満月
「はい、では明日伺います」
携帯の通話を切り、自宅に帰る。
「お前の飼い主になってくれる人が見つかりそうだよ」
出迎えてくれた朔の首の下を指で擽ると、ごろごろと喉を鳴らし、目を細めた。
携帯のバッテリー残量が少ないので、カラーボックスの上にある充電器に繋げる。
一方、朔は珍しげに窓の外を見上げていた。
「満月が珍しい?」
帰宅の道中、まん丸な月が昇りかけていたのを思い出し、朔を抱き上げベランダに出ると、涼しい風が吹いている。コンクリートで囲まれたベランダなので、危なくないだろうと朔を下ろす。暫くきょろきょろと辺りを見回し動かないので、冷蔵庫からビールを持ってくると、朔は既に探索を始めていたどころか、どうジャンプをしたのか手すりに立っていた。
「朔?!」
その時、慌てた理由はなんだったのだろう。
朔が落ちるとでも思ったのか、それとも逃げるとでも?
急に掛けられた声に怪訝そうに首を傾げた朔だったが、危なげない足取りでくるりと向きを変えた。
月を眺めてる?
狼男なら変身するところだが、猫の場合はどうなんだろうか?
人間になるなら中学生?それとも小学生か?
変身するなら猫又ってところだが、猫又になるには年をとらなくてはいけないはずだ。どうみても大人にもなっていない猫にそれは無理だろう。
意味もなく真剣に頭を悩ましていると
……猫又自体空想でしょ。
嘲笑うかのように朔の尻尾が左右に揺れた。