第58話 双子の夢- 後編 -
医者は暫くアリシアの脈を計り、顔をしかめてその腕をベッドの端に置いた。
「今は落ち着いているが、意識が戻ったらまた体調も情緒も不安定になるだろう。寝かせっ放しというワケにもいかんから、何とかせなきゃならんな・・・」
ボルトと名乗った町医者は早朝に叩き起こされたにも関わらず、トラキア達が転がり込んだ宿へ出向き、アリシアへ治療を施してくれた。がっしりとした体格で、顔に大きな刀傷がある。右目も見えないのか、眼帯をしていた。そのような風体にも関わらず、小さな子供達にも好かれている名医だと言うのだから、世の中は分からない。
「アリシアは、体が普通の人間とは違うんだ。毎日、薬を飲まないと体調を崩してしまう。でも、その薬は特別製で、普通では手に入らないんです」
トラキアは、アリシアがルゴワールによっにて人工的に生み出された人間である事、薬はルゴワールの研究施設に行かないと手に入らない事を曖昧に言い換え、ボルトに説明をする。
しかし、ボルトにはそれが言い訳や誤魔化しにしか聞こえなかった。彼はトキの目を真っ直ぐ見つめ、言葉を濁さず問い掛けた。
「この娘さん・・・クスリをやっているだろう?」
「クスリ?」
トラキアは、ボルトの言うクスリが、何を意味するのか一瞬分からなかった。
「症状が、麻薬中毒者の禁断症状にそっくりだよ」
「ふざけんなよ!! アリシアが麻薬なんてやるワケねーだろ!!」
ワッツがボルトに喰ってかかり、トラキアは何かに気付いたかのように、ハッと息を呑む。二人を見て、ザードが呆れたように溜息をついた。
「・・・クスリ漬けにして、組織を裏切れないようにする。
組織が飼い犬を逃がさないようにするための常套手段だ。その娘が毎日飲んでいた薬がソレなんだろ?
そんな事にも気付けなかったのか?」
トラキアとワッツの心に、ザードの絶望的で素っ気無い言葉がじわりと染みた。
確かに、自分の居る犯罪組織という世界は、人の欲望や敵意、裏切りや嫉妬など、負の感情を食い物にしている世界である。しかし、組織に育てられ、組織の中で戦ってきたトラキア達にとって、ルゴワールは唯一の居場所であり、全てだった。犯罪組織である以上、ルゴワールの全てを肯定するつもりは無いが、大本の所には自分の産みの親としての信頼があった。その思いが揺らぐ。
アリシアの体調を管理している医師の顔が浮んだ。人当りの良い、優しい男だった。彼がアリシアに与えていた薬は、彼女を組織に縛り付けておく為のものだったというのか。
そしてアリシアを、マスカレイドの仲間を裏切ったツヴァイ。Uナンバーズと呼ばれていた頃から一緒に戦ってきた5人の仲間を、ツヴァイはあっさりと殺した。
トラキアの中で、自分の信じていた世界が崩れ始めた。
顔色を無くし立ち尽くしているトラキアとワッツを横目に、ボルトは広げていた治療道具を片付け始める。
「とにかく、この娘が飲んでいた薬が何か分からない以上、正しい治療は出来ない。俺の方でも出来るだけ症状を和らげる方法を探してみるが・・・期待はせんでくれ。アンタらもこの子が飲んでいたクスリの手がかりが分かったら、スグに俺の治療院まで連絡をくれ。また夕方頃に来る」
ボルトの言葉は、トラキアの耳に入っている様子は無い。ボルトはトラキアの正面に立ち、トラキアの胸を叩いた。
「しっかりしろ。この娘の頼りはアンタらしか居ないんだろ?
