24 神の花嫁2
榊は初音を絶対に神殿から出さないよう女官に言い含め、軟禁状態にした。
女官の話を総合すると、源雅浩と名乗る男が怪しい。
神官長を通じて占いを頼んだ源雅浩という男。
その男が帰った後から初音は元気がないという。
源雅浩。
神領区の領主で風流を愛する雅な貴族だ。笛の名手と聞く。妻を流行り病で亡くして以来、田舎にひっこんだまま、集まりごとにも顔を出さない。
女官も、巫女も、神官もほとんどが神領区の貴族の出であり、お互い多少の面識はある。
女官の一人が、
「姫巫女様に面会に来た人は、源雅浩様にしてはイケメンすぎる気がする」
といいだした。
神官の一人も、
「雅な貴族にしては、やけに体が大きく、いかつい武人のような男だと思った」
と、いう。
そう思ったのなら、そのとき言え。
榊はのどまででかかった言葉を飲み込む。
榊が源雅浩の屋敷を訪ねると、童に歌など教えていた。
トーォーラーァーロ、ォールーロ、ターァーロラ、アーー
童は正座し、歌いながら畳と膝を2度ずつたたいて拍子をとっている。
「雅浩殿、歌の稽古ですか?」
榊がたずねると、雅浩は温和な顔で笑った。
「いえ、笛の稽古ですよ。唱歌といって、まず歌を歌って曲の流れを覚えさせ、その後で笛を練習するのです。今日の練習はここまでにしましょうか」
雅浩はそういって、童を帰した。
「神官の榊殿ですね。何か、ご用でしょうか?」
雅浩の態度、顔、姿、全てが温和で、いかつい感じは無い。
「雅浩殿は、神殿の姫巫女に占いをお願いしたと聞いています。ですが、神殿に現れたのは、あなたではなかった」
榊がカマをかけると、あっさりと雅浩は頷いた。
「ええ。私の名を騙る者が何か粗相をしましたか?」
「雅浩殿は、外道の男に名を貸したことを認めるのですか?」
榊の問いに、雅浩は笑って頷く。
「ええ。どうしてもと頼まれましてね。想い人の居場所を知りたくて、姫巫女に占ってもらいたいだけのようでしたが・・・。何かしでかしましたか?」
雅浩の表情は面白がってさえいるようだ。
「想い人の場所を知りたい? そんなのは言い訳だ。姫巫女に会いたくて忍んできた狼藉者だ。今すぐ、その男の名を教えてください。教えてくれなければ、長老会を動かすことになります。そうなれば、あなたの領主の座も危ういですよ?」
榊の口調は完全に脅しだった。
「・・・わかりました。協力しましょう。その前に姫巫女様の名を伺っても良いですか?彼は単に想い人の居場所を知りたいだけで、姫巫女様に会いたいと思っているふうではなかったので」
温和な雰囲気のまま、雅浩はいう。
「さっさとその男の名を明かせ。そいつの想い人の名はなんという? 姫巫女の名は初音だ。あなたも神領区の領主であれば、巫女の継承式に参加くらいなさい」
榊の口調はどんどん険悪なものになってゆく。
雅浩は目をつぶった。
弥勒の想い人、初音は姫巫女だったのか。
巫女かもしれないとは思っていたが、まさか姫巫女だとは思わなかった。
姫巫女本人に想いを告げ、断られたということか。
親友の今までになく真剣な表情を思い出し、雅浩はため息をついた。
前途多難だな。
「男の名は大和弥勒様です。この国の王子で武将を務めておられる。王子という身分ゆえ、直接姫巫女にお会いするわけにはいかず、このようなマネをしました。お許しください」
雅浩の白状に今度は榊が沈黙する番だった。
長老会を動かし、普通の男だったら処刑、名のある者でも牢にぶちこむつもりでいた。
が、王族ともなると簡単に手はだせない。