見送りの朝
出立する前日の夜のお話から、春とアルト王子殿下の気持ちも動き出そうとしていた。
…お昼に馬車の移動中でも食べられるもの.....サンドイッチなら、食べやすいかな。
アルト王子殿下が、隣国へ視察のため暫く城を開けることを伝えられ、その出立の日が明日の朝だった。春は寝る前に、専属侍女ルミネに、朝の弱い自分だから叩き起してと伝えると、「春様を叩くなんて、出来ません。起こしには参ります」と笑われてしまった。
「明日から、アルト王子殿下いないんだ…」
ブランケットを被るがなかなか寝付けず、考えことをしてると、春はいつの間にか深い眠りに落ちていたのだった。
季節の変わり目の朝は、肌寒く冷える。
夜明け前の王宮は、まだ群青色の静けさに沈んでいた。モーニングティーを載せたワゴンを、ルミネが押しながら、 部屋の前に立つ。"コンコン。"
「春様、朝でございます」
ドアをノックするが春からの返事はない。寝室の扉を開けカーテンを開けると、夜明け前の外はまだ薄暗い。寝台に降ろされた天蓋を開けると、厚手のブランケットを頭から被りまだ、春は夢の中だ。
「春様、起きてください」
紅茶をカップへ注ぐと、湯気と紅茶の香りが柔らかくち上る。
「春様、そろそろお支度のお時間でございます」
春が、寝返りながら寝言をルミネに話していた。
「…んぅ…後、五分だけ…」
春の寝息が聞こえ、ミルネが再度、春を起こす。
「五分では、アルト王子殿下の乗る馬車は、お待ちになりませんよ」
その言葉に反応したのか、春が飛び起きた。
「ルミネ!?」
「はい。本日はアルト王子殿下のご出立の日の朝でございます」
ばさっ!!寝台からブランケットが、吹き飛んだ。
「アルト王子殿下は?ルミネ、寝過ごした?私!」
春は寝台から飛び起き、そのまま床へ飛び降りる。
「春様、まだ夜明け前で、ございます」
寝巻き姿のまま扉に向かう春にルミネが再度、春を停めた。
「春様、そのお姿のまま、アルト王子殿下の元に向かわれるおつもりですか?」
自分の格好を見てみると、ゆるい寝巻き姿に、寝癖姿で、慌てたせいか片方だけ脱げかけた室内履きのスリッパ。春が、笑いながらルミネを見ると呆れた顔をしていた。
「春様は仕方ありませんわ」と、ルミネに一括されてしまう。
「春様、髪型はどのように?」
「ポニーテールでいいかな。多分、走るかもだから」
「春様は、走ることが前提なのですね…」
ルミネの言葉に、春がキョトンとした顔をしながら急いで身支度を整えてもらうと、鏡に映る自分の頬を叩いて気合をチャージすると、ルミネたちと一緒に厨房へと向かった。
「牛乳に塩を入れて、 瓶にこれ全部、入れて振ってもらえますか?」
「春様、こうですか?」
「はい。全力で振ってください!疲れたら交代で、だいたい10分くらいは、振り続けてください」
春がバターを作ろうとしていた。その他の材料を切り分けてると、侍女が瓶を春に渡した。分離した塊をザルですくい上げたら、バターの出来上がり。焼きたてのパンを切り、野菜やハムをバターを塗ったパンに挟む。
…政務が忙しいと食べないって、ダリアンさんから聞いたことあったから、アルト王子殿下食べてくれたら嬉しいな。
そんな想いを込めながら、春はサンドイッチを完成させた。
「ちゃんと殿下が、食べてくれますように──」
春が、咳きながらサンドイッチを包み紙で包んでいると、正門の鐘が鳴る音が春の耳に届いた。
「うそ!もう、出立の時間?」
春は慌てて包みを抱えると、ルミネが慌てて、外套を後ろから、羽織らせてくれた。
「ありがとうルミネ!」
「春様、御髪を…はい、完璧にございます」
背中を押すルミネに、手を振り全力疾走して駆け出す春は、城の外の石畳を蹴り正門前へと急いだ。
正門前では、すでに馬車の準備が整いアルト王子殿下が到着するのを、御者や、執事、侍女たちが殿下の見送りをするために待っていた。アッシュグレーの髪色と揺れる猫耳が、冷たい朝の空気にぴくり と動いた。厚手の外套をまとい、馬車乗り場まで向かうアルト王子。
…春は、まだ夢の中かな?どんな夢を見ているんだろうな。──
春の寝室の窓の方を見つめると、アルト王子は小さく笑い、馬車のタラップに足をかけた時だった。
「アルト王子殿下ー!!その馬車待って!!」
御者が驚き、馬を止める。 アルト王子がまさかと思い振り向くと、息を切らして走ってくる春の姿。 外套が少しずれていて、髪も少し乱れている。
「春…… ?」
少し寒い朝の空気が柔らいだのを感じ、まさか彼女が見送りに来てくれるとは、思いもしなかったアルト王子が、春に駆け寄る。
「はあはあ。よかった間に合って…」
肩で息をしながら、春がアルト王子に包み紙を差し出した。彼女の鼻も頬も赤く色ずいて見えるのは、寒さのせいだろうかと、わずかにアルト王子の猫耳と尻尾が揺れる。
「おはようございます、アルト王子殿下。お誕生日に、クッキー作ったんだけど、渡せずだったので…サンドイッチをお昼に、よかったら食べてください」
その言葉に、アルト王子のオッドアイの瞳が揺れる。
…早出の私に合わせて、こんな素敵な贈り物を届けに……。
「私に、渡すために早朝に起きてくれたのか?」
「はい。ルミネに起こしてもらって…」
その気持ちに、アルト王子が答えるかのように春の肩を引き寄せ、外套の中へと包み込むように抱きよせていた。
"……彼女の鼓動が伝わる。 "
"アルト王子の甘い香り…·
静寂に包まれるが、ダリアンが後ろから呼ぶ声が聞こえ、名残惜しそうに春の腰から手を離す。春の頬へ、アルト王子が、口づけると、ほんの一瞬、春の体が跳ねる。
「春、行ってくる」
アルト王子が、私の耳元で低く嘱く声が残り、春の顔は真っ赤になっていた。恥ずかしそうに春が顔を上げると、いつもの穏やかなアルト王子の表情だった。馬車のドアが閉まり、御者の合図が聞こえると、整列してた執事や侍女たちが一斉に、一例をし殿下を見送っていた。
頬のキスと、耳元で囁いたあの声が、残り香を残すように、春の胸の高鳴りは暫く治りそうにない。
一方、春を追いかけていたルミネと他の侍女たちは、物陰からはしたないと分かりながらも、二人を見ていた。ルミネが、つい「しゃー!殿下が、春様を抱きしめたわ!!そこで、キスよキス!くぅー!ほっぺだ!!」と、1人盛り上がってるルミネに、周りの侍女たちが小声で、「ルミネさんってあんなキャラでしたっけ?」と首をかしげてみていたのだった。
書きたかったのは、作者でしょ。って言われそうだな。




