、弁当の食材費用だ。受け取れ!」


 生徒会長秘書なるものに、任命されたその日。

 目の前のテーブルの上に、ポン! と投げ出された封筒から出てきたのは、見たことのない量の福沢諭吉様。

 なんでも、100人いらっしゃったそうで。

 友達100人作る前に、偉大なるお方の100人影分身? なるものと、ご対面しちゃいました。


 それにしても・・・。


 100万円って、意外と薄いんですね? 

 もっと、分厚いの想像していましたよ・・・。


 初めて見る大金なはずなのに、何故か冷静な判断ができる私・・・。

 だって今、それ以上に非常識なことが、目の前で行われているではありませんか。

 一ヶ月の弁当の材料費代に、100万円?!


「どこのセレブ様だよ!」


 って・・・。

 相手は生徒会長様だもの、仕方ありませんよね?

 しかし・・・。


「そ・・・そ・・んなお大金ということは、お食材もそ・・・それなりにお金をかけて? お最高級お食材にて、お弁当様をお作りしろと・・・」


 おかしな丁寧語なるものをごちゃまぜにしながら、そう問いかける私・・・。

 庶民の私からすれば、一体何を購入すればいいのか検討もつかず、思わずめまいがした・・・その時である。


「はあ? 何を言っているんだ? お前が作るのは庶民のキサマらが普段食している、普通の弁当だろうが!」


「だったら、こんなに大金、いりませ~ん!」


 毎回、食費にこんな金額使っていたら、我が家は2~3ヶ月にて一家心中だよ!

 毎日、チラシチェックに余念がない一般市民、舐めんなよ?!


「何を言う! これには、オレのしもべたちの褒美の品の食材費も、含まれているんだぞ?」


 ・・・ということで。

 話し合いの結果、なんとか5万円にしてもらいました。


「こんな、はした金でいいのか? お前ら庶民は安上がりだな?」


 なんて、鼻で笑われましたけど・・・。

 私からすれば、お前はどんだけ金銭感覚おかしいんだよ?

 普通、高校生が札束ポン! なんて出せるわけ、ね~だろ~がぁぁぁぁ~!


 ・・・思い出したくもないことが、蘇ってしまい、必死に怒りを抑えたせいか、私、結構疲れています。

 今すぐ、家に帰りたい・・・。


 という気分を、なんとか持ち直しまして・・・。

 今日のリクエストは、“豚の生姜焼き弁当”なるものでございます。

 庶民らしく、タイムセールでゲットした、豚のこま肉を使用。

 豚肉に片栗粉まぶして焼いて、調味料を入れて絡めるだけの、とってもお気軽簡単メニューに仕上げました。

 たっぷりとしょうがを効かせ、いかにもな庶民的豚肉の生姜焼きが、できているはず!

 きっと、 力みなぎるお味になっていると思います。

 

「男らしく、ガッツリいきたい!」


 と、見た目にとても反する要望につき、薄く敷き詰めたご飯の上に、キャベツの千切りを薄く敷き、その上にたっぷりと載せて差し上げました。

 味とその量で、男らしさは十分にイケていると思います。


 おかずは、半分に切った煮玉子に、ブロッコリーとベーコンのにんにく炒め、人参明太子なるものを入れて彩にも気を使える私、グッジョブ!

 自分で、自分を褒めるしかない!


 ・・・が。


「ガッツリいくんじゃないんですか?」


「何を言っている? ガッツリいってるだろう?」


「はあ、ソウナンデスネ・・・・」


 食べている姿は、とってもお上品でいらっしゃいました。

 その、美しいと言わざるを得ない容姿に優雅なる箸使い、お育ちが良すぎてどうしてもワイルド系には、クラスチェンジできないんですね?

 まあ、本人が満足しているのなら、私はそれでいいことにします!


「そういえば今回の食材も、(りゅう)と買いに行ったのか?」


 突然、お食事を満喫中の生徒会長様から、質問を受けました。


「? はい。ちょうどタイミングよく、スーパーの前で鉢合わせしましたので・・・」


 そう。

 私は偶然にもつい最近、“スーパーお得セール仲間”をゲットした。


 サッカー部の主将兼生徒会副会長の、篠原 隆之介(しのはらりゅうのすけ)くん。

 生徒会長の幼馴染権親友という、なんとも恐ろしいポジションについていらっしゃるお方だ。


 生徒会長と肩を並べるほどに成績優秀、体育会系のノリとその人懐っこい性格が大人気、さわやか笑顔で女生徒を魅了するイケメン様だ。

 見た目は、オリーブ顔の代表と言われる○こみち似で、男らしくてかっこいいともっぱらの噂である。


 そんな彼の趣味は、なんと料理なのだそうだ。

 よって時々、忙しい母親の代わりに、晩御飯を作っているらしい。

 なのでよくいろんなスーパーや専門店で、食材を安く仕入れているのだとか。

 特にお得情報に関しては、とても重宝するべき存在なのである。

 

