口裂け女と甘~いべっこう飴
「さあ、だせ! 今ここに!」
目の前には、まるで魔王さまかと思うがことき風貌で、君臨なさっている男子生徒。
机の上に足を投げ出し、両手を大きく両サイドに広げ、今にも、
「さあ! 今すぐ生贄を我の前に、差し出すがよい!」
と、言わんばかりである。
その姿はいつもどおり、背後に今日も眩しい日の光を浴びて、まさに輝いていらっしゃる。
といっても、陽の光なしでも、私からすればいつも輝いていらっしゃる方なのですが・・・。
そう。
この人の見た目は、一言で表すと、とってもお美しくていらっしゃる。
女の身の上である私が、男である生徒会長のことをそういうのも、なんですが・・・。
まるで芸術品か何かのように、整いすぎた顔立ちと、陶器のように透き通った白い肌。
滑らかなシルクのように、ツヤツヤサラサラの黒髪。
普段は細身でありながら、バスケットの練習試合の助っ人でユニフォームなんて着た日には、意外と筋肉あるよこの人! って驚かされるほどに、程よく引き締まった均衡のとれた体つき。
いつもなら、まるで“天使”か“神”だと言わんばかりに、とても穏やかで優しい笑みを絶やさないと、性別年齢問わずに大人気の、生徒会長様。
・・・・・・な、はずなのですが・・・・・・。
私とふたりっきりになったとたん、彼は別の顔をのぞかせる。
まるで魔王がごとき、天上天下唯我独尊的な風貌にお成りあそばされた生徒会長様は、威圧的な微笑みを私へと向けているのだ。
“天上天下唯我独尊”・・・我ながらうまいこと言ったよ。
“この世の中で、オレ様より尊いものはいないに決まっているだろう? ああ~?”なんて、もう目が、態度が全身全霊でそうおっしゃっておりますもん!
“品行方正”・“知勇兼備”・“貴顕紳士”・“眉目秀麗”・“聖人君子”などなど、とってもお素敵なお方として、学校や社会一般の人々を騙し・・・ではなく、みなさんの憧れの的であらせられる、生徒会長様。
なんで私の前だと、こうなっちゃうんですか?
私、残念で仕方ないんですけど!
もしかして、こっちが“素”じゃないんですか? と思える程に・・・。
そんな、ふてぶてしい風貌をなさっている生徒会長様に、私は貢物なるものを差し出した。
「どうぞ、お収めください・・・」
と。
生徒会長様の前にひざまずき、神様に捧げものをするべく、貢物を両手で持って、うやうやしく頭を下げながら差し出した。
彼はそれを見るなり、まるで餌の時間のワンコのように目をキラキラさせながら、それを私の手から奪い取る。
ああ、会長。
私には、ワンコ耳と尻尾が見えているんですが。
耳をピン! と立て、尻尾をちぎれんばかりに左右に振りまくっている、そのお姿。
最近、餌付けに余念のないあなたの持ち駒、犬神君たちとたいして変わりありませんよ?
犬化した生徒会長様は、貢物に手をかけ、キラキラした目で箱のフタを開けた。
「おお~! これが庶民がよく食べる、“三色弁当”なるものか!」
大きなアーモンド型の整った目を、さらに大きく見開き、驚きを隠せない御様子だ!
とっても嬉しそうである。
っていうか・・・。
“三色弁当”は、庶民の食べ物だったっけ?
まあ、会社を何件も経営している御曹司の息子がそういうのだから、間違いはないのかもね?