ボケッと突っ立ってる間に、てめぇで出来る事を考えろ」
「・・・あぁ、そう、だな」
覇気の無い声で、トラキアはボルトの叱咤には応える。ボルトはフンと鼻を鳴らすと、トラキアを押しのけるように部屋から出て行った。
ボルトが去ってからたっぷり5分以上、誰も言葉を発しず、動こうとすらしなかった。
一連のやりとりを傍観していたザードが、痺れを切らして立ち上がる。
「・・・約束どおり、車は頂いていくぞ。これ以上付き合う義理も無いからな」
そう言うと、ザードは自分の荷物をまとめ始める。トラキアとワッツは何も言う事が出来ずに、その姿を見送る。
そしてザードは、じゃあな、と一声軽く手を振り部屋の扉を開いた。
すると扉の隙間に挟まっていたのか、封筒がハラリと床に落ちる。
「なんだこれ?」
ザードは封筒の裏表を見て、無造作に封筒を破り、中身を確認する。中身の便箋に書かれていた文章を、そのままトラキア達にも聞かせた。
「旧街道の先、アルセスタの森で待つ。
だとよ。もうココ連中に見つかってるみたいだぞ?」
ワッツはザードの手から便箋と封筒をひったくる。封筒には、便箋の他に、折り目の付いた茶色い小さな薄い紙が入っていた。ザードとワッツはそれを見て首を傾げるが、トラキアはひと目でそれが何か分かった。
「アリシアの薬の包み紙だ・・・!」
トラキアとワッツの瞳に、ようやく光が戻る。
「薬が欲しかったらココに来いってか・・・まだ手紙を置いていった奴、近くにいるかもしれないぞ!」
「いや、追っても無駄だろう。全く気配を感じなかった・・・」
トラキアはこの手紙の意図を読み取ろうと、思考を巡らせる。既に自分達の場所がツヴァイ達に割れているなら、ここに直接刺客を送り込めばいいのに、何故このような真似をしたのか。考えるまでも無い。アリシアの薬を餌に、トラキアとワッツを確実に殺す為の罠に誘い込んでいるのだ。ツヴァイにとって、恐らくこれは余興だ。
「ザード=ウオルサム。あんたに頼みがある」
「断る。犯罪組織、ましてやルゴワールにこれ以上関わるのは御免だ」
するとトラキアは、自分の荷物から分厚い札束を抜き出し、テーブルに放った。
「ならば、正式な仕事の依頼として頼みたい。傭兵なんだろう?」
札束の厚みは尋常ではなかった。旅の資金に不自由はしていないザードだったが、それでもこの金額には驚いた。そして、これだけの金額を積んで自分に何を頼もうとしているのか、興味が湧いた。
「・・・一応聞くだけ聞いてやるよ。何だ?」
「俺達が居ない間、アリシアを守って欲しい」
トラキアの依頼は、シンプルなものだった。ここまでは。
「・・・そして、もし俺達が奴らに殺されるような事があったら、アリシアの事を・・・・」
「あぁ、そこまでは面倒見切れねーよ」
トラキアの言葉は溜息混じりの声で遮ぎられた。
「この娘の面倒を見るのはアンタらの仕事だろ。
そいつに関してはいくら金積まれても引き受けるつもりはねぇ。俺には荷が重過ぎる」
そう言うと、ザードは札束の中から紙幣を一枚、抜き取った。
「でも、今日一日くらいの護衛なら引き受けてやる。護衛の仕事なら、これだけで十分だ」
一般的な護衛の仕事の日当分の紙幣を揺らして、ザードは言った。もっとも、ザード程の腕の剣士を護衛として雇うには安すぎる金額ではあったが。
ザードは手にしていた荷物を再び部屋の隅に放り投げ、剣を抱えて椅子に座り込んだ。アリシアを護るように。
「・・・すまない。ありがとう」
トラキアはそう礼の言葉を告げると、封筒に入れられていた薬をアリシアに飲ませた。薬はほんの少しだけ残し、包みの中に戻した。ボルトの治療院へ持って行き、成分を調べて貰うのだ。二人はその足で呼び出し場所へ向かうのだろう。装備一式の詰まった大きな鞄を背負い、宿を出て行ってしまった。
「・・・ホントに頼むぜ。この娘残して逝っちまったりするなよ・・・本当に後の面倒なんて見ないからな・・・」
また面倒な事を頼まれてしまったな、と、部屋に残されたザードは心配そうにベッドに寝かされた少女の顔を覗き見る。心なしか、薬を飲む前より表情が穏やかになっていた。
ふと思いつき、札束から抜き取った一枚の紙幣を見た。そしてまた、大きく溜息をつく。
「・・・偽札じゃねぇか。さすが犯罪組織・・・・」
◆
15年前。戦争に戦車等の重兵器が導入されるようになった頃から、街の東を流れる川に鉄筋コンクリート製の橋が架けられた。それ以降、昔から使われていた吊り橋に続く街道は旧街道という扱いとなった。廃道となった訳ではないので、今でも時折整備がなされ、吊橋も数年に一度、ワイヤーの張り替えが行われている。とはいえ、この旧道の先にあるのは大戦後期に見捨てられたた小さな廃村のみである。今は人の住まない村に続く道に人気など無かった。
その道を、トラキアとワッツはマスカレイド部隊のコートを羽織り、大きな荷物を持って歩いていた。フードとデスマスクは脱いでいたので、その姿は特に異質なものではない。手にした大きな鞄の中には、装甲車をも打ち抜くライフルが入っていた。アダマンタイトの防弾服には、これくらい大型の銃器でなけれは通用しない。
「あいつ、何だかんだ言っていい奴だな・・・」
ワッツがライフルの鞄を背負い直し、呟いた。あいつとはもちろん、ザードの事である。
「戻ったら・・・ちゃんと礼をしなきゃな」
「・・・戻ったら、ね」
どこか自嘲気味の笑みを浮かべて、ワッツはトラキアの言葉を繰り返した。
「勝算はあるのか?
