表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

ダラシと簡単でボリューム満点なおにぎらず

「こ・・・これは・・・」


 目の前の男性は、そのアーモンド型をした大きな瞳をさらに大きく限界までに、カッと見開いておいででした。

 まるで、ブラックダイヤモンドのようにキラキラと煌めいている、漆黒の色をした大きな瞳。

 ・・・・・・何に対して、そんなにびっくりしてんの?


「鰹節とご飯の組み合わせといえば、猫の主食と聞いていたが・・・」


 オイ!

 ソレ、作った私に対して、めっちゃ失礼です。

 ア・ヤ・マ・レ!

 って、言いたいところですが・・・。


 とてもじゃないけど、悪魔大元帥=ルシファー様の再来とも言える生徒会長様に、そんなだいそれたこと、言えません! 私・・・。


 ということで、今日のリクエストお弁当は、安い・うまい・ボリュームあり! で庶民に大人気だと思われている(=生徒会長様に)“ノリ弁当”にございます。


 まずは、鰹節(かつおぶし)を、砂糖・しょうゆ・みりん・お酒・炒り白ごまで炒めます。

 ソレ(=これ以降はおかか)をお弁当箱に薄く敷き詰めたご飯の上に、これまた薄く敷き詰めまして・・・。

 そのうえに海苔→ご飯→おかか→海苔を敷き詰めました。

 なんって、豪勢なのり弁! だと、自負しております。


 けっして、猫まんま的なものには、仕上がっておりません!

 第一、猫まんまは白いご飯におかかをふりかけただけのもの! なんだぞ!

 こんなに手間隙かけておいしく仕上げたおかか、猫には味が濃すぎて食べれるわけねーだろうが!

 以前に・・・。

 私的にはマジ! 美味しかったんですけど?!


「じゃあ、お気に召さなかったと・・・」


 ということで、お口に合わないものは下げてしまおうと手を伸ばした・・・、その時である。


「甘辛い鰹節(かつおぶし)と、白ご飯に海苔のハーモニー。白ご飯がいくらでも食べれてしまいそうな、なんとも魅惑的な組み合わせではないか! オレ的、味の大革命!」


 なんて、どっかの食レポさんみたいなコメント、言いやがりましたよ?


 よく見れば、今日はネコ耳ですか?

 気分は、超豪華な“モンプチ”食べている、『猫の王様』と言われるペルシャ猫ですか?

 ちっこいネコ耳ピクピクさせて、()っといふわっふわの尻尾をシッポをピン! と、垂直に立てていらっしゃるお姿が・・・。

 犬は尻尾フリフリだけど、猫は尻尾おっ立てている=“うれしい!”表現なんですよ~。


 ということは、置いといて・・・。


 なんでだろう?

 私だけには、そう見えてしまうのか?


 おかずには、生徒会長ご指定のウインナーに人参のグラッセ、ふわふわだし巻き卵に、無限ピーマンとデザートには、りんごを入れてあります。


 その指定も、結構細かったのだ。

 以外と、こだわりの多い男なのだと、思い知る。


 なんで、ウインナーはタコさんでなければならないの?

 あと、カニさんと、宇宙人? 一体何を見てそんなことをぬかしやがったんだ?


 「卵は甘めが庶民風だ!」


 って、どう考えても、あなたの嗜好ですよね?


「食べた感じは、ふわっふわのジュワーだぞ! わかったな?」


 って、そんな表現、どんなグルメ漫画? もしくはドラマ? を参考にしているの?


 人参のグラッセは、ハート型にしろだと?

 りんごの皮は、うさぎの耳にしろだと?

 お前、どんだけファンシーな生き物だよ?


 「緑のいろどりは、今庶民の間で大人気という“無限ピーマン”なるものにしろ!」


 というので、作りましたよ? 簡単だしね?

 ピーマンとシーチキンに、ごま油と鳥ガラスープの素を足して、塩コショウで混ぜて、レンジでチン!

