11 友
「久しいなあ、弥勒。姫巫女の化けの皮は剥がれたのかな?」
源雅浩は人の良い笑みを浮かべながら、弥勒を迎えた。
先日、「源雅浩」の名を貸してほしい。その名で姫巫女に会いに行く、と弥勒から連絡があった。インチキ神殿のインチキ姫巫女の化けの皮を剥いでやるのだ、と意気込んでいた。仮にも神殿を支える神領区の領主を前にいい度胸である。もっとも、雅浩は弥勒のそんな裏表のないところを気に入っているのだが。
「それがな、あっさり見破られたんだよ。姫巫女に。」
見破られた、というわりに、弥勒の顔に悔しそうな表情はなかった。
負けず嫌いの弥勒には珍しい。
「それは、それは。で、何を占ってもらったんだ?」
雅浩は年下の親友に楽しそうに問う。
弥勒と雅浩はもともと遠い親戚関係にある。弥勒は武人ばかりとつるんでいて、神領区の貴族など胡散な目でみるのが関の山だった。が、釣りという共通の楽しみがあったせいだろうか。気さくで欲が無く、笛を鳴らすのが好きな雅浩と、王子というよりも鬼武将として名をはせる弥勒は妙にウマがあった。雅浩は妻を流行り病で亡くして以来、世捨て人のように田舎に引きこもり、王宮の行事ものらりくらりとかわして出てこない。弥勒はそんな雅浩の元を釣りをしがてら、ちょくちょく訪ねていた。
「占いの内容はどうでもよかったんだよ、本当は。姫巫女の化けの皮をはがすのだけが目的だったのだから。でも、姫巫女は俺にミロク、と呼びかけた上に、女の居場所まで言い当てたんだ」
弥勒がいうと、雅浩は目を輝かせた。
「女の居場所? ほう・・・。詳しく聞こうか?」
雅浩はずい、と身を乗り出す。
弥勒が姫巫女の占いの経緯を語ると、源雅浩は姫巫女がいろいろな事を言い当てた話よりも、弥勒が気に留めているサル娘の話に興味を持ち、根掘り葉掘り聞いて喜んだ。
「お前、この話のポイントはサル娘のことじゃなくて、姫巫女がサル娘の居場所を言い当てたところだぞ」
弥勒が顔をしかめていうと、雅浩はますます面白そうに笑った。
「そうはいっても、弥勒が女の話を真剣にするだけで面白くって、イッヒッヒ。だって、女だぞ、女。しかも、女に会うためだけに、山まで行くなんて、どうしちゃったんだ? そんなに良い女なのか?」
雅浩は姿、振るまいは雅だが、笑い声だけは、なぜか下品だった。
「だから、女に会うためではなく、姫巫女の占いの真偽を確かめるためにだな、俺は山まで行ったわけだ」
「イッヒッヒ。では、そういうことにしておこう。でも、一度その女に会ってみたいものだな。俺も女房に先立たれて随分経つし、新しい女に会ってみるのもいいかもしれん」
雅浩がいうと、弥勒は慌てて言った。
「いや、会ってもいいことないぞ。ただのサルだからな。ウン、お前は会う必要はないぞ。すごい美人でもないし、気立てがいいわけでもないからな」
弥勒の慌てぶりが面白く、雅浩は更に言葉を重ねる。
「まぁ、美人な女など見飽きているから、たまには変わった女もいいかもしれん。今度紹介してくれ」
そういうと、弥勒はブンブンと首を横に振った。
「いやいやいや。お前には到底つりあわないような、へんちくりんなサル娘なんだ。だから、会わなくていいぞ」
雅浩はそんな弥勒に大笑いするしかなかった。