こっちは二人で、向こうは少なくとも20人近くだ。ただの兵隊ならともかく、奴らは俺達と同じアダマンタイトの防弾服を着ている。
とてもじゃないが・・・」
「いいや、勝てる。昨日連中の動きを見て分かったが、奴らの装備は一流でも、使い手の質は大したものじゃなかった。こっちにはアダマンタイトにも貫通する大型ライフルもある。アダマンタイトの防弾服を着ていても関係ない。正面から当たれば、決して勝てない相手じゃない」
自信なさげなワッツを励ますというより、トラキアはどこか自分に言い聞かせるように言った。
ワッツも、トラキアと同じ意見の所はある。確かに、個々の兵達にはあまり脅威を感じなかった。20人という人数は脅威だが、例えばその戦力を分断して戦う事が出来れば、戦いの流れをこちらに向けることは出来るかもしれない。
ただし、それらを束ねるツヴァイは別である。射撃の腕はトラキアに及ばないものの、ナイフの扱いに関してはマスカレイドの中で1、2を争う程の使い手だ。そしてツヴァイの一番恐ろしい所は、その狡猾さである。目的の為なら、手段を選ばないという性格。
手紙によるツヴァイからの呼び出し。ワッツには、あのツヴァイが指定の場所で律儀に待ち構えているとは到底思えなかった。
森の木々が途切れ、目の前に深い崖と、吊橋が現れた。
旧道となってから利用する人間が居なくなったと言われる吊橋だが、ワイヤーも床板もそれほど傷んでいる様子は無い。崖の下を流れる川は、流れはそれほど速くないようだが川幅は広く、深さもそれなりにありそうだ。トラキアとワッツは、吊橋を渡る前に、念の為橋に細工がされていないか調べから渡り始めた。
橋を4分の1ほど渡った所で、トラキアは一度後を振り向いた。周りにおかしな様子は無い。再び前を向いて歩き出した時、その足どりは振り返る前よりも少し早かった。ワッツも周りを警戒しながら、早足で吊橋の上を歩く。
トラキアは歩調を更に早めながら、背中に跳ね上げていたフードを被り鞄の中のライフルを取り出した。
嫌な予感が消えない。
ワッツがライフルのベルトをを肩に掛けた所で、二人の歩みは全力疾走に変わる。吊橋が激しくたわむが、二人はバランスを崩す事無く橋の真ん中まで駆け抜ける。
バガン!
と、突然目前の床板がバラバラに割れて散らばった。3枚分の床板と、それを支えていた金網が抜け落ちた。トラキアの走るスピードに合わせた、絶妙なタイミングでの銃撃だ。普通なら抜け落ちた足場に突っ込んでしまう所だが、トラキアは勢いを付けて床板を蹴り、それを飛び越えた。揺れる足場で、かつ無理のあるタイミングで跳んだため、トラキアは着地に失敗し、吊橋の上で転んだ。
「クソッ! 約束の場所はここじゃねーだろうが!!」
「まぁ、こんなおあつらえ向きの場所でツヴァイが手を出さない訳がないよな」
穴の手前で足を止めたワッツが、ライフルを構え周りを見回す。ゆっくりと、吊橋の前と後の森から、10人前後のマント姿が現れた。その手には、トラキアとワッツが持つライフルと同じものが握られている。
「やっぱりあの野郎、まともに戦うつもりはねーみたいだぞ・・・」
抜けた足場の向こう側で、ワッツが言う。トラキアは身を起こすと、普段のもの静かな様子から一変した。
「ツヴァイ、出て来い!!」
沸き立つ怒りを抑えきれず、トラキアは叫んだ。
ツヴァイは、トラキア達からは見えない森の奥から二人を見ていた。
トラキアが自分の名前を叫んだのを聞いたが、その叫びはツヴァイの心を上滑りする。無論、それに応える気など無かった。
通信機のボタンを押し、それを口元に当て、18人の部下へ指示を下す。
「やれ」
トラキアの叫びに応えたのは、アダマンタイトをも貫く弾丸の雨だった。
ライフル弾がトラキアの右肩に当たった。激しい衝撃にトラキアの肩は外れ、弾き飛ばされた体は吊橋のワイヤーに叩きつけられる。狙撃手と距離がある事と、吊橋が揺れる事が幸いし、銃弾の直撃でもマントが貫かれる事は無かった。
「っ・・・ツヴァイーーー!!」
ワッツがライフルを振り上げる。しかしその銃身は、飛び来た敵の銃弾によって、砕けた。
銃弾の雨は、吊橋のワイヤーと床板を削る。ついに吊橋のメインケーブルが千切れ、吊橋はひっくり返るように垂れ下がった。宙に投げ出されるトラキアとワッツ。伸ばした手に、吊橋のワイヤーは僅かに届かなかった。
川の水面に叩き付けられるまでの時間は異様に長く感じられた。自分の周りの時間の流れが遅くなったような感覚。
