34 月夜4
夢乃は竜神と初音が去った後、うっとりと月を眺めていた。
「姫姉様、大好きな彼と結ばれるのね。素敵だわぁ~」
姫巫女初音は、己の恋を貫き通すため、姫巫女の座を捨て、古き友である竜神の助けを借り、愛する男の元へ去った・完(夢乃談)。
「でも、ちょっと、まてよ。今、姫姉様いなくなっちゃったら、継承式まずくない? っていうか、榊神官長までいないし。うわ~、どうしよう。継承式もう明後日なのに!」
夢乃は頭を抱えた。しかも夢乃の記憶では、榊神官長は、今回の継承式は王族も呼び大々的にやるといっていた。
月の光を遮り、竜神が帰ってくる。
「夢乃、酒」
人型に戻るなり、超不機嫌でどっかりとあぐらをかく。
竜の姿でいるときはそれなりに神々しいが、人型となると・・・・。
「ちょっと、まって。今、それどころじゃないの」
夢乃は頭を抱えたまま、ウロウロしていた。
「・・・オイ。いい度胸だな、夢乃。竜神を前にそれどころじゃないだと? 神殿の巫女のくせに神様前に、何様だ?」
竜神が吠える。
「うわぁぁ。竜神様でしたか」
「あぁ? 竜神でなければなんなんだ。ツチノコとでもいいたのか?」
不機嫌極まりない。
酒を出すまで、てこでもここを動かないだろう。
そして、酒を出しても、飲んだくれてやっぱりここで動かなくなるだろう。
夢乃はあわてて女官達に酒を用意するよういう。
「竜神様にお神酒の用意を」
普段ならとっくに休んでいる時間だ。
「夢乃、どうした? 何をウロウロしている」
「竜神様、姫巫女の継承式が明後日なんです。マズイです! 前姫巫女も神官長もいないなんて、前代未聞です!」
思わず、竜神にすがる。
「オマエが姫姉様を弥勒さんのところに運んであげてぇ!っていったから運んだんだぞ。まだなんか文句あるのか」
竜神はすがる夢乃を斜めに見下ろした。
「いえ、めっそうもございません。ただ、その、神官長もいないし、竜神様が神官長のかわりをしてくださったら、すごく助かるなあと」
夢乃は竜神の腕をひし、とつかんだ。
「・・・オマエ、いろいろ変だぞ、それ。神の声をきく姫巫女をささえる神官長を神にやれというのか?」
「すみませんごめんなさい」
「オマエが勝手に一人で継承式やればいいだろ」
出された酒をガブガブとウワバミのように飲みながら竜神はいう。
「ううう酷い」
「まぁ、明日オマエを背に乗せて本殿に送るぐらいのことはしてやろう」
「じゃあ、もう飲まないでくださいよ! 酔っ払い運転されて空で振り落とされたら死にます!」
半泣きの夢乃の頭を乱暴にぐりぐりと撫でる。
「まぁ、お前も飲め。一緒に酔っぱらえば怖くないぞ。何とかなるから気にするな」
「未成年ですから!!」
竜神はじゃぶじゃぶ、がぶがぶ、ごぼごぼと酒を飲みまくり、終にはつちのこのような「うわばみ」となってしまった。 夢乃はそんな「うわばみ」を半泣きでみていた。