ということで。
今日の貢物は、鳥そぼろに炒り卵、ほうれん草の胡麻和えで3色に見立てた“三色弁当”。
おかずには、プチトマトと、レンコンと人参のピリ辛きんぴら、竹輪の磯辺揚げを入れておいた。
お育ちのよいお坊ちゃまな生徒会長様は、箸使いもとても丁寧で品よく、わたしの作った庶民弁当なるものを召し上がっていらっしゃる。
そう。
“生徒会長秘書”という役職がついたその日から、私の主なる仕事は、“生徒会長のお弁当づくり”なのである。
それと、もう一つ。
「ああ、そういえば、アレも持ってきただろうな?」
丁寧な箸使いを休めることなく、視線はお弁当の中そのままに、会長様はそうおっしゃられた。
「もちろん、仰せのままに!」
ということで、私はもうひとつの箱を、カバンの中より取り出す。
すると・・・・・・。
「今、戻りましたわ。ご主人様」
突然、女性の声が部屋に響いた。
「ヒッ!」
と私が短い悲鳴を上げたと同時に、会長を背後より抱きしめている、女性の姿が視界に入った。
床につくほどに長い黒髪を垂らした上には赤いベレー帽。
体にフィットするような、スカート丈のめっちゃ短い、赤いワンピース。
足元には、艶やかな赤いハイヒールを履いている、嫌でも目立つ女性だ。
しかし、会長はそんな容貌に臆する事なく、平然とした表情で目の前の弁当に夢中である。
「ああ。うまくいったようだな?」
「ええ。だって、私ですもの・・・」
フフフフッ・・・・・・と、不敵な笑みを浮かべる女性。
唇が真っ赤なせいか、顔の2/3が口に見えますけど? を半月のように口角を釣り上げながら・・・。
「あれから今日で、一週間だ。黒崎のやつも、これで当分は俺のものに、手を出そうとは思うまい!」
そして、こちらも女性に負けないくらいに、満足げに両口角を釣り上げて、微笑んでいらっしゃいます。
「え?・・・黒崎って・・・。あの、黒崎くん?」
隣のクラスの、黒崎 隼人くん。
卓球部所属で、全国クラスの腕前の持ち主。
スポーツマンらしい爽やかな笑顔で、女生徒に大人気だ。
その彼は最近、
「お腹がすいた~」
と言っては、よく我らが料理部の部室へとやって来る。
しかも、出来上がった頃を見計らっての、ナイスなタイミングで。
そして、作ったものをとても美味しそうに、そして綺麗に平らげていく我が部の常連さんのひとりである。
が!
そういえばここ最近、彼の姿を見かけない。
彼が来るのを楽しみにしていた、料理部員のみなさん同様に、私も心配だったのだが・・・。
彼と同じクラスにいる、料理部仲間に聞いたところによると。
どうやら彼は最近、体調がすぐれず、学校に来れないでいるらしい。
なんでも、
「オレの顔がぁ~! 体がぁぁぁ~~!!」
と叫びながら、ベッドの上で布団にくるまったまま、姿を現さないのだとか。
病院に連れていこうにも、本人が布団から出てこないので、両親も困っているのだという。
「ま・まさか・・・」
チラリと、女性へと目を向ける。
彼女はといいますと・・・。
「あら、その箱の中のものは・・・」
「ああ。お前への謝礼だ! ありがたく受け取れ!」
先ほど生徒会長に手渡した私の箱を、真っ赤なその大きな口から、ヨダレをだらだらと垂らしながらも、キラキラ輝く目で見つめる女性。
箱の中には、黄金色をしたクマやウサギにネコやイヌ、ハートや星型にバラやひまわりの形をした依頼品なるものが、所狭しと入っている。
「ま、まあ~! これは私の大好物の・・・」
そう言うなり、20cmオーバーに伸びきった、先の鋭くとがっている真っ赤なツメで、ハート型のソレを掴むと、
「あ~ん!」
まるでブラックホールとも思えるような、大きなその口へと放り込んだ。
そして、まるで可愛らしい乙女のような微笑みをしながら、ほほへと手を添えると、
「コレ、美味しいです~」
と、満足そうな笑顔で、次々と黄金色のアレを口の中へと放り込んでいった。
そしてあっという間に食べ終えると、今度は私の方へと視線を移す。
「え? もしかしてなにかご不満な点でも・・・」
その彼女のまるで獲物を見据えたような目つきに、ゴクリ・・・と冷ややかな汗とともに、大量に発生した唾を飲み込んだ、その時である。
「なかなかやるじゃない? 小娘の割には上等よ!」
思っていたのとは違い、お褒めのお言葉をいただきました。
「こんなに美味しいもの、かなり大変だったでしょう? 私は、とっても満足よ! また作ってきてくれないかしら~?」
大きな口をさらに横に広げ、今にも私を喰わんとしそうな表情なその女性。
え?