「・・・クソッ!」
何も抗う事が出来ぬまま、トラキアは深い川に落ちる。出来た事と言えば、崖の下、自分が落ちた川の周りにも、ライフルを構えたマント姿が身を隠しているのを確認出来た事だけだった。
トラキアが水面に浮かび上がるよりも早く、今度は川の中に次々と銃弾が撃ち込まれる。目の前に、幾筋もの空気を纏った銃弾の軌跡が上から下へと突き抜ける。トラキアとワッツが落ちた川面に向って、崖の下で待ち構えていたマント姿達がライフル弾を撃ち込んでいるのだ。
ドン、と、
水中で、体が川の流れとは逆方向に弾き飛ばされた。
途端に赤い靄がトラキアの視界を塞いだ。その靄はトラキアの腹から湧き出す血だ。今度こそ、対戦車ライフル弾はアダマンタイトの防弾服と、トラキアを貫いていた。
◆
夕刻。
ザードとアリシアが待つ部屋に、ボルトが診察へやって来た。
ボルトは眠り続けるアリシアに声を掛け、アリシアはようやく目を覚ました。しかし、目を覚ましたアリシアはこれまで与えられていた薬が切れた事による禁断症状が起こり、ベッドの中で悲鳴を上げた。
麻薬の禁断症状によって、全身の関節が砕けたかのような激痛が走り、体温調節機能に狂いが生じた体は、寒さに震えていた。
痛みに苦しみ暴れるアリシアを、ボルトがベッドに押し付け、必死に落ち着かせようとしているのをザードは何も出来ずにただ見ていた。
いや、見ている事すら出来なかった。
その様子にボルトが気付くと、お前が居ても仕方ないから出て行け、とザードを部屋から追い出した。ボルトにとっては気遣いのつもりだったのだが、ザードは自分の無力さに奥歯を噛み締める事になる。
廊下に立ち、壁に背を預け溜息を吐く。ふと気付くと、ザードは隣の部屋や奥の部屋の宿泊客から、何事かと不安や好奇の目を集めていた。アリシアの声はこの小さな宿の全ての部屋に聞こえているだろう。
「・・・っ、見世物じゃねぇぞ!!」
手近に立てかけてあったモップを、廊下を覗き込んでいた野次馬に向けて投げつける。ガシャン、と激しい音を立てモップは廊下を跳ね、野次馬達は驚いて自分達の部屋へ引っ込んだ。
八つ当たり以外何者でもない自分の素行に、益々ザードは自分が嫌になる。
「エアニス=ブルーゲイルさんだね?」
ザードは不意に見知らぬ男に声を掛けられた。エアニス=ブルーゲイルとは、ザードが1年前まで一緒に旅をしていた情報屋の名前である。ゲイルと呼ばれていたその男は既にこの世には居らず、ザードは彼の持つ名前と、情報網を受け継ぐ事となった。ザードは今、ザード=ウオルサムと、エアニス=ブルーゲイルの二つの名を持っているのだ。
「言伝を預かっているよ」
男はザードに封筒を手渡すと、それ以上何も言わずに立ち去ってしまった。ザードは午前中、ゲイルの情報網を使い、この街でトラブルなどが起きたらすぐに自分の元に情報が届くように手を回していた。今の男は、ザードが依頼した情報屋の運び屋である。
ザードは封筒の中身を取り出し、目を通す。そこには、正午過ぎに旧街道の吊橋が落ちた事、また吊橋の周りで銃撃戦の痕跡があったという事が記されていた。
時刻は夕方である。トラキアとワッツが未だに帰ってこないのは、未だ戦っているからか、返り討ちにあったか。前者は時間的に在り得ないだろう。
「・・・残念。ゲームオーバー、か」
ザードは便箋を握り潰して天井を仰ぐ。こうなる事も十分予想していた。もしかしたら、と彼らに期待する気持ちはあったが、まぁ普通はこんなものだろう。
前金は貰っているが、雇い主が死んだ以上、あの少女の護衛を続ける意味は無い。大体、その前金は偽札である。
こっそり部屋に戻り、隅に置いてある荷物を持ってさっさと街を出よう。ザードはそう思い部屋のドアを開ける。
そして、部屋に入ってザードの目に映ったものは、体の痛みに身をよじり、苦悶の表情を浮かべる少女の姿。耳にしたのは、苦しそうな呻き声の混じる、泣き声。
それは、エアニスの目と耳に一瞬にして焼きついた。
「くそっ・・・」
結局、ザードは荷物を持って旧街道の吊橋へ向かう事にした。自分に彼女を救う事は出来ないだろうが、それでもまだ自分に出来る事がある筈だ。
別に少女の為や、あの二人の男の為ではない。このまま見過ごしてしまうと、後々の寝覚めが悪くなるような気がするだけだ。彼等のためではない。あくまでこれは自分の為の行動だ。
抱え込んだ面倒事が転がる雪玉のように大きくなってゆくのを自覚しながらも、ザードは自分にそう言い聞かせる。
◆
