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外伝3 とある歴史の真相

運営より先に通達のありました『ダイジェスト禁止』により、近くこの話の本文を削除することとなりました。

今後は、アルファポリス様のサイトで更新を続けていく予定です。


本話他の外伝は一応残していく予定です。

ご了承ください。



緑豊かなとある国に、『輝きの森』と呼ばれる場所がある。


その森は、1歩中に入れば、鮮やかな緑色の木々の葉の間から、地面に木漏れ日が降り注ぐ幻想的な光景が広がっている。その眺めは千金にも値する、と、ある有名な吟遊詩人が歌ったほどだ。


加えて、山菜や薬草、果実といった自然の恵みも豊かであり……この地方に暮らす者達にとって、重要な収入源となる場所であった。

どころか、ここでとれる山菜や薬草、果実や花の蜜、その他もろもろは……その国の内外で多くの人が好んで味わう特産品である。


おまけに、その木々自体の質もよく、建材にしてよし、木炭にしてよし、杖や弓矢に加工してよしといった、非常に価値のあるものだった。


彼ら彼女らにとって、この森の恵みは日々の生活になくてはならないものであった。


しかし、それらの恵みの多くは、森のそれなりに奥に行かないと取れないものであり……そして、その森には、少なくない数の、しかもかなり危険な魔物が住み着いていた。


恵みを得るために、地元の者達が足を踏み入れる際は……命がけだった。

毎年、何人もの猟師が、森に足を踏み入れて戻ってこなかった。


しかし、今から150年以上前……この森に、救世主が訪れた。


その救世主は、神々しい光の力によってこの森を浄化し、魔なる物たちを追い払った。

さらに、森の最奥に存在した、邪悪の根源たる存在すらも打ち払ってしまった。


そして、この地に住まう人々のために、その奇跡の力で……森を一直線に縦断する道を作った。不思議なことに、その道の近くには、一切の魔物が近寄ってこないのだ。


その道に沿って人々は、森の奥へ、多くの恵みを取りに行けるようになった。


150年以上がたった今も、人々はその『光の救世主』への感謝を胸に、その『光の道』を使って、待っている者達のために、森の恵みを摘み取りに歩いていく。


これは、そんな歴史の……真実の話。


☆☆☆


「『森の悪霊』ときたか……また大層な名前ね、何なのそれ?」


「それがわかりゃ苦労ないって……色々聞いて回ってみたけど、誰も詳しく、っていうか正確なところを知ってる奴いないんだよ」


「もう数十年単位での付き合いになる……って話なのにか?」


「なるべくなら付き合いたくもないんだろうさ。やることやったらさっさと忘れて、また平和にどっぷりつかろう……って感じで」


その森の中を歩く、冒険者の一団。

女性ばかり6人のこのチーム『女楼蜘蛛』は……依頼を受けて、この森を散策しつつ、この森に潜む『悪霊』なる存在を探して回っていた。凶暴化して襲って来る魔物を、逐一倒しつつ。