「あそこの青身魚よりも、あっちのスーパーのほうが新鮮で安いんだ」


「お肉はあそこの店がいいけど、でもコロッケ類はあっちのほうが断然ウマい!」

 

「日用品は腐るものきゃないから、安売りの時には迷わず手に入れないと、絶対に損だぜ」


「あそこは毎日、18時30分から、値引きシールが付くんだ」


 などなど。


 昨日も、豚肉とともにトイレットペーパーの特価セール時間帯を教えてもらい、一緒に買い物を終えたばかりである。


「ふ~ん・・・そうなのか」


「?」


 なんでだろう?

 そちらから聞いてきた割には、ずい分とそっけない返事だな・・・と不審に思いつつ、生徒会長の背後にある窓の外へと、何気なく視線を向けた、その時であった。


「え?」


 アレ?

 ナンデ?


「ヒ、ヒィィィーーーーー! し、篠原く~~ぅん~~~?!」


 なんとそこには!

 私のお得セール仲間の篠原くんが、爽やかイケメンスマイルを窓に貼り付けながら、こちらの様子をうかがっていらっしゃる?

 まあ、普通ならこんな光景、顔真っ赤にして心臓ドキドキな、少女漫画展開になるはず・・・なのだが?


 そう。

 この部屋が、4階建て校舎の一番上にある、という事実さえなければね? 


 窓を見て、薄着で北極にたどり着いた人のように、ガチンコチンにその場に固まった私へ、生徒会長はちらりと視線を向けると、そのまま窓へと移動させた。


「今帰ったのか?」


 そう言うと会長様は、両開きの窓を開け放つ。


「え? アレ?」


 そして私は、信じられないものを目にすることになったのだ。


「し、ししし篠原様?」


「ん? どうしたの? 藤原さん」


「あの・・・あなたの首から下は、何処(いずこ)へ?」


 そう。

 彼は、首から上だけが、宙に浮いていたのである。

 ようするに、さらし首が動き回っている・・・アレだ。


 何日か前の歴史の授業でやった、さらし首が何ヶ月経っても腐ることなく、目を見開いて夜な夜なさまよいながら叫び続けたという、タタリが恐ろしいと有名な武将様を真似しているの?

 って、普通の人間が真似できるわけ、ねーだろーがーーー!!


 ・・・・・・訳わかんないツッコミ入れたところで。


「どこって、保健室だけど?」


 普通に答えを返されました。


「ももももしかして、“首をつないでもう一戦しよう”とか?」


「もう終わったけど?」


「え? 誰と?」


「君のストーカーとだよ? 一段落したから、戻ってきたんだ~」


「は? ストーカー?」


 ついには、予想外の答えまで、返されてしまいました。

 ・・・ということで。


 私には、生徒会長ファンの人たちが依頼したという、アブナイ系の筋のお方のストーカーが、ついていたらしい。

 いち早く気がついた生徒会長の依頼により、私は副生徒会長である篠原くんに守られていた・・・らしいのだ。


「あの~、どうして篠原くんが?」


 すると、篠原くんは会長を横目でチラリと見たあと、


「だって、(しゅう)が君を守ったら、相手を確実に仕留めるよ? 証拠隠滅(しょうこいんめつ)に、硫酸の海へと死体を放り投げるくらい、平気でやりかねないけど・・・そっちのほうが良かった?」


 さらに、物騒な答えを返されました。


「で? ストーカーは、どう始末したんだ?」


「高熱にうなされて、入院中だよ~。もちろん、精神科病棟にだけど」

 

「? もしかして、篠原くんの今の姿を見て?」


「まあ、それもあるけど・・・」


 話によると・・・。

 篠原くんは、ストーカーの存在を確認後、私との買い物を終え、家に帰ってから首だけになり外出。

 その姿で朝までストーカーを追い掛け回すという行為を、もう一週間も繰り返しているらしい。

 本人曰く。


「自分の姿を見て、日に日におかしくなっていくクズの様子を、リアルタイムで眺めることが出来るのは、とぉ~~っても楽しい!」


 と、スポーツマンにあるまじき発言を、爽やかイケメンスマイルでなさいました。

 さすがは生徒会長様の、幼馴染権大親友。

 