「まだトラキア達の死体は上がらないのか?」
「はい、ですが、川に落ちてからの一斉射撃で、水面に大量の血が広がったのを確認しています。そのまま沈んでしまったのでは・・・」
「・・・滝の下の連中に捜索範囲を広げろと伝えろ」
「はっ」
ツヴァイは川の下流を眺める。トラキアとワッツが川に落ちてから数時間が経過していた。
この川の下流には大きな滝がある。吊橋での狙撃と、川に落としてからの一斉射撃で仕留められなかった場合でも、最後はこの先で滝壺に叩きつけられる。アダマンタイトの防弾服は水中ではかなりの重荷となる上、川面に血痕が浮んだというのであれば、銃弾を幾らかは受けているのだろう。このような状況で生き延びているとは到底思えなかったが、ツヴァイはトラキアとワッツの死体をこの目で確認しなければ安心出来なかった。
苛立ちを隠さずにいるツヴァイへ、通信機を手にした兵士がおずおずと声を掛けた。
「隊長、本部から・・・その、帰還命令が出ています」
「帰還命令だと?」
「はい、今回の作戦は組織内でも正式な任務として扱われていますが、ガーデンから作戦に対する抗議があったそうです。直ちに作戦を中止し、帰還するようにとの事です」
「・・・くそっ、ガーデンの研究者どもか」
ツヴァイ達は、アリシア=スティンブルグと、マスカレイド部隊がルゴワールからの技術の強奪と離反を企てている、という情報を捏造し、正式な組織の制裁として今回の襲撃を行った。その嘘に綻びがうまれたか、とにかくこの時点で作戦の中止を言い渡されるという事は、ツヴァイ達の組織内でのポジションはかなり悪くなっていると考えた方が良い。
「今回の作戦で後ろ盾となって下さったカーティス様も亡くなられています。これ以上は、我々の立場が悪くなる一方かと・・・」
「潮時か・・・」
ツヴァイは最後に一度、トラキアとワッツが落ちた川に視線を送った。
たとえ、あの二人が生きていたとしても大した事は出来ないだろう。アリシアに至っては、ガーデンに戻り薬を手に入れなければ、数日と持たずに薬の禁断症状で死ぬ。作戦は9割方遂行したといっても良かった。
「・・・撤収だ。情報部の連中に、ガーデンと上の連中を黙らせる用意をしておけと伝えろ。
お前達は念のため、隠れ家に身を隠しておけ。ルゴワール本部には俺一人で行く」
その命令を聞いた新生マスカレイド部隊の面々は、外したデスマスクを胸に当て、ツヴァイに頭を垂れた。
◆
ザードがトラキア達の足取りを追っていると、唐突にその道は途絶えた。情報屋の手紙通り、川に掛かる吊橋が落ちていたのだ。
辺りを探ってみたが、あのマント姿の一団やトラキア達の痕跡を残す物は何も無い。対岸に渡り、街道をの先へ進むのは困難である。それよりザードは、谷の底を流れる川に意識が向いていた。谷に垂れ下がった吊橋のワイヤーを掴み、ザードは崖を跳ねるように降りてゆく。常人なら足の竦むような高い崖を一瞬で下り、身を低くして辺りの様子を伺う。人の気配は無いが、川の周りには新しい人の足跡が無数に残されている。そして、
「・・血の匂い・・・」
普通の人間に比べ、遥かに鋭い五感を持つザードは、川下から吹いてくる風に、濃い血の匂いが混じっている事に気が付いた。ザードは迷わず川下に向かい走り出す。
更に時は経ち、日は山の稜線に隠れ周りが薄暗くなってきた頃。
ザードが探していた二人は、川辺に転がる大岩の影で見つかった。ワッツがトラキアを川から引き上げようとし、そのまま力尽きたような姿だった。
「・・・ひどくやられたな」
二人の体から流れる血は、川に注ぎ赤い帯を作っていた。川の水で広がったそれのお陰でザードは血の匂いに気付いたのだ。
「・・・ザード、ウオルサムか?」
ワッツが僅かに首を動かしながら言った。まだ息があった事に驚き、ザードは駆け寄りその身を起こすが、ワッツはその手を払いのけた。
「俺はもういい・・・。それより、コイツは生きてるか?」
ワッツは目を閉じたまま、唇だけを動かす。すぐ横に倒れているトラキアの様子すら分からないのか。ザードはトラキアの怪我の様子を確認する。トラキアの意識は無く、あちらこちら傷を負い、骨も数箇所で折れていそうだった。そして、右の胸と脇腹の間くらいで銃弾が貫通していた。まだ息はあるが、このまま放っておけば死ぬだろう。
「ザード=ウオルサム・・・トラキアを、助けてやってくれ・・・・」
ワッツの願いに、ザードは溜息交じりで答えた。
「この怪我じゃ街まで持つか微妙だな・・・お前はどうするんだ?」