『森の悪霊』。それは、この『神秘の森』において、数年から数十年に一度、森の中で目撃されるようになる……謎の存在。


目撃者の話を聞くと……獣のような姿をしているとも、人のように2本脚で歩いているとも、何とも形容しがたい異形の存在であるとも言われる。

要は……よくわかっていない。


魔物なのか、はたまた魔力性の異常現象の類なのか……ほとんど全ての情報が不明。


わかっていることは2つ……1つは、この存在が目撃されるようになると、森の中の魔物が激増+凶暴化し、森の中に少し踏み込むでも危険な状態になること。

そしてもう1つは、この存在に見つかると、生きては帰れないということ。


先程の目撃者たちのように、遠目にうすぼんやりと見える程度の距離ならばともかく……一定以上近くでその存在を見てしまうと、気づかれて殺されてしまう……という話だ。


その『悪霊』の正体の調査、および、魔物であった場合はその排除、というのが、今回の彼女たちの目的だ。


事前の情報集めを行っていたアイリーンは、やれやれといった調子で首を振ると、もう何度目になるかもわからない、気配探知系の魔法を使う。

そして、これまた何度目になるかであるが……眉間にしわを寄せた。


「……めんどくさいなー、この森……」


「探知系の魔法が使いにくい、って話、本当だったみたいね」


その横を歩く、シスターのような装束に身を包んだ妙齢の女性……テレサは、自らも、森の中にいる間中ずっと感じている、他の場所とは違う奇妙な気配に、ため息をつく。


ごくまれにある、特定の種類の魔法が使いづらい地形。

この森はその1つに該当し、感知系の魔法全般が使いにくい。


おかげで、お得意の気配察知などがほとんど使えず、アイリーンは不機嫌だった。


「まあ、普通に気配を探る分には問題ないようじゃし、そう不都合もあるまい」


「そうそう、いい機会だと思ってそのへんの練習にしちゃうニャ」


と、もともと魔法が得手ではなく、その分直接『気配』や『殺気』といったものを感じ取る能力に優れている2人……『女楼蜘蛛』の接近戦担当、テーガンとエレノアは笑う。


「……っと、そろそろじゃねーか? 例の『悪霊』とかいうのがよく目撃されてるエリア」


「どうやらそーみたいね……見てアレ」


と、気づいたように言うクローナと、それを受けて肯定しつつ……自分の視線の先を指さして示すリリン。

その指し示す先には……


「おー……狙ったかのように出てきてくれたな」


「ホントに狙ってたりしてね」


「どっちでもいいわい。ターゲットが向こうから来てくれたんじゃ、ありがたい」


「そりゃ確かに。この森だだっ広いから、探すとなると大変かもだったニャ」


木漏れ日のみが明かりとして機能する、少し薄暗い木立の中。

その奥の闇から……滲み出すように、それは現れた。


黒い霧をまとっていて、輪郭がはっきりしない……何にでも見えるような、いや逆に何にも見えないような姿。

明らかに普通の存在ではないとわかる、異様な気配。漂ってくる、濁った魔力。


彼女たちの誰もが、今まで1度も見たことがなく……にもかかわらず、一瞬にしてそれが何なのかを悟ることができた。


件の……『悪霊』であると。


誰が言うでもなく、自然に身構える6人。

正面に見える『悪霊』を見据え、観察しつつも……周囲への警戒も怠らない。


徐々に近づいてくる『悪霊』。それと共に、周囲を取り囲むように、魔物たちが集まってくるのを、6人全員が感じ取っていた。

どうやらこの『悪霊』は、魔物を操る、あるいは呼び寄せる類の能力を持っているようだ。


加えて、集まってきた魔物は……皆、正気を失っているかのように牙をむき、唾液をだらだらと流し、目を血走らせ、うなり声をあげているものばかり。

興奮状態にするような能力も併せ持っている、と見ていいらしい。


彼女たちがそんなことを考えているうちに、『悪霊』は……その姿がかなりはっきり見えるところまで近づいてきていた。


そして……


「ふっふっふ……また一匹、哀れな獲物が我の牙にかかりに来たか……」


そう……底冷えするような声で、にやりと笑いながら言った。


「……アンデッド、か?」


「うんにゃ、瘴気まみれで相当澱んでるけど……こりゃ精霊種だぜ」


クローナのつぶやきに答えを返す形で、アイリーンが……『ハイエルフ』の先祖返りとして、感知に優れた能力を持つ彼女が、そう断言した。


その眼前には……異形と呼ぶほかない『何か』が、瘴気を体中から吹き出しながら、木漏れ日の下にその姿をさらしていた。


一見すると、人間型のゾンビのように見えるが……腕が地面につきそうなほどに長く、肌は緑色。爪は深緑色で、下半身……腰から下が、植物の蔦や葉のようなものでおおわれている。

加えて、背中から何本もの、触手のように見える……しかし、よく見るとこれもまた、植物の蔦であるとわかるものが生えて、うねうねと動いている。


眼球があるはずのところには空洞があり、その奥に、鬼火のようにゆらゆらと揺れる光。

息を吐き出すごとに、常人なら一息吸えばたちまち発狂してしまうであろうレベルの濃密な瘴気がまき散らされる。


それが漂っていった先にいた他の魔物たちが、さらにその狂った様子を加速させた。


『悪霊』は、6人を見据えつつ……ふと、感心したように、


「ほう……我の気にあてられて正気を保っていられるどころか、恐怖を感じていないとは……中々に活きのいい獲物のようだな。貴様らなら……この森をさらに豊かにするための、いい養分となってくれよう」


「養分……ねえ。ボクらを肥料にするってかい?」


「そうだ。光栄に思うがいい……貴様らの命、この我がもらってやろう」


言うなり……何の前触れもなく、『悪霊』の背中から生えていた蔦が急激に伸び、6人に襲い掛かる。その細長い身に、凶悪なまでの瘴気をまとって。


しかし、それに臆するどころか驚く様子もなく、素早く前に出るテーガンとエレノア。


それぞれ、矛と爪を横一線に凪ぐように振るい、真空波で迫りくる蔦をバラバラに切り刻む。


しかし、切り払って終わらせたかに思われた直後……地面に落ちた蔦の破片、その1つ1つがうごめきだし……なんと、数秒と待たずに地面に根を張った。

そしてなんと、それぞれが再度『蔦』に成長して襲い掛かってくる。


これにはさすがに少し驚いた様子の2人は、再びそれを切り払ってバラバラにする。


が、


「ふはははっ、無駄だ無駄だ! 我の蔦は切られようが燃やされようが、何度でも復活する! そしていずれはお前達を飲み込むぞ! あきらめて楽になれ!」


「はっ……お断りだね」


その直後、テーガンとエレノアが後ろに飛び退り……それを待っていたアイリーンが、手元に形成していた魔法を放ち、炸裂させる。


放たれたのは……暴風。

ただの突風ではなく、その内側に無数のカマイタチ

を内包し、さらにそれが大きく渦を巻いて竜巻状になっている凶悪な風の爆弾が襲い掛かる。


竜巻は、さらに増殖した蔦達を飲み込み……地面ごと削り上げて切り刻み、粉々に粉砕する。


「ぬぅっ……!?」


これにはさすがに『悪霊』も驚いたのか、とっさに目の前に魔力の壁を作り、さらに地面から……おそらくは自分の能力の1つなのであろう、無数の木の根の杭のようなものを生やして防壁を作り出し、その身を守った。