意外とフレンドリー?
と思えたので、内心ホッとする私。
「作り方は簡単ですよ。生徒会長の助言により、可愛い型を選んで流して作ってみたのですが・・・」
「もう、100点よ! 美味しくって可愛らしくって、文句の付け所がなくってよ!」
ということで。
大満足いただけた御様子です!
よかった・・・・・・・。
その後、大量生産をするという約束をして、その女性=口裂け女さんは帰っていかれました。
そして、大満足そうになさっている方が、もうひとり。
「おい、お茶!」
綺麗にお弁当を平らげた彼は、今度は食後の一服をご所望です。
「はい、どうぞ・・・」
会長の私物である玉露を入れ、空になった弁当箱の横へ、コトン・・・と置いた。
そして、
「あの・・・黒崎くんは一体・・・・」
今は機嫌がいいであろう生徒会長に向かって、先程からの疑問を投げかけた。
すると、さっきの口裂け女さん顔まけの、悪寒の走るような笑顔を作った生徒会長様から、またもや意味不明な答えが返ってきました。
「ああ。アイツ、毎日料理部が調理をし終わった頃を狙っては、お前の作った手料理を平らげていっていたそうじゃないか?」
「え? ええ。料理部みんなで作ったものを、とっても美味しそうにきれいに食べてくれてましたよ?」
それが何か?
「料理部の作品を・・・それも貴様の作ったものを、オレの許可なしに綺麗残らず食べ尽くすとは、いかなるものか! しかも、“うますぎて、最近オレ~、太ってきちゃったよ~”なんて、他のやつらに自慢しやがって! 俺にとっては許しがたき所業! よって、口裂け女に命令し、あいつの長く尖った鋭い爪で、毎日あの男の体のいろんな部分の肉を、削いでもらっていたんだよ。“太ってきた”と悩んでいたから、丁度いいだろう?」
「え・・・・」
ナニ、その自己中な見解は!
・・・と、毎度ながらも呆気にとられるしかない私。
しかし、目の前のイケメンはそんなことを気にする様子もなく・・・。
「第一だなあ~・・・」
生徒会長様は突然、ビシリ! と人差し指を私めに向かって突き出すと、
「お前は、オレにだけ料理を作っていれば、それでいいんだよ!」
と、すっごく真面目なお顔で、言い放ったのでございます。
え?
ナニソレ・・・。
・・・・今日も、意味がわかりません!
こうして私は会長への謎を深めつつ、一日を終えたのでございます。
口裂け女
暗がりの中をひとり寂しく歩いていると、マスクをした若い女性が、「私、綺麗?」と訊ねてくる。
「きれい」と答えると、マスクを外して、「これでも?」ってしつこく聞いてくる。
「きれいじゃない」と答えると、包丁や鋏といった鋭い刃物で相手を斬り殺す、口が耳まで避けている美女のことです。
彼女の大好物は、“べっこう飴”もしくは“ボンタンアメ”だと言われています。
そこで今回は、“べっこう飴”を作ってみました。
水と砂糖さえあれば、簡単に作れます。
1)まずはアメを固める型に、油をぬりぬり。
2)耐熱皿に砂糖と水を入れて軽く混ぜたら、レンジでチン✩
3)黄色くなったら、取り出してすぐに1)の容器に流し入れる。
4)固まったら容器から外して、出来上がり☆彡
となります。
可愛い型でたくさん作って、口裂け女さんの心をわしづかみにしよう♪