「俺は・・・駄目だな・・・もう目は見えていないし、全身の感覚も無ぇ・・・」
「・・・そうか」
ワッツの怪我は、ひと目見るだけでもトラキアより酷かった。
「・・・トラキアを・・・頼めるか?」
「ずるい奴だな。こんな状況で頼み事されて断れるかよ」
ワッツの言葉が途切れる。ザードには、ワッツが笑ったように見えた。
「"月の光を纏う者"か・・・噂なんて信用ならねーな・・・あんた、いい奴だなぁ」
「俺の噂は8割方本当の事だがな。それに、割り増し料金はちゃんと頂くさ。偽札以外でな」
ワッツから、再び笑ったような気配を感じた。
「・・・もう一つ、頼まれてくれ」
「なんだ」
「そいつの意識が戻ったら、生きろと伝えてくれ。俺達の分まで生きろって・・・。
姫には・・・アリシアには、守れなくてごめん、って・・・・」
「分かった。伝える」
「じゃあ、後は頼む・・・」
ワッツは僅かに右手を浮かして手を振った。トラキアを背負ったザードは立ち上がり、ワッツに背を向け歩き出す。ふと、その場を立ち去ろうとした足が止まった。
「・・・とどめは要るか?」
「そこまで手を煩わせちゃ悪いよ。自分でやるさ」
「・・・分かった」
その会話を最後に、ザードは駆け出しセトの街へ向けて走り出した。
暫く走ると、谷の間に乾いた銃声が響き渡った。
その音は岩の断崖に反響し、音の余韻はいつまでも鳴り響いているようだった。しかし、ザードはトラキアを一秒でも早く街に連れて行く為、足を止める事無く崖を駆け登って行った。
◆
「寝すぎだ」
トラキアの意識が戻って、最初に聞いた言葉はそれだった。
見慣れない部屋のベッド。声は自分の横に立つ銀髪の男。記憶が混濁しているというよりは、何も考えられない状態だった。
「寝ぼけているのか? 俺の事が分かるか?」
「・・・ザード・・・ウオルサっ、ゲホッ、がっ・・・!」
声を出しただけで全身に響く激痛。痛みがトラキアの意識を覚醒させてゆく。
「骨折6箇所、アバラと右肩は特に酷い。腹を特大の弾丸で撃たれてる。重体だ。寝てろ」
ザードは水場に行こうとベッドから離れようとしたが、その腕をトラキアが掴んだ。大怪我をしている人間の力とは思えなかった。少しでも身を動かすだけで激痛が走る筈だ。現にトラキアの表情は苦痛に歪み、額には汗が滲んでいる。
「あれから何日経った!?」
死にかけていた人間とは思えない声だった。これだけ元気があれば大丈夫だな、とは思いつつも、これからトラキアに話さなくてはいけない事を考えると憂鬱な気分になる。
「15日だ」
トラキアの目が見開かれる。口を空けたまま、声を出せずにいるようだ。
「じ・・・・そん、なに・・・!?」
「このまま死んじまうと思ったぞ」
「ワッツは? ツヴァイはどうした!?」
「ツヴァイとかいう奴は知らん。
お前の相方は死んだ」
途端にトラキアの表情が抜け落ち、掴んでいたザードの腕を放した。
「奴に感謝しろよ。お前は奴に助けられたから、死なずに済んだんだ」
「アリシアは・・・?」
「・・・隣の部屋だ」
トラキアはベッドから身を起こし、立ち上がろうとする。痛みには耐えられるものの、足に力が入らないようで、あっさりと膝が折れた。その体をザードが支える。
「会うか?」
「あぁ・・・」
トラキアは気力を振り絞り、自分の足で歩き出す。
部屋には薬と生活臭の混じった、病んだ空気が満ちていた。
「アリシア・・・」
ベッドで寝ていたアリシアは、目を開けて天井を見つめていた。その顔に表情は無い。トラキアの胸がざわめいた。
「どう、した? アリシア?」
トラキアは虚ろな表情のアリシアの肩を掴んで揺さぶる。その拍子に、閉じていた唇が、かぱ、と開き、僅かに反った白い喉がコクンと鳴った。アリシアの首は枕から少しずれて、その視線は天井から窓の外の青空に移っている。
様子がおかしい。
「この子が飲まされていた薬の正体が分からないんだ」
部屋の隅の椅子に、医師のボルトが座っていた。ボルトは疲れきった表情で手元の資料をめくりながら、
「薬の解析をするにしても、解毒剤の精製をするにしても、時間がかかる。この娘の体力が尽きる方が、ずっと早い・・・」
トラキアは立ち尽くしたまま、ボルトの声を聞く。
「もう、その娘の体は限界だ。いつ死んでしまっても、おかしくない。
例え彼女を助ける手段が見つかったとしても、もう間に合わないだろう・・・」
不意に、窓の外を見てていたアリシアの視線がトラキアに向いた。
「あ、アリシア・・・」
