16 尻子玉作戦2
数週間後。
初音と河童はろくでもない作戦を練っていた。
「でわ! 我々の腹筋もだいぶ鍛えられたので、作戦会議をいたす」
「あいあいさー、河童の親分」
「あいは一回でよろしい。この泉のヌシの座を獲得するために、ミロクをやっつける方法だが」
「あい」
「まず、ミロクを、泉のそばにおびき寄せる」
「あい」
「初音がミロクを押し出しで泉に突き落す」
「あい?」
「で、泉で溺れかけたミロクの尻子玉をオラがいただく。題して、尻子玉作戦だ。初音は岸から援護を頼む」
「あう? ミロク一人に二人がかりって、ちょっとズルくない? 泉のヌシの座を賭けた戦いなんでしょ?」
「初音、それはズルいんじゃなくて、カシコイっていうんだぞ。ミロクは思ったよりも手ごわそうだ。この前も、オラが昼寝をしていたら、水がビリビリ震えたんだ。何事かと思ったら、ミロクが来ていて、武道の練習をしていた。ものすごい衝撃があったぞ。体もオラと初音を合わせたよりさらにデカそうだし、それくらいのハンデはいーのだよ! オラと初音で、泉のヌシとなるのだ。尻子玉さえ抜いてしまえば、こちらのものだからな」
「そうか。親分頭いいな。じゃあ、泉のそばにきてもらえるよう、果たし状をミロクにだしておこう!」
「頼んだぞ。初音」
河童と初音はうなずきあうと、ゲンコツとゲンコツをぶつけ、別れた。
初音は勇み足で神殿に戻ると、早速、ミロク宛てに果たし状をしたためた。
ミロクはあの泉を武道の練習場にしている。
あの泉のクルミが下がっていた枝に果たし状を結びつけておけば、きっと気が付くだろう。
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「弥勒様、ヒミツの逢引きの場所に恋文がございました」
助六が恭しく手紙をわたす。
泉はいつの間にか『ヒミツの逢引きの場所』に名称が変更されている。
助六は今日も弥勒の命令で、泉を見回っていた。
泉のすぐそばの枝に文がくくりつけられていたのだ。
「ほお? 初音から恋文が?」
弥勒は助六の手から文をひったくる。
「なになに? 五月五日正午、この泉の前に来られたし。初音。―か。初音から初めての恋文か。・・・嬉しいものだな。そんなに俺に会いたかったのかな? 可愛いヤツめ。でも、なんで題名が『果たし状』なんだろうな・・・?」
弥勒は首をひねったが、それ以上深く考えなかった。
いけば、初音がエッチな作戦でがんばっちゃうんだろ。楽しみだ。