高校三年生②
あの時から数週間経った。
数週間経てばテーマも調べる内容も決まるもので、私たち二人は再び課題について話し合っていた。
「華子の班、何するか決めた?」
「もちろん!前も言ったけど、私たちの班はVR技術について調べるんだよね!今の技術は今着けている器具を見えなくするだけでなくて、景色や見た目をカスタマイズできて、マイクがあったら声も変えることができるんだよ!ここで終着点だと思う人も多いかもしれないけど、まだ技術は発展すると思う!じゃあどんな風に技術は発展するか。そりゃ、滑らかな画質ってだけじゃなくて、逆に少し荒くなって、現実世界と遜色ない、けれどアニメのような変わった景色をみられるかも!そして、体の構造すら――。」
「ちょっと、なーに早口で言ってるの?」
私たちはバッとその声の方を振り向く。
そこには、嶋田 無雨がいた。
私たち――主に華子――につっかかってくる相手で、何かと文句を言っては去っていく、個人的に厄介な相手である。
「ちょっと無雨〜?話遮ってかわいそーじゃーん!」
「ほらほら、華子ちゃん、話の続き話していいよ〜?」
間から無雨の友達が入ってきて、華子を茶化す。
「え、だ、だから……。」
「いやいや、話続けようとすんなし。第一さ、守田の様子みた?だいぶ嫌そうだったけど」
「え……?」
見当違いの言葉をふっかけられて華子は怯み、私はイラ、と心がざわつく。
「ていうかさ、本当にみんなで話して決めたの?華子ちゃん、人と話せないし。あ、心ちゃんとは話せるもんねー?ごめんねー?」
「む、無雨ちゃん……?」
「馴れ馴れしく話すなよ。大体さ、その趣味何?VR?わけわかんない。何の役に立つの?」
「それは……!」
「うっさいなぁ!このブス!じゃあそんな男みてぇな趣味持つなよ!とっととその見た目変えて男になれよ!じゃあ私文句いわねぇから!」
「もー無雨ムキになりすぎ!」
無雨がキレ散らかしたはずなのに、皆はケラケラと笑っていた。華子は下に俯き、ぎゅっとスカートを握りしめ、涙を浮かべていた。
「……っ、いい加減にしなさいよ!」
もう耐えられなかった。私は無雨と華子の間に入り、華子の机を叩く。
「華子、どんな顔してるかわかる!?人の気持ちもわからないやつに、そんなこと言われることないと思うけど!」
私がそう言ってる間、無雨は何も言わず、ただ真顔で私をみていた。
そして、興味が無くなった風に、「ふぅん」と呟いた後、
「ダブスタかよ」
と呟いて、自分自身の友達に声を掛けそのまま去っていった。
「……あっ、大丈夫?」
私は華子のことを思い出し、彼女の方を振り向く。
華子は目に涙をたっぷりと溜めており、たった今それが決壊した。
「こ、怖かったぁ〜っ!」
華子はぼろぼろと涙を流し、そのまま机に突っ伏す。
彼女は大きく泣き、その後嗚咽を繰り返し、段々と声が小さくなっていく。
彼女の嗚咽が少なくなった頃、口を開いた。
「……私、やっぱり見た目、変えたほうがいいのかな。」
弱々しく言った言葉は、あまりにも衝撃的な言葉だった。
「……っ、そんなことない!あいつの言うことなんて聞かなくていい、大丈夫だから……。」
「友達がいないのも、それのせいで……。」
「友達なら、私がいるじゃない……!」
ぐずぐずしている彼女をなんとか慰めようと言葉を重ねていると、華子は体を上げた。
「……心、一緒にいてくれるの?」
「うん、そうよ。」
だから、そのままでいいの。
そう言うと、華子は目に残っていた涙を拭った後、弱く笑って見せた。
放課後、冬から日が長くなったからといって、未だ日が落ちるのは早い。既に空は橙色に染まっている。
久しぶりに幼馴染である都門との時間が出来たので、一緒に帰ると同時に華子について相談することにした。
「応寺華子だっけ……。彼女がどうかした?」
「あの子、クラスメイトの子に少し嫌がらせされてて……。それに、皆も彼女のこと遠巻きにみてると言うか……。」
「そうか……。」
「でも、華子はいい子なのよ。ちょっと人見知りで、熱が入ると話すぎるだけ……。まあ、それも可愛く見えるのだけれど。」
「ははっ、その子のこと大切なんだね。」
都門からそう言われ、少し恥ずかしくなり、顔を逸らす。
笑っていた都門は、ひとしきり笑った後、真面目な顔になり、私に向けて言ってきた。
「心、よく聞いて。」
「……うん。」
「人には必ず悪いところがある。いいところだけなんてないんだよ。ただ、目立つか目立たないかの違いだ。」
意味がわからなかった。
私が困惑している中、都門は続けた。
「人がいじめられるのには理由がある。俺はそう思うよ。」
「だからって、いじめられることを許容するの!?それに、華子には……っ!」
「話を最後まで聞いて。理由があるからと言って、いじめていいわけじゃない。言っただろ、人には必ず悪いところがある。彼女にも、あったはずだ。」
そう言われた私は、キッと都門を睨むと、彼は困ったように微笑んだ。
「もし、このことをなんとかしたいなら、彼女と向き合うべきだと思う。悪いところも、いいところも、きちんと分かった上で、許さなければいけないよ。」
私はなんだか叱られているようで居た堪れなくなり、彼から目を逸らす。
「心はきっと、見て見ぬふりをしているだけなんだね。だから、少しだけでいい。ちょっとずつ、その子との関わり方を考えて見たらどうだい?」
さて、帰るよ。と私から背を向けた都門は、そのまま私から遠ざかっていく。
私は彼から声をかけられるまでこのモヤモヤを治すまで立ち尽くしていた。
「……私、何も間違ってなんか。」