しかし、アリシアの視線は、トラキアの姿に何かを感じた様子も無く、再び天井で固定される。
その瞬間、トラキアは全てを失った事を理解した。
トラキアの握り締めた拳から血が溢れた。爪が手のひらに喰い込んでいるのだ。血の滴る両の拳を額に押し付け、トラキアはアリシアのベッドの前で崩れ落ちた。
「お、あ、あぁぁぁああああ!!!」
トラキアは咆哮を上げる。目からは涙があふれ出した。
それは初めて体験する感情だった。
感情の無い兵器として育てられたトラキアはアリシアと出会い、人としてのあらゆる感情を教えられた。その中でも、この感情だけはいまひとつ理解が出来なかった。しかし、ようやくそれが理解出来た。
"悲しみ"が、アリシアがトラキアに教えた最後の感情となった。
後から思えば、彼女ははボロボロの体になりながらも、トラキアの目覚めを待っていたのかもしれない。
その日の夜、アリシアはトラキアに看取られながら静かに息を引取った。
◆
2日後。
トラキアとザードは、セトの街の共同墓地に立っていた。
彼らの目の前には、7つの墓標が並ぶ。
アリシアと、ツヴァイ達に殺されたマスカレイドメンバーの墓標だった。
マスカレイド達の遺体は、ザードの手配によって、全員を連れて来る事が出来た。しかし、アリシアを始め、彼らの墓標に刻まれた名前は全て偽名だった。全員が、科学と魔導の力で人工的に作られた人間である。その遺体は、組織の研究者達にとっては喉から手が出るほど欲しい研究サンプルだ。組織の人間に墓暴きなどをされないよう、ザードは出来る限りの偽装を施していた。
そして、たった今。アリシアの埋葬が終わり全ての事後処理が終わった。
ザードは隣に立つトラキアを見た。襟のある白いシャツと黒いズボンという特徴の無い服装だった。そして、長かった髪は固まった血が絡みついて切らざるをえない状態だったため、今は耳が覗く位の長さで切り揃えられていた。髪型と服装を変えただけで、トラキアはこれといって特徴の無い、どこにでもいるような青年になってしまった。唯一の特徴といえば、左手に杖を持っているという所だろうか。
トラキアの怪我は、ザードが遠くの町から呼び寄せた魔法医に殆ど治して貰っていた。傷は塞がり、骨は繋がっても、まだ怪我をした所に痛みは残っているし、動かす事もままならない。定期的に魔法医の治療を受ければ完治まで2ヶ月、自然治癒を待つならば6ヶ月という診断だった。それが昨日の話である。
「何もしてやれなかったな・・・すまない」
ザードは俯き気味に、トラキアに謝った。
「いいや・・・。十分だ。
本当に、ありがとう・・・」
ザードには傭兵時代に集めた金が、十二分とあった。金と力があれば、大概の事は何とかなるものだ。ザードはそう思っていたが、どうにもならない時もある事を身をもって知った。
「何もかも・・・失ってしまったな・・・・」
トラキアは淡い溜息をつき、空を仰いだ。今の気分にそぐわない、雲ひとつ無い青空である。ザードはその横顔を見て、目を伏せる。
トラキアの目は、全てを諦めた者の目だった。生きる意味を見失い、カラッポになった人間のそれである。
「このまま生きていて・・・何の意味があるんだろうな・・・」
トラキアの言葉に危うい色が浮び始める。事実、トラキアは、自分の命を絶つことも考えていた。
ワッツは「俺達の分まで生きろ」などという遺言を残してくれたそうだが、随分勝手な事を言ってくれたものだ。人の気持ちを考えずに物を言うのが、ワッツの悪い癖だった。
トラキアの様子に、ザードは呆れたように首を振る。面倒くさい奴だ。そう思いながらも、ザードはトラキアの言葉に答える。
「何も無い事は無いだろう。大事な仕事を忘れてるぞ」
「・・・何を?」
「復讐」
穏やかでないその言葉に、虚ろだったトラキアの瞳に光が灯った。
ザードは頭を掻く。あまり人の心に立ち入るような事を言いたくはないのだが、今のトラキアにこれだけは言っておきたかった。
「今はそれしか生きる意味が無いかもしれないけど・・・とりあえず生きていれば、そのうち嫌でもくっついて来るもんだ。
お前が生きる事の意味が、な」
「・・・そういうものか」
「あぁ。少なくとも、俺はそうだったよ」
ザードは、トラキアをかつての自分の姿と重ねていた。
長い間一緒に戦場を共に渡り歩いてきた、軽薄だけど誰よりも信頼できた男。
初めて自分の剣を捧げても構わないと思った、あまりにも優しすぎる少女。
