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外伝4 骨董品廃棄処分フェスティバル・前編


ハイエルフ、という種族がいる。


俗に『エルフ系』と分類される亜人種族の一種であり……その頂点に位置する存在。

単なるエルフやダークエルフといった、他の『エルフ系』種族に比べ、ほぼ全ての能力において上位に位置する存在である。


豊富な魔力と、魔法方面における強力な才能、そして数百年から数千年という長い寿命を持つ。


そして、その優れた能力ゆえか……選民意識や傲慢さといった、自分たちが他者よりも優れている種族である、という思想を持ってしまっていた。


それゆえにハイエルフは、蛮人・俗世と蔑む人間社会と関わることを嫌う。他の亜人もほぼ同様で……彼らに言わせれば、たとえば獣人は『けだもの』となる。


そんなハイエルフが最も嫌うことの1つが、自分たちの血液が、自分たちの領域の外へ流れること、そして、他の種族と混じることである。

ハイエルフは、何か特別な理由でもない限りは、基本的に『隠れ里』から外に出ない。生まれ育った森の中の集落で終生を過ごす。そういう掟だ。


その掟に背き、例えば集落の外に出奔したり、他種族との間に子供を設けるなどした場合……悪ければ処刑すらもありうる、重罰がその者に科されることになっていた。

それどころか……その相手や、仲間にも。ハイエルフの法に照らせば、その者に関わって外に出るきっかけを作ったり、子供をもうけることもまた、罪だからだ。



そんなハイエルフの隠れ里に……大きな転機が訪れようとしていた。



きっかけは、1人の若いハイエルフ――若いと言っても60を超えているのだが――が、外の世界に興味を持ち……集落の仲間たちの再三の引き留めにも関わらず、出奔してしまったこと。

そして、その果てに……ある異種族の亜人の女性と、子を成してしまったことだった。


当然、その事実を知ったハイエルフ達は、怒り心頭で動き出した。


『掟を破った愚か者に罰を』

『至高なる種族たる我らハイエルフの誇りを汚された』

『下等なる異種族がハイエルフの血を盗むなど、あってはならぬこと』

『その者と、相手の女に死の罰を』


……その時、彼らは知る由もなかった。


それが……彼らハイエルフの、悪い意味での転機となることを。

絶対に怒らせてはいけない相手に喧嘩を売った結果……自分たちに、何が起こるのかということを。


☆☆☆


「たのも――――っ!!」


――ドゴォン!!


