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決別  作者: 青海
2/9

大学一年生①

 静かな廊下に足音が響く。

 一階は話し声が聞こえていたが、四階ともなると聞こえなくなるものらしい。

 私は連なるドアの一つに止まり、ドアをノックした。

 しかし、反応する声は想像していたものと違う声だった。

 首を傾げながらも「失礼します」と言ってドアをゆっくりと開けた。

 そこにいたのは私が話しかけたかった人ではなかった。

 私と同じくらいの若い人。おそらく大学生。なぜ先生の研究室にいるのかわからない。代理としているのだろうか。

 帰ろうかとしているところで、彼が私に話しかけた。

「すみません、先生に何か用ですか?」

「あ、聞きたいことがあって……。」

「今、先生の代理をしてるんです。パソコンのことですか?それなら僕も出来ますよ。」

「……!本当ですか!?」

 それを聞いた私は、彼のそばに行き、いそいそとバッグからノートパソコンを取り出す。

 急いで作りかけのファイルを開き、彼に見せる。

「えっと、今表を作ってるんですけど、この結果にするのにどんな数式をつけるのかわからなくて……。」

「あはは。確かに、あまり使わない数式だし、見つけづらいですよね。」

 彼はそう言って、すぐに数式を見つけ、数字を打ち込んだかと思うと、すぐに結果が出た。

「ありがとうございます!使い慣れてるんですね……!」

「好きなんですよ、こういうの。」

「そうなんですか?」

「僕、パソコンとか、VR器具とか、まあ、機械系のやつが好きで、習ってるやつとは少し違うんですけど、まあ、趣味でやってる程度です。」

 彼はそういい、にっこりと笑った。

 私はその姿に、とある人物と重ねてしまう。

 じっと見ていたからなのか、彼は首を傾げ、「どうかしたんですか?」と聞く。

 それを聞いて焦ってしまった。

「あぁ、すみません。なんだか、昔いた友達と似てて……。」

「へぇ……。」

 彼が少し動揺した気がした。

「どんな子だったんですか?」

「あの子も、機械が好きだった。私、あの子にパソコンのソフトの使い方とか聞いてたんです。仲良かったと思ってたんですけど……。」

「離れ離れになったんですか?」

「そう。何も言わず、去っちゃって……。この時代なのに、連絡も何も出来ないんですよ。せめて、何か言ってから……。いや、なんでもないです。」

 話しすぎたと思い、話を遮る。彼はそんなことももろともせずににこりと笑った。安心させるような笑い方だった。

「そういえば、どこが似てたんですか?」

「わかんないです。」

「わかんない?」

「はい。」

 彼の問いに、何も答えられなかった。

 見た目とか、声とか、性格とか、これと言ったものはなかった。

 言うなれば、彼らの趣味だろうか。けれど、それ以上に――。

「雰囲気が、」

「雰囲気?」

「雰囲気が、似てました。なんででしょうね?」

 そう言って、笑った。

 彼は驚いた表情をしていた。

「……そろそろ帰らなきゃ。さようなら。」

「……はい、さようなら。」

 私が手を振ると、彼も手を振ってくれた。

 ドアを閉め、エレベーターに向かう。

 懐かしい気持ちになった。こんな感情になるのはいつぶりだろうか。

 なんだか清々しく、また頑張るぞと気を引き締め、歩き出した。


「――なんで、バレたんだろ。」


「あれ、都門だ。」

 大学内のバス停のところに幼馴染の都門がいた。

 彼は私に気付くと、ひらひらと手を振った。

 彼に駆け寄り、なにしてたのと声をかける。

「バス待ってる。心もでしょ。」

「確かに私もそうだけど……。」

「なんだか嬉しそうだね、どうしたの?」

 私が嬉しそうなのがすぐにバレた。私は恥ずかしくて顔を片手で隠し、そんなにわかりやすかった?と聞く。

「なんとなくね。友達くらいならわかるかも。」