 そして今日。

 発狂していたストーカーは、私をストーキングをした日=生首にストーキングされると思い違いをし、とうとう依頼の嫌がらせではなくて、殺害する方を決意。

 すぐさま拳銃なるぶっそうなものを、その筋の方から手に入れてしまった。


 ヤバイと思った篠原くんは、すっかり頭のおかしくなってしまったストーカーの頭に、思いっきり噛み付いたらしいのだ。


「ボクの家は代々、抜け首な家系でね? そのせいで、秀の家とも随分と懇意にしているんだけれど。抜け首には、面白い特徴があってね・・・」


 その特徴というのが、抜け首の姿になって人に噛み付くと、噛み付かれた人は高熱を出して、生死をさまようというものらしいのだ。


「それ以前に抜け首になったボクの首って、霊感の強い人とか見せたいと思った相手にしか、見ることができないんだよね~。なかなか便利だろう?」


 と、いうことで。

 この一週間、周りの人から完全におかしくなった人と、勘違いされていたストーカーは、


「首がぁぁ~~、首がぁぁ~~」


 とうなされながら、高熱で救急病院に搬送され、そのまま精神科へ送られることとなったのだ。

 拳銃も所持していたから、警察のお世話にもなることであろう。


「よくやった! 褒美をつかわす!」


 その報告に満足した生徒会長様は、私が事前に渡した箱を彼の前へと差し出した。


「え? それは篠原くんへの褒美だったの?」


「うん。僕たち抜け首というか、ろくろ首に属するものは甘いもの、とくにスイーツ類には目がなくってね~。ボクは、これが大好物なんだ~!」


 箱から取り出したのは、チーズケーキ。

 ふんわりとした食感が好きとのことで、スフレチーズケーキに挑戦しました。

 このふんわり感を出すために、湯煎にかけながら混ぜるところと、オーブンの温度にはかなり苦戦をしましたが。


 一口入れるなり、


「さすがは藤原さん! 本当に上手だね? 見た目も、プロのケーキ屋さんみたいだよ!」


 表面割れちゃってたけど、ジャムを塗れば目立たないんだよね~!

 そして、さらに一口。


「本当に、ふわっふわだね。食べた時に口の中でジュワーってなって。表面に塗ったアプリコットジャムといい感じに味が絡んで、すっごく美味しいよ!」


 と、高評価をいただきました。

 細心の注意を払い、頑張って良かった!

 心の中で、ガッツポーズを取る私。


「確かに・・・庶民にあるまじきプロな味だ!」


 って、いつの間にあなたも食べていらっしゃったんですか? 生徒会長様。


「隆、コイツとはもう、買い物しなくてもいいぞ?」


 チーズケーキまで綺麗に平らげたあと、突然の解任宣言がなされました。


「え? どうして? 篠原くんの知識は、私にとって結構貴重な・・・」


「そんなもの、オレ様が逐一お前に教えてやる。それでいいだろう? ありがたく思え!」


「ハ?」


 ・・・と、毎度ながらも呆気にとられるしかない私。

 しかし、目の前で満足げにただずむ生徒会長様は、そんなことを気にする様子もなく・・・。


「第一だなあ~・・・」


 突然、ビシリ! と人差し指を私めに向かって突き出すと、


「お前は、俺とだけ買い物に行けばいいんだよ! 他のヤツは誘う必要なし!」


 と、すっごく真面目なお顔で、言い放ったのでございます。


 え?

 ナニソレ・・・。


 ・・・・今日も、意味がわかりません!


 こうして私は会長への謎を深めつつ、一日を終えたのでございます。

抜け首

ろくろ首には、2つのタイプがあります。

1)首が伸びるもの

2)首が抜けて頭の部分が自由に飛行するもの


です。


基本、無害な妖怪のようですが、海外のはグロかったり、害をなす存在のものがいるようです。

噛み付いた相手は高熱を出す・・・というのは、ゲゲゲの鬼太郎の「高熱妖怪ぬけ首」からヒントを得ています。


ろくろ首はスイーツが好物だと、妖怪ウォッチで言っていたので、それをそのまま採用しました。

チーズケーキにしたのは、ただ単に作者の好物だから。

あと、よく作るスイーツだし。


結構お手軽に作れるスイーツなので、たくさん作ってろくろ首さんたちの胃袋を、わしづかみにしちゃいましょう♪


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