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空猫
天才と呼ばれた画家がいた。
人の心を捕らえて離さない、
斬新な色使いと構図。
鮮やかな絵の奥に沈む、深い悲しみ。
その相反する感情に、誰もが惹かれた。
ここは、とある美術館。
権威あるその館の一角に、
画家の作品は飾られている。
なぜだか人々は皆、
その絵の前で足を止め、
決まって、静かな微笑みを浮かべて見つめる。
斬新さのない、穏やかな色の空。
窓際で、その空を眺める一匹の黒猫。
猫を包み込むように降り注ぐ、
やわらかな日差しの中で、
その首元に輝くのは鈴ではない。
空を閉じ込めたような、
ブルーオパールをあしらったブレスレット。
誰もが、
理由もなく幸福になってしまうような、
そんな一枚につけられた題名は――
――――《空猫》
猫の瞳は、いつまでも映し出す。
曇り、
雨を降らせ、
そして、再び晴れる空を。
それでも変わらず、
そこに在り続けるものとして。