 仕上げに白ごまふって、鰹節かけたらOK! の品ですもの。


 と、レシピ見て作ったはずなのだが、生徒会長様は・・・ご不満? なご様子。

 “無限ピーマン”を口の中に入れるなり、眉間にシワを寄せ、なんとも小難しい顔をなさっておいでです。

 

 やはり、“庶民の味”は、お気に召さなかったのか・・・。


「オイ!」


「ハイ?」


「このパサパサした魚、たしか“シーチキン”だったな?」


「ハイ? そうですが・・・」


「たしか、材料は“ツナ”=マグロだろう? 高級食材を使っておきながら、なぜこんなにもパサパサなんだ? お前、料理が下手なのか?」


「ハイ?!」


「マグロといえば、味が濃厚で、舌に絡みつく食感のあるものだろうが!」


 なんて苦虫を噛み潰したような、ご不満MAXなお顔をこちらに向けられましてもねえ・・・。


 オイオイオイ・・・。


「それは、お坊ちゃんであるあなた様がお食べになる、“マグロ=クロマグロ”という名の最高級品のことでしょうか?」


「当然だ! マグロといえば、それしかないだろう?」


 胸の前で腕組みをし、さも当たり前だと言わんばかりの顔をしていらっしゃる。


「えっとですねえ・・・。私のように、小金にもケチケチしてしまう一般庶民の間で、“ツナ”と言われる魚は、例えば“ビンチョウマグロ”とか・・・」


「“ビンチョウマグロ”は、たっぷり脂の乗った“ビントロ”が取れる高級魚だぞ?」


「それ、100本中に1本の割合でしか、取れません! 普通は、脂肪が少なくて、パッサパサの身質なんです! それを、シーチキンの材料に使っているんです!」


 って、どうして“ツナ=シーチキン”の解説を、私がしないといけないの?

 もしかして、こんなことも知らない生徒会長って、実はオバカさ・・・。


「やはり、庶民のことは庶民にしかわからないものだな・・・」


 顎に手をやり、感慨深そうなお顔をしていらっしゃる。

 ソウデスネ? 庶民の食べ物事情なんて、ご存知ありませんよね?

 って!!

 シーチキン、食べたことなかったのか!


「ピーマンの苦味もなく、このシーチキンと調味料の味がうまく絡み合って、なんとも病みつきになる味だな! 海苔弁に通じるものがある! これも正しく、オレ的、味の大革命!」


 ハイハイ・・・。

 要するに、気に入ったんですね?

 

 美味しく召し上がっていただけて、何よりです。

 そして又しても、米粒一つ残すことなく、お綺麗に完食!

 

 いつもどおり、食後の一服なる玉露を入れて、生徒会長様へと献上する。

 今日も、何やらご機嫌のご様子・・・。

 ということで、私は最近気になっている事を聞くことにした。


「あの~、生徒会長様」


「なんだ?」


「あの~、小耳に挟んだのですが、我が料理部を廃部にしようとする動きが、あるとか・・・」


 そう。

 最近、そういった聞き捨てならぬ噂を耳にしたのだ。

 

 原因は、読モとして人気急上昇の、我が高校の1年生である、笹岡 綺亜羅(ささおか きあら)さん。

 彼女は、私が料理部で調理に勤しんでいるタイミングを見計らって、生徒会室に乱入。

 そして、


「読モとして有名なこの私を、調理部は毎日誘惑しまくりで困っているの! 今すぐ廃部にしてください! でないと私、一向に痩せないわ! 仕事に差しさわりまくりなの! 大問題なの!」


 と、自己チュー極まりない主張を、金切り声で喚き散らしたのだとか・・・。

 学校に、彼女のファンは意外と多かったらしく、調理部の友人たちは、


「彼女のために、廃部にしたら?」


「営業妨害で、訴えられるかもよ?」


「嫌がらせだって、スポンサーが怒鳴り込んでくるかもよ?」


「ファンの闇討ちに会うかも・・・」


「先生の間では、廃部を既に検討中らしいとか・・・」


 と、遠まわしな嫌味なるものを、浴びせられ続ける日々。

 おかげで皆、やる気がどんどん落ちてしまい、いまや休部状態寸前なのである。


 なので、思い切って聞いてみたのだ。

 学校的に、調理部を廃部にするしかないのか・・・を。


「あったがな? その問題は、解決したぞ?」


 しかし、会長は茶をすすりながらも、あっけらかんとした表情で、そうおっしゃいました。


「え? どんな風に?・・・」


 と、会長に詳細を聞こうとした、その時である。


「今、帰っちゅうよ(今、帰りましたよ)」


 という言葉とともにガリガリにやせ細った、年寄りなのか若者なのか今ひとつ区別のつかない、頭の部分が落ち武者仕様の白い服を身にまとった男性が、姿を現した。


 足を組んで、優雅なただずまいでお茶を飲んでいらっしゃる、生徒会長様の足元に、三つ指ついてひれ伏しながら・・・。

 その男は、まるで妊婦かビール腹のオッサンのごとく、お腹がぷっくりと前に突き出ている。

 屈んでいる姿が、かなり辛そうだ・・・と、見ていた時である。


「あの高飛車女のクレームは、このダラシが解決した。よって、調理部は今まで通り、美味しいものを作ることに励むが良い!」


「え? 解決?」


 ハテ?