「何ん――ぐへああぁあぁ!?」


場所は、ハイエルフ達の隠れ里。

その、木造でありながら厳かさと、防衛戦の際には簡易な砦として使えるだけの防御力を両立させた門が……唐突に吹き飛んだ。

そこを見張っていた、門番たち数名を巻き込んで。


突然のことに、驚いて何事かと集まってくるハイエルフ達。

警備兵のような立場の者も相当数いるのだろう。武器を手にしている者達も多い。


そして彼らは、その現場を……というか、吹き飛んだ門が元会ったところを見て、一目で、何が起こったのかを察した。


正確に言えば……何が来て、何をしたのかを。


「来たな、我らハイエルフに弓引く罪人め!」


「大罪を犯しておきながら、のこのこと……その上、さらに罪を重ねるか!」


話は、数週間前にさかのぼる。


もう十年以上も前に、このハイエルフの隠れ里を出奔した脱走者の1人の行方が知れた。

しかしその者は……今こうして目の前にいる、金髪に翠眼の『夢魔』の女との間に、2人もの子供をもうけていた。『ハイエルフ』の子供を。


行為はもとより、存在に至るまで村の掟に背く立場にある彼らに対し、ハイエルフの追っ手達は出頭を命じ、それを拒まれると、容赦なく実力行使に移行した。


が……脱走ハイエルフはともかく、その相手である『夢魔』の女性が問題だった。


強かった。追っ手として編成されてた精鋭ハイエルフ達が、完膚なきまでに叩きのめされるほどに。


死者こそ出なかったものの、そのまま追い返された――それも、見逃される形で――ハイエルフ達は、そこで諦めておけばよいものを、掟と誇りを盾に、姑息な手段に出る。

女性の不在を狙って、空き巣のごとく襲撃。脱走者と子供たちを連れ出す、という手に。


その3人は投獄され、一両日中にはハイエルフの法の下に裁きが下るであろう、という時になったのだが……そうは問屋が卸さない。


愛する夫と息子・娘の不在に気づいた夢魔の女性――リリン・キャドリーユが、烈火のごとき怒りをその身に宿して、しかも仲間たちを引き連れてやってきたからだ。

それも、侵入者撃退・隠蔽のために十重二十重にかけられた、魔法による結界をないがごとく、普通にここまで侵入された。


それでもなお、『罪人が自ら裁かれにやってきた』という認識であったハイエルフ達は……これから起こる惨劇など、全く予想もできてはいなかった。


「愚かな、森の中は我らハイエルフの聖域! たかだか夢魔ごときに勝ち目はないぞ!」


「何やら仲間を連れてきたようだが、無駄なこと……全員この場で、至高なるハイエルフの名のもとに裁いてやろう!」


「おーおー、吠えるねえ。このおっかねーかーちゃんにビビッて、こそこそ隠れて連れ出すしかできなかったビビリどもが」


高慢が露骨に乗ったその言葉を受けて、ニヤニヤと笑いながら言い返すのは、リリンの隣にいる小柄な吸血鬼の女性……クローナ。


口調は軽口だが、その声音にはいらだちが乗っていた。

なんだかんだで優しく、仲間思いなところがある彼女である。元から目つきの悪い目に、さらに鋭い光を込めさせる程度には……彼女も、今回の一件には怒っている。


自分たちのリーダーの夫に加え、2人の間に生まれた、記念すべき第一子と第二子。自分たちも可愛がっていたその2人が拉致されたのだから、当然である。


そしてそれは、その後ろに控えている、アイリーンにテレサ、テーガンも同じだった。


このメンバーに敵意を向けられているという事実が何を意味するか、哀れにも知らないハイエルフ達は……


「ふん、そう言っていられるのも今のうちだけだ……ここでは我らは、外に比して倍する力を使える! 貴様らごときに勝ち目はないぞ?」


「ちょうどいい……明後日にはあの愚か者たちにも裁きが下る、その時、一緒に裁いてやろう」


「大人しく従った方が身のためだぞ? 苦しんで取り押さえ……むっ!? 貴様……」


「うん? ボクが何か!?」


と、唐突に何かに気づいたような目をするハイエルフ達。

その視線の先にいるのは……ハイエルフの『先祖返り』であるアイリーンだった。


そしてその直後、ハイエルフ達はさらにいらだちを募らせたような表情になり……彼女を、またしても彼ら独特の価値観によって糾弾し始める。


いわく、彼らハイエルフにとって、『ハイエルフの先祖返り』というのは……また独特な価値観が出てくる話ではあるのだが、それ自体が許されざる罪であるとのこと。


『先祖返り』というのはつまり、先祖代々までさかのぼっていくと、自分の現在の種族とは異なる種族との交わりが存在し、その力が隔世遺伝的によみがえることを指して言う。


この場合は、アイリーンは人間だが、家系図をさかのぼっていくと、ご先祖様に『ハイエルフ』がいたと思われるため、その血が覚醒し、人間でありながら『ハイエルフ』の力を使える。


しかしハイエルフ達からすると、これは『自分たちの力を下等な異種族が盗んで使っている』ということになるらしく、これもまた断罪の対象であるとのこと。


『自分たちにこそふさわしい強力な力を、異種族が使うなど持っての他』だの、『その力は本来貴様のものではなく、勝手に使っている貴様は盗人だ』だの、言いたい放題。


それを聞いて……さすがにアイリーンも、面白くなさそうな表情になっていく。

自分がまぎれもなく、相応の努力やら修行の末に使えるようになり、その血肉とした力を真っ向から、それもわけのわからない理論で否定されたのだから、当然である。


加えてその背後にいるテーガンの心の中もおだやかではない。


彼女は、簡単に言えば『武人』の類である。強さを尊び、弱さを嫌う……とまでは言わないものの、あまり好意的には受け取らない。

戦いの中で生きてきた、実力第一主義という価値観。真理でもあり、残酷でもあり。


そんな彼女にとって、まぎれもなく自分で磨き上げた力を使っている『強者』であるアイリーンを、大した力も持たず、ただ無駄に高いだけのプライドで好き放題言っている『軟弱者』であるハイエルフ達は、見ていて愉快なものではないようだ。


加えて……テーガンは、たまにではあるが、今回さらわれたリリンの夫や長男のトレーニングなどを見てやっていて、彼らとは師弟関係のようなものが構築されている。


彼らをさらわれた時点で不機嫌だったそのいらだちは、彼女に言わせれば『身の程をわきまえない』形であるハイエルフの駄弁によって、さらに増していく。


そんな状態であるというのに……さらにハイエルフ達は、自分たちにとってとどめとなる一言を、口にしてしまった。


リリンは、夫と子供たちが拉致されて最初から怒髪天。

彼女の戦友であるクローナと……ここにはいないもう1人も同様。

加えて、これまでのやり取りで……アイリーンとテーガンのいらだちもかなりのところまで募っている。


そして、最後の1人は……確かに自分もいらだちも怒りもしているけれども、あまりやりすぎて大変なことにならないように、一応はストッパーとして動かなければならないかな、と思っていたところに……



「ふん、よく見れば貴様ら、全員亜人か『先祖返り』の類のようだな? そこそこ長く生きている様子ではあるが、それだけ生きて低俗で野蛮な考え方しかできんとは、これだから無駄に年を食っているだけの老害共は……やはり、同じ長命種でも我らハイエルフとは―――」



この瞬間……最後の良心と呼べたかもしれなくもなくもなかった気がする、テレサ・クランシオンもまた、彼らに対する行動選択が駆逐一択に染まってしまった。


それが何を招くのか……数十秒後、彼らは身をもって知ることとなる。





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