その壁は、ボロボロにはなったものの、見事に竜巻から『悪霊』を守り抜いた。


そして、その隙間から……再び、不敵な笑みを見せる。

その周囲では……今しがた斬り散らされた蔦の破片が、再び新たな蔦となって根付き、芽吹いていく。


しかし、全てではない。あまりにも細かき斬り散らされてしまったものは、復活せずにそのまま朽ちていった。

『悪霊』由来の植物と言えど、あまりに小さくなってしまえば、自分が発する瘴気に耐えきれない。ゆえに、朽ちてしまう。それは、悪霊も知っていた。


だが、小指の先ほどの大きさでも残っていれば復活は可能。

ゆえに、自分の優位は揺るがない。今もこうして……まるで新たな林が生まれたかのように、爆発的に自分の『分身』とも呼ぶべき『蔦』たちが増殖を続けているのだから。


今までと同じように、攻撃しても意味はなく、逃げようとしても逃げられない絶望の中、恐怖に錯乱した獲物の悲鳴を聞きながら、その者を死体に変え、森の養分とする。


『悪霊』は……そうするつもりだった。

そう、できるつもりだった。


それが可能かどうかはともかく……しかし、その悪霊の目論見は、この後、盛大に外れる……というか、粉々に砕け散ることとなる。


およそ、予想もしていない形で。


それは、自分などよりもはるかに上の力を持った、圧倒的強者による蹂躙…………というか、



…………ちょっとした、デリカシーの欠落が呼ぶ悲劇によるものであった。



「ふははは……いつまで続けられるかな? 私の蔦は、どれだけ切っても貴様たちに襲い掛かる……どれだけあがこうと、いつか、増え続ける蔦の津波のごとき猛攻に押しつぶされるだけだ。無駄な抵抗は、苦しみを長引かせるだけだぞ……?」


「もう、強引ねえ……悪いけれど、私たちはそこまで献身的に緑化活動に携わる気はないから、そっちが諦めてくれないかしら?」


「貴様らの意見など聞いてはおらんわ。あきらめて早く死ぬがいい、愚かな人間の小娘共め」


「人間……でもないのだけどね、私たち」


「ふん、そのようだな……我にも感じ取れはするわい、貴様ら……見た目によらず随分と年を食っているようだ」



(((……げっ)))



その瞬間、

約一名を除いた、『女楼蜘蛛』全員の心の声が……1つに一致した。


「………………」


「見た目は小娘でも、中身はシワの寄った婆ということか。だが安心しろ、そんなことは問題にはならん……年増だろうが婆だろうが、何十年何百年生きて体の芯が腐りかけていようが、等しくこの森の育みを育てる力『キュボッ』にな――ぁ?」


瞬間……『悪霊』の左腕の肘から先が、突如として焼失した。


あまりにもいきなりのことに、何が起こったかわからず、呆然とする悪霊。

しかもおかしなことに……『蔦』と同じように再生するはずの、自分の体が……一向に回復を開始しない。

まるで人間のように、左腕の傷口は、熱をもってうずくままだ。


しかし、それに戸惑い、驚き、恐怖するような時間すら、余裕すら……もはや『悪霊』には与えられることはなかった。


「うふふふふ……」


主に、背中に般若の幻を背負って笑う、藤色の髪の女性のせいで。

彼は知らない。自分の先の言動が…………彼女の逆鱗に触れてしまったことを。


なお、彼女――テレサの仲間たち5名は、こうなることを予見してすでに退避している。


テレサに対し、悪霊が……『年齢』に関する話題を口にした、その瞬間に。


「うふふふふ…………女相手に言っちゃいけないことをわかっていないみたいね? そんな、見た目だけでなく口調も性根も薄汚い精霊もどきさんは……」


「えっ? あ、ちょ……」


「お・し・お・き・よ♪」



直後、


木漏れ日を押しのける強烈な光があたり一面に広がると共に……家一軒飲みこんでしまえそうな、巨大なレーザーが放たれ……森を、一直線に突っ切って、そのまま空の彼方へ飛んでいった。

その射線上には……当然のことながら、何一つ残っていなかった。


通常の魔法では、完全に倒すことは難しい精霊種の魔物すらも……その魂ごと、影も形も残さず、浄化された上に蒸発させられて、きれいさっぱりこの世から消えて失せていた。



……この時できた、森の深部から外まで一直線に抜ける破壊痕が……のちの世にて、何と呼ばれるようになったか……言うまでもないだろう。






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