魔女ばあちゃんのプレゼント
空羅初の童話作品。
本当は絵本大賞に投稿したけれど落選してしまった、お気に入りの作品です。
可愛い孫と、優しい魔女ばあちゃん。
魔女、って聞くと、邪悪で悪い印象がありますが、村の呪い師って、村の大事な薬屋さんみたいな立ち位置だったのではとぼくは思うのです。
そんなお花畑な世界の中で、しっとりと優しい、人のこころの温かみを描こうとしました。
童話を書くのははじめてなので、なってないところが多いかもしれませんが、良かったら読んでみてください。
むかしむかし ある街に
エミリーと いう 女の子が いました
エミリーの おばあさんは
エミリーに とって
自慢の おばあさん でした
それは なぜなら
おばあさんは その国で たった一人の
魔女 だったから です
魔女ばあちゃんは 毎日 大忙し
街外れで 子どもが 怪我をしたら
大急ぎで 薬を 持っていくし
畑の 野菜が 動物たちに
食べられて しまったら
立て看板を 立てて
その文字に 魔法を かけて
動物たちにも わかるように
あんまり 食べないでね
私たちも お腹が 空くからね、と
教えてあげます
魔女ばあちゃんは みんな大好き
エミリーも もちろん 大好きです
エミリーは ある朝
とっても早く 起きました
よそ行きの 服を着て
可愛い リボンを つけて
玄関の マットの 泥を 払いました
それは なぜって
今日は エミリーの お誕生日
一年に 一日だけ
魔女ばあちゃんに 一日中
遊んでもらえる 日 だからです
朝の 7時 になります
エミリーは 玄関の 扉の 前で
わくわく しています
もうすぐ もうすぐ
大好きな 魔女ばあちゃんと
とっても 不思議な
魔法の プレゼントが やって来ます
7時 ぴったりに
玄関の すりガラスに
人影が 浮かびました
エミリーは 大喜びで
思い切り 扉を あけましたら
魔女ばあちゃんは びっくりして
おやおや、と にこにこ しました
「お誕生日 おめでとう
大きくなったねえ。 エミリー。」
エミリーは おばあちゃんの 胸に
おもいっきり 飛び込み ました
おばあちゃん 、おばあちゃん
箒に乗せて ねえ乗せて
エミリーは せがみました
それはエミリーの
毎年の 楽しみ だったから です
魔女ばあちゃんは にこにこ して
「きっと 言うと 思ったよ
エミリーも 大きく なったからね」
そう言って、扉の 影に 立てかけた
細長い 包みを 渡して くれました
「5歳のお誕生日、おめでとう」
お星様の きれいな 夜の
小川の せせらぎの 色を した
柔らかい 布の 袋を 開けると
つやつやの 木で つくった
真新しい 箒が 出てきました
エミリーは びっくり して
うわあ と ぴょんぴょん 跳ねました
「おばあちゃんが 魔法を かけた
ゆっくり だけど 落っこちない
エミリー だけの 箒だよ」
おばあちゃん 言うと
にっこりして 扉を 開けて
大きな かっこいい 箒に またがり
風を 切って 飛び上がり ました
エミリーは もう どきどき して
「わたしもいく!」と言って
ぴっかぴかの 箒を またいで
軽やかに 飛びました
箒は ゆっくりと、 そして 穏やかに
空に 舞い上がり ました
「おばあちゃん、 うわあああ」
エミリーは 嬉しくて たまりません
おばあちゃんの 横まで 行くと
おばあちゃんは 言います
「いいかい、 お空を 飛ぶときに
焦っちゃ もったいない からね
雲を 見てごらん! どうだい?
気持ちがいいに 違いない だろう」
おばあちゃんは エミリーを
あちこちに 連れて行きました
東の草原の 草を 摘んで
おいしい お茶を 飲んで
高く 高く 飛んで
渡りの鳥たちとも 歌いました
通りすがった 他の国の 魔女は
エミリーを 見ると 嬉しそうに
「おやあ、 ちっちゃな 魔女さん」
と、お菓子を くれたので
エミリーは 覚えた ばかりの
宙返りの やり方を 教えてあげます
たくさん たくさん 遊んで
夕方に なりました
もうすぐ 晩ごはんの 時間 なので
エミリーは もう ぺこぺこです
それでも おばあちゃんは
もうちょっとだけ 我慢して、と
秘密の 雲の トンネルを 抜けて
海に やって来ました
海は すっかり 夕焼けに 染まって
赤に 金に 橙色の 色が 混ざって
ものも言えない ほど 綺麗です
おばあちゃんは とんとん、と
エミリーの 肩を 叩いて
「とっておきの 呪文だよ」と
大きな声で 言いました
「大好きな エミリー
生まれてくれて ありがとうねえ
大好きだよお」
おばあちゃんは 夕日に照らされ
きらきらした 顔で
にこにこ しています
すると お日様が 光って
金色の リボン になった 雲が
くるくるっと 丸まって
“お誕生日 おめでとう、エミリー”
と 文字に なりました
風たちは こぞって
頭を 撫でて いきますし
いつの間にか 箒に とまった
さっきの 鳥たちも
お祝いの 歌を 歌います
エミリー はあんまり 嬉しくって
照れて しまいました
お家まで 飛んで 帰って
玄関に つくまで
エミリーは どきどき していました
おばあちゃん はもう
帰る 時間に なっていました
エミリーは 扉を 開ける 前に
おばあちゃんに こっそり
約束を しました
「今度ね お母さんの
お誕生日が あるからね
内緒で 箒の 作り方を 教えて
今度は 三人で あの 夕日を 見て
おめでとう しなきゃね」
それを聞いて おばあちゃんは
嬉しそうに 頷きました
「ようし、わかった
箒で こっそり 飛んでおいで」と
秘密の 約束を しました
それから、エミリーは
箒を 袋に 大切に しまって
ありがとう、と言いました
おばあちゃんは そっと
エミリーの あたまを 撫でると
箒に のって 夜の 空へと
飛んで 行きました
玄関を くぐると
美味しそうな においが
ふわあっと したので
エミリーは たまらず
机に 飛んで 行きました
そこには とびきりの ご馳走が
山のように ありました
エミリーが 手を 洗って来て
お母さんや お父さんと
席に ついたとき
お母さんは エミリー に尋ねました
「遅かったけれど、
今日は いったい どんなところへ
連れて行って もらったの?」
わくわくした 二人を 前に
エミリー はさっきの 秘密を
そっと 思い出しました
エミリーは にっこり 笑って
「秘密だよ」、と 言いました
「もうすぐ 教えて あげるけど
今は 秘密なの」
エミリーは お誕生日の ケーキに
かぶりつき ました
二人は 不思議そうに
エミリーを 見て いましたが
エミリーは 机に 立てかけた
自分だけの 箒を 見て
そっと 秘密の 甘みを 感じながら
明日 おばあちゃんに 会う のを
それはそれは
楽しみに していました