禁忌の森へ(前編)
アルト王子の帰還が、明日になり春はアルト王子が帰るのを楽しみにしている中、ジェームズ·ミランダが放った刺客が動き出す。
明日になればアルト王子が城へ戻って来る。窓辺に頬杖をつき、夕暮れに染まる庭園を眺めながら、アルト王子が、帰るのを指を折って数えていた。 数日の滞在が、一ヶ月。たったの1ヶ月間なのに、城はやけに広く感じて、どこか寒いくらい、春はアルト王子のことを、想う気持ちが日に日に強くなる自分が怖くなっていた。
「明日…アルト王子殿下が帰って来る日」
そう、春に向けた憎悪が動き出すとは────
真夜中、春が眠っていると、"カタン"と物音に春が、何の音かと目が覚めた。寝台から降りると、スリッパを履き、火を灯した蝋燭たてを手に持ち、音のする方へ近付いた。
「誰?誰かいるの?ルミネ?」
暗い部屋に月明かりが差し込み、寝室のドアの下に一枚の紙が挟まっているのが見えた春は、蝋燭の火を近づけ、拾うと折りたたまれた手紙を春は広げた。
"アルト王子殿下、禁忌の森にて重傷。至急一人で来たれし"
「うそ…────」
春の心臓が大きく脈打つ。アルト王子からは、禁忌の森には絶対に入るなと、あれほど言われていた。それでも「重傷」という文字が頭から離れない。罠かも知れないけど、本当だったら……迷うよりも先に春は外套を羽織り、腰ベルトにナイフを差した。抜け道の地図を握りしめ、城を春が抜けだすのを天井裏から刺客の一人が見届けると、刺客たちが城へ侵入していた。―
淡い光が広間を走り、数分時間を止める魔具を起動するスイッチを押す。城の中を巡回する騎士がその場で止まると、朝まで起きないもう1つの魔具を刺客たちが城の至る所へ投げ入れた。
「任務、完了」
散らばる刺客たちは、闇の中へと消えるのだった。
────⋆˙⟡
明日当直予定が、一日早くハーベルト王国へ帰還したアルト王子は、馬車に乗っていた。御者がランプを飾して、円を書くように門番に合図をすると、大きく重い正門の扉が、ギギギッ、ドーン!と開いた。
正門をくぐり、馬車が王宮に近付くにつれ、アルト王子の耳が左右に動くと同時に、剣の柄を握りしめ、護衛騎士も、ダリアンもその異変を察していた。
「ダリアン城の中が、おかしい」
「ああ、静かすぎる。アルト気を付けろよ」
籌火は揺れているのに、人の気配がない。馬車止まった瞬間、ドアを勢いよくアルト王子が開けると、全速力で城内を走る。向かう先は春の寝室だたった。
……胸さわぎがする。
「はるっ!!」
彼女の寝室へ全速力で駆け込んでいた。寝室の扉を開け放つと、寝ているはずの春がいなく、寝台は空だった。触れたシーツにはまだ、温もりが残っている。
「そう、遠くへは行っていないはず…」
ベッドサイドに置かれた、1枚の紙に目が止まると、アルト王子の表情が一変した。冷たい氷の魔力が揺らぎ、瞳の奥が、怒りに変わっていたのだ。
「禁忌の森へ…」
その紙を握り潰したアルト王子の、周りの空気が冷たく震え、窓硝子や床が凍り始める。彼の魔力が抑えきれず溢れ出すと、城全体が激しく揺れた。その異変に見回りから戻ったダリアンが、部屋へ駆け込んだ。
「アルト!落ち着け城が崩れるぞ!」
ダリアンが、叫ぶとアルト王子がバルコニーヘ向かい、ためらいなく 夜へ身を投じた。指笛を鳴らすと軍馬が駆け寄り、その背に飛び乗ると、外套が、靡いて、一直線に禁忌の森へ向かう。春が、無事であることを願いながら。
「アルト!彼女は何処に!」
「禁忌の森だ!春が危ない、先に行く!」
「待て!アルト!!」」
馬の蹄の音だけが、城内に響くとアルト王子は闇夜に消えるのだった。
後編に続きます。




