王子様の想いを
アルト王子の想い、春の想いが、重なる。
白銀の光が、静かに収まると森に夜の色が戻る。
その中心に、彼女は座り込んでいた。月光を溶かしたような白銀の髪色に澄みきった青の瞳、微かに残る聖なる魔力が、周囲の痒気が浄化されているのを俺は感じた。
…聖女の力の解放。
気付けば、俺は馬から勢いよく飛び降りると、体が勝手に前へ出ていた。
「春…!!」
名を呼んだ瞬間、俺は何度、君の名を叫んだんだろうと、思うほど喉がひどく掠れていたんだ。彼女がゆっくりと振り向き、その瞳が俺を映した 瞬間、胸の奥で張りつめていたものが爆ぜた。手を伸ばし、強く春の体を引き寄せ、外套の中へと抱きしめると、その細い体が、俺の腕の中へと収まる。春の体が刻みに震えていた。
…生きてる。
…鼓動が聞こえる。
…暖かい…
…春…。
その事実だけで、全身から俺の力が抜けそうになると、春の肩を掴み、体を僅かに離す。
「どうして禁忌の森なんかに来たんだ!」
自分でも驚くほど大きな声が、森に響いた。
「死ぬ気か!」
初めてだった。 彼女に、怒鳴ったのは。春は目を丸くし、唇を震わせる。青い瞳に涙が溜まっていくのが見えた。その顔を見た瞬間、俺の胸が締めつけられた。
…違う。怒りたいわけじゃない。
「死ぬほど、心配したんだ─」
絞り出した声が零れる。君がいなくなった部屋、まだ温もりの残るシーツ。 あの手紙を読んだ瞬間、身体中の血が、引いていく感覚。森へ向かう道中、何度も浮かんだ最悪の想像が頭の中で、何度も、何度も、…もし間に合わなかったら…春を抱きしめられなくなったら…その未来を思うだけで、俺は、俺はもう呼吸すらできなくなるほど、君を愛してしまっていたんだ。
私の喉が小さく鳴った。
「ごめ…ごめんなさい…」
震える声で、涙が落ち、アルト王子殿下には、幾度なく助けてもらって、心配ばかりかけて…こんなんじゃ嫌われても文句は言えないよね。
泣きじゃくる春に俺は衝動のまま、彼女の頬に手を添えると、涙で濡れた肌は、冷たいのに、生きている温もりが確かにそこにあるのに、足りない…この気持ちは…
アルト王子殿下の手…誘拐されたあの時、触れた手の冷たさよりも、芯から冷えるような冷たさなのに、温かい…
温もりを確かめるように、頬に触れては、抱きしめ鼓動を感じあった。
何も言わずに、俺は唇重ねた。深くはない、触れるだけの口付けを何度もする。間違いなく春が生きてここに居るのだと確認するよ うに何度も唇の上で名を呼びながら。
────⋆˙⟡
もう、誰一人として失いたくない。大切だと思った人が、目の前から消える瞬間を、知っているから。
…母様が、俺の目の前で─息絶えたあの絶望を。
────⋆˙⟡
春の背に腕を回し再び強く春を抱き寄せ俺は、春の瞳を見つめながら、想いを伝えた。
「…もう、俺から離れるな」
「春が消えるなんて、俺には、耐えられそうにないんだ」
王子としてではなく、ただ一人の男としての本音が零れる。そして、俺は春に"愛してる"と伝えた。彼女は小さく息を呑み、そっと俺の外套を握りしめ顔を埋めたのが、答えのように。
今回は、アルト王子殿下の視点、想いを春に伝えるそんな、ストーリー構成で描きました。男性目線って難しいなって。⇒ただ単に、恋愛スチルが絶望的な、作者です。
次回、あれがこうなり、これがこうなりの最終話となります。第1章をお読み下さりありがとうございました!エピローグ付きで、第1章完結になります。




