セツカシラ
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時間がどれだけ経っただろう。
私は今、辺り一面が黒に染まった世界に一人浮いた状態になっている。
地面もなければ、空もない。
人もいなければ、生き物もいない。
この空間には、私一人しかいない。
「……………」
最初、初めて目が覚めたのはここだった。
それまでの記憶はなく、ただ言葉だけは話せるみたいだった。
感情が出てきたのは、それから直ぐだ。
怖い。
寂しい。
冷たい。
正直、頭がおかしくなると思った。
感情がまるで巻き上がるように私の体を苦しめた。
精神がおかしくなってもいいぐらいだった。
でも、次第に精神は落ち着きを取り戻し、私は次第に自身の存在について考え始めた。
私は何のためにいるのだろう。
何をすればいいのだろう。
再び恐怖が甦る。
体も震え、ただ縮こまるしかできない。
もう、いいのかな。
私はこのまま、ここで、の垂れ死んでもいいのか。
あれからどれだけ時間が経ったかわからない。
視界が揺らぎ、もういつ見えなくなってもいい。
そう思った。
「…………………え?」
その直後。
突然、視界がまばゆい光に埋め尽くされた。
眩しさのあまり瞼を伏せて、光が収まるのを待つ。
どれぐらい経ったかわからない。
段々と光が小さくなることに気がついた。
………そっと、目を開けていく。
すると、そこに広がっていたのは、
「…………わあぁ!」
黒い世界ではない。
目の前に広がるのは記憶の片隅にあった地面と空。
地面には植物が生え、側には川があり、大きな樹木も立っている。
空には白い雲が浮かび、眩しさを示す太陽が見えた。
驚きに意識が行っていた私は、すとんと足が地面につくことに気がついた。
そこで初めて私は体について気がついた。
あの黒い世界では全く気にも止めなかったが、自身の体は今、白と黒で彩られたドレスに纏わされている。
肌も白く、服の上からわかるに胸もある。
私は辺りを見渡し、近くにあった川を除き混んだ。
清らかに流れる水流。
水の底が透けるように見えている。
しかし、私はそれより気になった物があった。
水に写し出された少女の顔。
回りには誰もいない。
私の顔だ。
黒い長髪に小柄な顔立ち。
瞳は薄い緑色をしている。
「…………………」
いつまで見ていただろう。
その顔を見ていた私は突如、頬に流れ落ちた物に気がつく。
それは水滴のように落ちる涙。
いつしか、私は泣いていた。
あれだけの恐怖や様々な気持ちに押し潰されても泣かなかった私が今、こうして涙を溢れ返しながら泣いている。
「………うぐっ………ひくっ」
涙がいつまでも続く。
そんな、時だった。
『この世界は、どうだ?』
背後からは聞こえた。
初めての他人の声。
私は勢いよく後ろに振り返ると、そこには、
『よぉ…』
「……………」
ツンツンしたばさばさの髪。
白に繕われた騎士を連想する衣装。
さらに、極めつけは短剣とも呼べる黒白の剣。
間には輝きを保ち続ける光がその場に留まっている。
「………あ、あの」
『ん? どうした?』
「………………………あ、あなたは」
『神だ』
「え?」
『言っとくが絵を描く紙でもなく、伸びる髪でもないからな。神様の神だ』
「……………」
『世界を作る神っていえばいいかな。一応は他の神を無視して作ってやったんだぞ?』
「………………私のために?」
『………………ああ』
目の前で神と名乗る彼は、子供のように無邪気な笑みを浮かべた。
『ここから少し行った……………ちょうどその樹木がある方向を真っ直ぐ行けば村がある。ちなみに君と同じぐらいの人もいるから、その人たちと一緒に暮らすといい』
「…ほんと…………ですか?」
瞳から涙が溢れる。
私はいつしかまた泣き出していた。
『……この世界は君の物だ。どうしたいのか、何がしたいのか、自分で決めるといい』
彼はそう言うと、まるで段差を踏み出すように宙に浮く。
私は驚きながら彼に向かって声を出す。
「ま、待って!」
『…………………』
「あ、あなたの、名前は」
『………………名前かー、そうだな。………………シン』
「え?」
『シンでいい。俺の名前はシンだ』
「シン……………」
そう答える彼に、私は目をまばたかせる。
シンは私の表情に小さく笑うと、その唇で、
『セツラ』
「?」
『君の名前だよ。俺がつけた』
「………………」
私は、この時。
心の底から嬉しかった。
誰にも、自分が生まれた意味が分からなかった私に彼が名前をつけてくれた。
嬉しかった。
嬉しかった。
「うぐっ…………ひくっ………」
『………セツラ』
「っ、っっ……………はい」
『いつになるか、俺自身。神じゃなくなってるかもしれない。だけど』
シンはそこで言葉を切り、変わり満開の笑顔で、
『また、会おう』
「……はい!」
これが、私の初めての対話だった。
彼がいなくなり、私は色々な場所に旅に行き、この世界を理解しようとしている。
いつになるか分からない。
たとえ、彼が私の事を忘れていたとしても。
気まぐれで私を助けてくれたとしても。
私は忘れない。
絶対に忘れない。
また会えると、信じているから。
未知日々は更新が全く止まってしまってますが、また更新したいと思っています。