22 人妻デスカ?2
フラフラしたまま、親友である源雅浩の元へ向かう。
王宮に戻る気にはなれなかった。
「人妻になっていたのか!」
ポンッとヒザを打ち、イッヒッヒと親友であるはずの源雅浩は笑う。
この男は顔も立ち居振るまいも温和で雅なのに、笑い声だけはなぜか下品だ。
酒を出してきて、七輪で鮎まで炙りはじめる。本格的に飲むつもりらしい。
「笑い事じゃない。いつの間に、初音は・・・。この間会ったときも一言もそんなことはいってなかったぞ。むしろ、俺を・・・、いや、だから泣いてしまったのだろうか・・・」
弥勒は平常心に戻れないでいた。
「ふうん? 悩め悩め。今まで女に苦労せず、散々泣かせてきたんだろう? たまには良い薬だ」
薄情にも雅浩は面白がっている。そんな雅浩を弥勒は睨んだ。
「冗談じゃない。一番肝心な所で、こんな・・・。しかし、誰の妻になったんだ? あんなサル娘、娶っても困るだけだろうに」
「そのサル娘を娶ろうとしていたのは、どこのどいつだ? イッヒッヒ、笑いが止まらん」
雅浩は弥勒と鮎をさかなにひとしきり笑い、飲んだ後ふと真顔になった。
「でも確かに妙だな。そんな高貴なところに嫁入りしたなら、結婚の噂くらいたってもよかろうに。最近誰それが結婚したという話は聞かぬがな。」
雅浩はグビリ、と酒を流し込む。
「そうだろう? この世で最も気高く高貴な者に身をささげている、といったんだ。この世で最も高貴って、俺のことだろう? ハッ、親父か? 初音が親父の側室に? イヤ、ないな。そんな話、聞いてないし、有り得ない」
「お前は気高く無いだろーが。高貴ってのも怪しいもんだ。気高く高貴、気高く高貴か・・・ん? まてよ?・・・それって、神の花嫁のことじゃないのか? もしかすると」
雅浩は宙を睨み、あごに手をやる。
「神の花嫁?」
弥勒は体を乗り出した。
「神領区の娘は、神通力を持った娘が多い。そういった娘の中で、特に力の強い娘は巫女になるんだよ。巫女は神の花嫁とも言われ、その身を神にささげる、といわれている」
「あ・・・・」
いつも神領区の山をウロウロしていた初音。
どことなく、人離れした初音。
薬草を集めていた初音。
「巫女は、薬草を集めたりするのか?」
弥勒の問いに雅浩はうなずいた。
「ああ。病人を癒すのも巫女の仕事の内だ。秘伝の調合の薬を作っているときいたことがある」
「確かに、巫女かもしれん。でも、もしそうなら・・・。初音にはもうその資格は無い」
「無いって、まさかお前、その娘をやっちまったのか?」
「口付けだけだが。・・・そうか。やっちまえば、完全にこっちのものか」
弥勒の表情が明るくなるのを、雅浩は眉をしかめてみていた。
「お前、そんな罰当たりな事、頼むからここでは言わないでくれ」
王宮に帰ってからそういう物騒な事はいってくれ、と親友のはずの男はいうのだった。
弥勒は思い出した。
怖い天狗。
間違いなく八つ裂きにされるわ、俺。