 このおっさん? いやいやじいさんかな? は、何をなさったのかしら?

 首を左横にコテン・・・と曲げ、考え込んでいると、生徒会長が私の作ってきたものを渡すところが、視界に入った。


「よくやった! 褒美をつかわす!」


 と言って、ダラシさんに渡した包みの中身とは・・・。


「美味しそうやき~!(美味しそうですね~!)」


 そう言うなり、包みの中のものをわしずかみにし、まるで空腹に耐え兼ねた人のように、両手に持って貪り食べるダラシさん。


「アレはなんだ? 俺は確か、“おにぎり”だけでいいといったはずだが?」


 ダラシさんの食べているものに、眉間にシワを寄せ、不審そうな顔をしながらも、興味津々の生徒会長様。


「あれは、最近庶民の間で流行っている、“おにぎらず”というものです。ラップの上に、海苔、ご飯、そして具を乗せて包むだけという、手を汚さずにできる、“にぎらないおにぎり”ですよ?」


 そう。

 ダラシさんが、一心不乱に食べまくっているのは、あえての今風のおにぎり。

 具には、生徒会長様も食したのり弁に使用した、おかかとスライスチーズの組み合わせ。

 スクランブルエッグに、塩昆布とスライスチーズの組み合わせ。

 肉味噌を挟んだものの、3種類を用意。


 たくさん食べると聞いていたので、3種類を5個ずつ計15個作ったはずのおにぎらずは、あっという間に完食。

 ダラシさんはとても満足そうに、さらに膨れたお腹をさすりながら、帰っていかれました。

 包のラップが見当たりませんが、まさか後でお腹下したりしないよね?


「あ、あの・・・ダラシさんは一体、どのようなお仕事を・・・」


 ダラシさんが帰ったあと、不安いっぱいに聞いてみた。

 もう、嫌な予感しかしないんですけど・・・。


「ダラシはな、取り付いた相手に激しい空腹感、飢餓感、疲労を感じさせることができる。ひどくなれば、手足が痺れたり体の自由を奪われたりし、最悪の場合はそのまま死んでしまうこともあるので、その一歩手前でご帰還いただいた。“痩せたい!”とあの女は懇願していたのだから、問題ないだろう?」


 そう言いつつ生徒会長様は、何やら嬉しそうに不敵な笑みを浮かべていらっしゃる。


「え?」


 予感は的中した。


 ナニ、その自己中な見解は!

 ・・・と、毎度ながらも呆気にとられるしかない私。

 しかし、目の前で満足げにただずむ生徒会長様は、そんなことを気にする様子もなく・・・。


「第一だなあ~・・・」


 突然、ビシリ! と人差し指を私めに向かって突き出すと、


「お前は、料理部でもっと腕を磨くべくだろう? オレだけのためにな!」


 と、すっごく真面目なお顔で、言い放ったのでございます。


 え?

 ナニソレ・・・。


 ・・・・今日も、意味がわかりません!


 こうして私は会長への謎を深めつつ、一日を終えたのでございます。

ダラシ(別名ヒダル神とも言われています)


山道などを歩いている人間に、空腹感をもたらす悪霊の類を言うらしいです。

取り付いた人に、激しい空腹感、飢餓感、疲労感などを与えると言われています。

「茶漬け食べたか?」と訪ねてきた時に、「食べた」と答えると、襲いかかって来るので要注意。

腹を引き裂かれてしまうそうですよ。


ダラシを防ぐためには前もって、彼用の食料(特にコメ類)を持参しておいたほうがいいとされているため、おにぎりで撃退する人が多いらしいです。


よって、普通のおにぎりや海苔巻きで十分だと思うのですが、今回はあえての“おにぎらず”です。

いろんな具材に挑戦して、ダラシの胃袋を掴んじゃいましょう♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