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7 占い

 ミナモトノマサヒロ、という男の占いを頼まれていたはず。

 情報では、田舎に住む管楽の得意な風流を愛する貴族とか。

 初音は御簾ごしに男の顔を凝視した。

 髭をはやしてはいるが。

 大層偉そうで雅な恰好をしているが。


 ミナモトノマサヒロ、という男がまとっている空気はいつわり

 文化人のような格好をしているが、この猛々しい空気は間違いなくあの男。

 ミロク・・・。

 ズラまでかぶって・・・何やってるの?

 ミロクが何故?

 ミロクは確か、インチキの姫巫女といっていたはず。

 その男が何故、わざわざ賄賂をわたしてまで、占いを求める?


 初音は首をかしげた。

「何を求めるのじゃ?」

 少し声音を変えて話す。

 御簾の向こうでミロクが微かにわらうのが見えた。

 ・・・感じ悪い男。

 この男は、占いを、巫女を、信じていない。

 間違いない。


「ミナモトノマサヒロ、と申します」

 ミロクが深々と頭を下げるが、偽の空気に満ちている。

 ミナモトノマサヒロ、という名もミロクからは浮き、違和感がある。偽名だ。


「高名な姫巫女様に是非、折り入って教えていただきたいことがございます。実は、ある不思議な書を手に入れたのですが・・・呪いがかかっているようなのです」


 嘘だ。

 言葉が浮いている。

 この男は嘘をついている。

 『不思議な書』などでまかせに違いない。

 下手なことをこちらがいえば、だから姫巫女はインチキなんだ、というつもりなのだ。

 巫女を、私を試そうとしている。


 初音の頭にカッと血が上った。

 巫女にはあるまじきことだ。


「そなたの言葉には、偽りを感じる。巫女の事もまるで信用しておらぬ。違うか?」

 初音の問いに、ミロクがハッと息を飲むのがみえた。


「偽り、とおっしゃいますと・・・?」


「そなたが知りたいのは書の呪いのことなどではない。何を知りたい? 巫女の力か? ついでにいっておくが、呪い云々は陰陽師の管轄じゃ。この業界、一応住み分けがあるのでな。」


 ミロクは試すような目で御簾をじっと見つめている。御簾の中まで見透かそうとするかのようだ。


「そなたは、ミナモトノマサヒロではあるまい」


 初音の言葉に、ミロクは驚いたように顔をあげる。


「では、私は誰だと?」


「自分の名前もお忘れか? ミロク殿」


 ミロクは驚いた表情で御簾をみつめている。


 フン、ざまあ。

 初音は笑いたいのを必死でこらえた。


「そろそろ、本題に入ってはいかがかな? ミロク殿。我はそなたのくだらないお遊びに付き合うほど、暇ではない」


 ツン、とした空気をつくり、冷たい声音を使って言う。


「は・・・。そ、それでは・・・」


 ミロクが考えている。

 ばーか、ばーか。とっとと帰りやがれ! 初音は心の中で悪態をつく。


「ある娘のことを、教えて頂きたいのです」

 ミロクが口をひらいた。


「・・・娘?」


「ある場所で、サルのような娘に会いました。その娘が何処の誰か、知りたいのです」


 サル。

 サルっていいましたか。また。


「・・・サルのような娘の居場所など聞いて、どうするというのじゃ」

 軽く湧き上がる怒りを鎮め、さりげなく問う。


「会いたいのです。もう一度」


 ミロクは真剣な表情でいう。さっきまでの偽の空気は消えている。

 うーむ・・・。会ってどうするのか? 今度は柿でもくれるのか。それなら会ってやってもいいが。


「もう一度会えないか、占ってはもらえませぬか」


 ちーん。自分の事は、占えません。

 従って、その占い、却下。

 とも、いえないし・・・。困った。


「・・・サルのような娘といわれてものう・・・」

 御簾の向こうに言葉を返す。


「ええと、リスのようでもあります。こう、クルミを食べる姿はなんというか、食いしん坊のリスのようで」


 サルの次は食いしん坊のリス、ですか。

 ふ・・・。ミロクよ。

 このように腹立たしい占いは初めてであることよ!!


「か、可愛らしい娘なのです」


 その、とってつけたような言いぐさは、なんじゃ。

 ええい、もう、めんどくさい。


「その娘に会いたければ、満月の夜の次の日の正午に佐保山のふもとの林に行くことじゃ。上手くいけば、会えるかもしれぬ」


 佐保山は神領区の一つで、霊山とされ、年に一度、舞を奉納することになっている。次の満月の夜、初音は舞の奉納のため出向くことになっていた。そのついでに薬草採りに行くことを許されている。  ま、林は広いし、佐保山も結構遠いし、ミロクがわざわざ姫巫女の言葉の真偽を確かめに来ることはないかもしれないが。

 姫巫女の占力を試したかっただけみたいだし。

 あ、そうだ。ダメ押ししてやろう。


「その、サルのような娘じゃが。宝石などあたえても喜ばぬ。貢物は旨いものがよかろう!」


 ミロクが目を見開き、驚愕の表情をしているのがわかる。御簾を隔ててはいるが、ミロクのいるところは明るく、初音のいるところは暗い。むこうからこちらは見えないが、こちらからミロクはよくみえた。

 初音は吹き出しそうだった。


「巫女の力を疑い、試そうなど不愉快じゃ。帰れ」


 なんとか、笑いを堪えていう。


 ミロクは深々と頭を下げ、礼をいって出て行った。


 ミロクが出て行ったのを確認すると、初音は笑い転げて畳をドンドン叩いた。


「ひ、姫巫女様? どうされたのです?」

「姫姉様? 大丈夫ですか?」


 女官の亜紀と、巫女の夢乃が驚いて入ってくる。


「あ~面白かった。ザマーミロってもんよ!」


 詳しい話を亜紀と夢乃にするわけにはいかない。

 ミロクと山で会った事がバレてしまう。

 初音は体を起し、居住まいを整えた。

 コホン。

 咳を一つ。


 亜紀と夢乃は顔を見合わせて首をかしげるのだった。




読んでくださってありがとうございます。

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