28 ただの花嫁
「初音? あまり食欲がないようですが?」
榊はおひつに残ったご飯をみていう。
初音は榊の顔を見て、ゆるゆると首を横に振った。
一応、一人前はしっかりたいらげている。
おかわりしていないだけだ。
「急な話ですが、長老会で今後の事がきまりました。一か月後に姫巫女の継承式を行う事になりました」
淡々と紡ぎだされる言葉に、初音は一瞬、何をいっているのかわからなかった。
「え? 継承式?」
「初音、あなたは姫巫女の座をおりることになります。かわりに夢乃が姫巫女となります。時間がないので、急ぎ手続きをしなければなりません。初音? 聞いていますか?」
榊の言葉は抑揚もなく、どこまでも事務的だ。
姫巫女の座をおろされる。
ミロクと会ったせいで?
初音は言葉を継げないでいた。
「・・・驚きましたか? 長老会の決定なのです。初音が悪いわけではありませんよ。初音につきまとう男が悪いのです。ただの男ならさっさと処刑するなりできたのですが、王子ではね。王子に神殿を引っ掻き回される前に、初音には姫巫女の座をおりてもらうことになったのです」
榊の口調は淡々としていたが、話している内容はかなり物騒だ。
初音は青ざめた。
ミロクが・・・王子。
ミロクは王宮でデンカとよばれていた。
だが、そんなことあまり気にしていなかった。関係ないと思っていたのだ。
もし、ミロクが王子でなければ処刑するつもりだったの?
そんなに大事になるなんて、思わなかった。
初音はぶるりと身震いする。
私は・・・どうなるの?
「姫巫女を降りたら、どうなるの?」
処刑、されちゃうの?
その時になって、榊は初めて微笑していった。
「何も心配いりませんよ。私と結婚することになります」
初音はたっぷり一分は固まった。
「え? 巫女は一生結婚しないんじゃないの?」
「いいえ。初音にはあえてお話ししていませんでしたが、姫巫女は、継承式の後、長老会で決められた神官と結婚し、巫女の血を残すことになります。あなたの母上も昔は姫巫女だったのですよ。巫女の力は結婚したからといって、無くなるものではありません。恋愛感情を持った特定の神がいるような場合は、人柱として、その神にささげられます。初音の場合はそういったこともないようですから、私の妻になることが決まったのです」
榊の言葉に初音は面食らう。
「榊と・・・結婚するの?」
榊はいつにない優しい笑みを浮かべて頷いた。
「ええ。予定より随分と早くなってしまいましたが。もともと私はあなたの婚約者候補だったのですよ。初音のことはずっと昔から大切に思ってきましたし、これからも大切にしますよ」