高校三年生③
チャイムが鳴る。
すぐさまパソコンを起動し、作業の続きをしようとした。
「応寺さん、なにしてるの?」
ふと、後ろの席から声をかけられる。
振り返ると、あまり話しかけたことないクラスメイトがいた。
「えっ、と……。」
「あ、課題か。めんどくさいよね……。」
私が言い淀んでいると、その子は話を盛り上げるように話を続けた。
「応寺さんは何するの?なんだかすごいことしてそうだけど。」
――この人は私のやってることに興味があるんだ!もしかしたら仲良くなれるかもしれない!
「えっと……!今やってるのは既に普及されたVRについてなんだけど、今どんな技術が使われてるかとか、これからどんな風に進化するかとかを調べてるんだ!私、こう言うのが好きで、機械とか、拡張現実とかロマンあるよね!もう今は普通にあるものになったけど、昔はそうじゃなかったんだよ!昔は一部の人しか持ってなくて、器具ももう少しデカかったんだよ!それこそ、昔のパソコンみたいに……!あ、そう!昔のパソコンも今よりもデカくて……、あ、でも、昔みたいなデカさでも、容量とかが大きくて使いやすいとかもあるんだよ!それで――。」
「ふぅん、情熱的じゃん。」
話をやめ、私は声のした方を向く。
そこにはニヤついた顔をした無雨がいた。
「でもさ、相手の方も見てみなよ。」
無雨が指差した方向を追うと、困った顔をしているクラスメイトがいた。
「あ……。」
「ごめんねー。華子ちゃんがさ。困ったよね?」
「いや、別に……。」
「ね?」
「……っ、私、用事思い出したから、じゃあ!」
無雨が圧をかけると、クラスメイトは逃げるかのようにその場から去った。
「いや〜、かわいそうだったねー彼女。興味のないことペラペラと話されてさー。」
「で、でも!あの子、私のやってることに興味ありそうだったよ!」
「はぁ!?んなのただのお世辞に決まってんじゃん。ガチで来られたら困るでしょ、誰でも。」
それを聞いた私は、鈍器で頭を殴られたかのような衝撃を受ける。
お世辞、そうだったのか。仲良くなれると思ってたのに。
裏切られたと思い、私は酷く落ち込む。
その様子を見た無雨は、はぁ、とため息を吐いた。
「何その被害者ヅラ。困ってるのはこっちなんだけど。」
「……何それ。私だって悪いと思ってるよ。でも、その言い方は無いんじゃない?」
イラつきを抑えながら、彼女に文句を垂れる。
すると、はぁ!?と大きな声を出された。
「お前さ、悪いと思ってないでしょ。」
「そんなこと……!」
「じゃあさ、なんで友達ができないんだと思う?」
脈絡のない言葉を吹きかけられ、私は怖気つく。
「そ、それは、私の趣味が会わないからで……。」
「そのペラペラペラペラ意味のわからないことを言いまくるからだよっ!みんな困ってんだよ!みーんなっ!」
無雨の怒号に驚くが、彼女はまだ続けた。
「単なる自己満足に巻き込まれてかわいそうだよねぇ!ほんとっ!でもお前は気づかない。だってわかんないんだもん!」
「で、でも!心は、なにも言わない!このまんまの私でもちゃんと友達でいてくれるんだよ!この癖だって、趣味だって、個性だって、褒めてくれたんだ!」
私の反撃に無雨は少し体を止めたが、その後直ぐにふっ、と鼻で笑った。
「お前、本気でそう思ってたの?」
「え……?」
「アイツ、ただ弱いものと関わって、自分カッケーって酔いしれてるだけだって。」
言葉が出なかった。
心のことをそんな風に言ってくるなんて思ってなかったから。
「お前はアイツから友達なんて思われてないよ。ただの保護対象だって。アイツが個性だって言ってることだって、ただの迷惑な悪癖に過ぎない。なぁ、知ってる?個性っていうのは皆に迷惑かけないから個性ってだけで、迷惑かけるならそれは個性じゃないんだよ。」
喉が渇く。舌が渇く。口と舌がひっついて、気持ち悪い。
次々と恐ろしい事実を突きつけられ、私の世界は、平和だと思ってた世界にヒビが入る。
やめてくれ、これ以上、何も言わないでくれ!
「ち、ちが……。」
「何が違うの。言ってみてよ。」
「……っ。」
「ほーら、何も言えない。事実だもんね。」
違う。今は言葉が見つからないだけだ。
「ね、華子ちゃん?」
にや、と目と口を三日月型に歪める。
「なんで、アンタはずっと除け者なんだと思う?守田が何か言ったら、どうにかなりそうなのにね。」
やめろ、これ以上何も言うな!
「それはね――。」
やめろ!
「本気で助けようなんて思ってないからだよ。」
気づけば一人になっていた。
いつ時間が流れたのかわからない。本当に気づけば一人で座っていたのだ。
日はまだ沈んでいないが、直ぐに沈むだろう。
動かない頭をなんとか動かして、私は考えた。
私のこれは、皆に迷惑をかけていて、それが私の嫌われる理由になっていて、それで――。
ここで、皆が悪いと結論づけるのは簡単だった。
しかし、そこでそうしてしまうと、昔世間に迷惑をかけた活動家と一緒になってしまうと気づいてしまった。
皆が悪い。だから、皆が変わるべき。
そんなの、昔と変わらないじゃないか。
だったら、どうするべきか。
簡単だった。
「――自分が変わればいい。」
自分のつけているゴーグルを触る。
私のゴーグルは普通の学生がつけているものよりも少し高価で、性能も高い。
だから、見た目や声を変えることは容易いことだった。
性格だって、注意すれば治せるはず。
「大丈夫、きっと。」
ただ、一つだけ注意しなければいけないのは、心のことだった。
彼女には知られてはいけない。きっと止めてくるだろうから。
私は彼女とのトークチャットを消し、ブロックした。もう心とは会わないだろう。
「……もう、いいんだ。」
――もう、心から離れる時だから。