「そ、うなんだ……。」

 わかりやすいのかわかりにくいのかわからなかったが、なんとなく恥ずかしいので目を逸らす。

 そうしていると、それで、と声をかけられる。

「何かあったの?」

「あぁ、華子に似てた子がいたの。姿も性別も違うんだけど……。」

「へぇ……。話してて楽しかったんだ。」

「うん。波長が合うというか……。でも、少し違うというか……。でも、なんだか懐かしい感じだった。」

 私がそういうと、都門は笑い、「よかったね」と答えた。

 何も話すことはないと思ってスマホをいじろうとすると、都門が、もし、と話し始める。

「もし?」

「もし、華子とその人が同じ人だったら、また仲良くなれる?」

 都門はそういうと、フ、と微笑んだ。

「姿も、性格も、性別も違う。それでも、また仲良くなれる?」

 いきなりの質問に戸惑いながらも、私は少し考えて、答えを出した。

「……うん。仲良くなるよ。」

「大丈夫?」

「わかんない。でも、仲良くなりたいよ。」

「……そうなんだ。」

 都門がそういうと、バスがやってきて、ゾロゾロと皆が入っていく。

 行こうか、と都門が言うと、私は頷いて、バスへと歩き出した。


 また先生に留守番を頼まれた。

 することがないので、机の下から貯蔵されている本を取り出し、ペラペラと紙をめくった。

 そうしていると、コンコン、とドアの叩く音が聞こえた。

 どうぞ、と答えると、ドアが開いた。

 そこには、見知らぬ学生がいた。

「失礼します。」

「ああ、こんにちは。すみません、今先生はいなくて……。」

「大丈夫ですよ。実は、あなたに用があって……。」

「僕?」

 彼はドアを閉め、部屋へと入っていく。

「昨日、女子生徒が来ませんでしたか?多分、表を作るのに困っていたと思うんですけど……。」

「えぇ、はい。来ました。」

「俺はその子の友達です。和田都門と言います。」

 ぴく、と体が動いたが、なんとか隠す。

「そうなんですね。よろしくお願いします、都門さん。」

「ええ。……あの、間違っていたらすみません。」

 彼はどこが真剣な、それでいて迷っているような表情を浮かべていた。

「……貴女は、応寺華子さんじゃないですか?」

「……え?」

 どうしてバレたのだろうか。

「あの、どういう……?」

「いえ、間違えていたならすみません。」

 ここで、私は本当のことを言ってもいいのかと迷った。だから、一つだけお願いをした。

「……誰にも言いませんか。」

「約束します。」

 そう言った彼の目は、真っ直ぐ、私に突き刺さった。

 私はマイクの出力を変えた。

「……はい、私は間違いなく応寺華子です。あの、どうしてわかったんですか?」

「いや、ただの憶測ですよ。」

「憶測?」

「あの時、もし学校を変えるなら、近いところにするでしょ?それに、この大学、理工学科ありますし。」

「……本当に、それだけなんですね。」

 それだけでここまでいけるのかと感心する。

「それで、私に何か……?」

「ただの質問です。また、戻るつもりはないですか?」

「ないです。」

 私はキッパリと答えた。声を変えるだけでも辛いのだ。

「もう過去には戻りたくないです。」

「……わかりました。ならいいです。ご迷惑かけてすみません。」

 彼はそういうと、帰る準備をし始めた。

 私はもう一度注意をしようと声をかける。

「あの。」

「はい。」

「……心には、伝えないでくれますか?」

「どうして?」

「……ごめんなさい。ちょっと後ろめたくて。」

 私がそう言うと、彼は「わかりました」といい、にっこりと笑った。

「誰にも告げ口は致しませんよ。」

 では、と都門は去っていく。

 私はどっと疲れが来たのか、椅子にもたれこむ。

 もう本を読む気も失せてしまった。

 

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