ザードはそのふたりの仲間を同時に失い、たった1人で復讐の戦いを続けた。ザードはその時の気持ちを思い出していた。人の温もりを知ってしまった彼にとって、その世界はあまりにも色褪せていた。
そして、一人が当たり前だと思っていたのに、それが耐えられなくなっていた。
誰でもいいから、傍に居て欲しい。そう思うようになった。
それを思い出した時、ザードは自分でも意外と思える言葉を口にしていた。
「・・・俺と一緒に行くか?」
「え?」
予想外の言葉に、トラキアは間の抜けた声を漏らす。
「その体じゃまともに歩く事もでないだろ。暫くは組織から身を隠す必要もあるだろうし。
俺は情報屋に少しコネがあってな、国によっては市民証を偽造できる。傷が癒えるまで、少し立ち止まってみるのもいいかもしれないぞ」
軽い口調で言うザードに、トラキアは戸惑っていた。
「何故だ? 俺達はあんたを殺そうとしたんだぞ」
「もう俺を狙う理由は無いんだろ? それに、お前くらい強い奴なら一緒に組むのも悪くない」
がちゃり、と、ザードは腰に吊った剣に手をかける。そんなザードをトラキアは不思議そうに見つめ、ふと、緊張が解けたように笑った。
「そうだな・・・一人よりは楽しそうだ・・・」
トラキアはそう呟き、ザードに自分の右手を差し出した。
お節介だったであろうか。しかし、トラキアは何処か救われたような表情を浮かべていた。やはり、トラキアもかつてのザードと同じ事を感じていたのだろうか。ザードは差し出されたトラキアの手をとり、
「宜しくな。えっと、トラキアだったな」
「あぁ」
「その名前も、もう使えねーな・・・市民証を偽造するまでに自分の新しい名前を考えておけよ」
「それは出来ない・・・」
「なんで?」
「アリシアとの繋がりは、もう、この名にしか無い。この名は捨てたくない・・・」
「・・・そうかい。
じゃあ、トキでどうだ。ニックネームって奴だ」
トラキアは肩を竦めて笑った。好きにしてくれ、というニュアンスのようだ。
「宜しく頼む・・・ザード=ウオルサム」
「いいや、俺の名前はエアニス=ブルーゲイルだ」
「え?」
「ザード=ウォルサムの名は、もう捨てたんだ。この名前で、色々やりすぎたからな。
今向っている国で使う新しい名前は、エアニスだ。トラキア・・・いや、トキにはもうその名前で呼んでもらいたい」
「・・・分かった、エアニス」
ザードは足元の荷物を肩に掛け、トラキアに背を向ける。
「先に街を出てるよ。西の門で待ってる」
一緒に行こうと話していたばかりなのに、ザードはいきなり一人で行ってしまった。彼はトラキアに、一人の時間を与えたつもりだった。
仲間との別れの時間を。
トラキアは並んだ7つの墓標の前に膝をつき、その真ん中の墓標、今は偽の名が刻まれているアリシアの墓石に触れて、目を閉じた。
心を持たない兵器として育てられた自分達に、人としての感情を与えてくれたアリシア。この世界でたった一人の家族である自分を探し出してくれた。
ワッツをはじめとするマスカレイド部隊の仲間達。トラキアと全く同じ境遇に生まれ、数日前まで同じ道を歩んでいた。血は繋がっておらずとも、家族と呼べる仲間達だった。
トラキアの頬を涙が伝った。彼らの事を少しでも考えると、今まで泣いた事など無かった分、いくらでも涙が溢れてきた。トラキアは乱暴に涙を拭い、自分の胸を叩く。人としての感情を知っても、そのせいで心が弱くなってしまうでは駄目だ。これはきっと、トラキアが更に強くなる為に必要な感情なのだ。アリシアがトラキアを弱くする物を与える筈が無い。だから、この感情を乗り越えた時、自分は更に強くなれる。
そうだろ? アリシア。
トキは彼女の墓標を撫でる。
「・・・全て終えたら、また来るよ。それまで、おやすみ」
トラキアは立ち上がり、荷物からコートを取り出す。
旧マスカレイド部隊の赤黒いロングコートを羽織い、トラキアは家族の眠る地を後にした。
◆
その後、トラキアとザードは、ミルフィストという大きな街に流れ着いた。
ザードはエアニス=ブルーゲイルと名を変え、目立つ銀の髪を魔導で琥珀色に染めた。
トラキアは元々特徴の無い容姿を活かし、髪を切り眼鏡をかけるだけという簡単な変装と、言葉遣いを変える事で自分の正体を街の中へと隠した。
数ヶ月後、トラキアの怪我が完治し、戦いのカンを取り戻し始めていた頃、ザードはルゴワールに追われていた二人の少女を助けた。
その日からザードとトラキアの運命は再び動き出す事となるが、
それはまた別のお話である。




