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決別  作者: 青海
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大学一年生④

「人がいじめられるのには理由がある。俺はそう思うよ。」

 

「理由があるからと言って、いじめていいわけじゃない。言っただろ、人には必ず悪いところがある。彼女にも、あったはずだ。」

 

「もし、このことをなんとかしたいなら、彼女と向き合うべきだと思う。悪いところも、いいところも、きちんと分かった上で、許さなければいけないよ。」


 都門に言われた言葉。

 昔は意味が分からず、ただただイラついただけだったが、今になってわかる。

 私は、彼女について全然知っていなかった。

 彼女のいいところだけを見て、悪いところすら肯定してしまって、彼女の本質を見ていなかった。

 なにも、肯定が全てじゃない。

 否定してあげることも、許しだ。


 食べ終わって、全て片付けた後、私たちはまだ話していた。過去のことを思い出しながら会話していたのだ。

「都門は、いいところも、悪いところも分かった上で向き合っていかなければならないと言ってたね。」

「うん。」

「……それができてれば、華子はこのままだったのかしら。」

「どうだろうね。少なくとも、変わってたと思うよ。」

「え、ど、どうして?」

 動揺した。どう足掻いても関係性は変わるのだろうか。

「それを受け入れると言うことは、心の心持ちが変わると言うこと。そして、華子への関わり方も変わると言うこと。華子という人格はそのままかもしれないけど、少なくとも、性格は変わるんじゃないかな。と言っても、性格の芯は変わらないと思うけど。」

「私たちの関係は変わらないのね?」

「うん。」

「でも、華子は……。少しは苦しんでしまう。」

「仕方ないよ。人は、苦しみながら成長するんだから。」

 都門は紙コップに入っている水をず、と啜って、ふう、と息をついた。

「華子は、友達が出来なくて、周りに理解されなくて、ずっと苦しんでた。私は、彼女を守ってあげなければって、でも、それじゃダメだったのね。」

「華子さんは多分自分の異常さに気づいてた。気づいてて無視し続けた。心にずっと甘えることができたから。」

 私は、ずっと華子への対応を失敗し続けていたのだと突き立てられる。

「このまま友達ができたって、苦しむばかりだと思う。自分のせいで相手に無理を強いてしまう。そう考えるともうたまんないだろ?」

「……華子は、ずっと『多様性』について疑問を持ち続けていた。大多数(マジョリティ)の人たちに少人数(マイノリティ)の人たちの価値観を押し付けて、それで解決。華子は、それについてずっと疑問を持っていたの。」

 私の話を都門はじっと聞いてくれていた。

「でも、私はそれでいいと思ってた。だって、その人たちは苦労してたからって……。」

「心は気づいてなかったんだ。大多数(マジョリティ)の人たちも、種類の違う苦労をしていることをね。」

 鼻の奥がツンとする。目頭が熱くなる。私は、自分の感情を抑えることができなかった。

「華子を、彼女のような人たちを守って、他の人たちを蔑ろにする。それは平等なんて言えないから。」

「……そこまで分かれば大丈夫だよ。また、あの子と友達になれる。」

「うん、うん……!」

 私は気づけば泣いていた。都門は、大丈夫と言い続け、肩を摩ってくれた。


 同じ学科の人たちに別れを告げて、私は一人帰路に着いていた。

 しばらく歩いていると、とある人物を見つけた。

 私はその人を無視しようとするが、その人に見つかってしまう。

「何無視しようとしてんの?」

「……今帰ろうとしてるところだから、ごめん。」

「なーに今更男ぶろうとしてんだよ。」

 彼女――無雨の発言に、私はムッとする。彼女はへらへらと笑っていた。

「あーあ、そのまま態度変えなきゃいい男だったのになぁ。私、本当に好きだったんだよ?ほんと、騙しやがってって感じ。んま、これがリアカスの悪い面だよね。チューしようと思ったらブスでしたーとか、ほんと萎える。」

 勝手に傷ついたのはお前だろうと思ったが、私はまた口論にならないように黙っていた。きっと、そいつには何言っても響かない。

「あ、そう言えば。お前その姿に変わってから友達沢山できてんじゃん。ね?私の言う通りだったでしょ?」

「……僕をどうしたいの?」

「どう?えー自意識過剰〜。私なーんもしないよー?お前が何もしなきゃの話だけど。」

 彼女は、とことん私の地雷を踏んでくる。彼女と話しても何もないはずなのに、つっかかってしまう。それは、お互いそうなのだろう。

「……あの時、何もしなかったのに?」

「ん?」

「何もしなかったのに、つっかかってきたくせに!?」

 私がそう言うと、彼女はきょとん、と首を傾げた後、へっ、と笑う。

「態度がうぜーの。それで充分でしょ。もう話しかけんな。」

 彼女は自分勝手だ。自分の都合で相手を傷つけて、そして関わるなと言う。

「……薄情者、お前だって、友達が離れていってるくせに。」

「……へぇ。それが何?」

「高校の友達と話してるとこ見たことないよ。嫌われたんでしょ。」

 憎悪込めそう言うと、彼女も流石に怒ったのか、グッと拳を握っている。

「お前は知らないだろうけどね、友達ってずっと一緒ってわけじゃないんだよ?あー、お前はずっと一緒の友達も手放したからわかんないかぁ!!」

 彼女の大声に怯みかける。お前はいつもそうだ。いつも私たちにいちゃもんつけてつっかかってくる。

「あ゙ぁ゙ーっイライラするっ!もう関わんなよカス!」

 地団駄を踏んだかと思うと、彼女は私に背を向けそのまま去っていった。

 私は俯き、ため息をつく。

「……私、変わったはずなのにな。なんでこんな辛いんだろ。」

 ポロっと一言つぶやく。その言葉はあまりにも虚しく響いた。

「……あの。」

 目の前で声がしたので、顔を挙げると、見知った人がいた。

「……えっと和田、さん?」

「はい、そうです。大丈夫ですか?えっと……。」

「原太って呼んでください。」

「原太さん。何かあったんですか?」

「大丈夫です。こっちの問題なので……。」

 私がそう言うと、そうですか。と下がってくれた。

「それで、なんのようですか?」

「えっと……今言うのもアレですが……。」

 そう言って一回咳き込んだ後、彼は口を開いた。

「もう一回、心と話してくれませんか。」

 その言葉に、私は驚いた。

「どうしてですか?僕は、もう彼女と話すことはありません。」

「それは、"応寺華子"としてですよね。俺が今言いたいのは、"今の"あなたとしてもう一度仲良くできないかということです。」

「……無理です。彼女の前だと、どうしても、"私"が出てしまう。駄目なんです。」

「それでもいいです。でも、伝えなきゃいけないことがあるんじゃないですか?」

「もう伝えました。何も――。」

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「っ……。」

 私はつい言葉を失ってしまう。それだけは避けてきたのに。

「それ以外にも、話したいことがあるんじゃないですか?」

 その言葉に、心が突き動かされる。

 あぁ、あるよ。沢山ある。

 我慢できなくなり、今まで抑えてきた感情を爆発させる。

「……あります!沢山っ!最初はうまくいかなくて辛かったことも、それでも頑張って友達ができたことも、その友達についても――!」

「言えばいいじゃないですか。全部。」

「でも、なんて言えば――。」

「俺も協力します。」

 彼はそう言って、私に手を差し伸べてきた。

「俺も、何かあったら、一緒にいます。」

「……はい。」

 私は、彼に手を伸ばした。

 

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