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猫との決別5

珍しく部活が休みだという岩城に誘われて、ニヤは映画を観に来ていた。


上映まで少し時間があり、どこかで時間を潰そうという話になった。

通りがかった店でジェラートを見つけ、ニヤが食べたいと言うと、

岩城が買いに行ってくれているところだった。


休日のショッピングモールのベンチに腰掛け、

ニヤはぼんやりと考えていた。


――玲は、岩城とのことを知っているのだろうか。


最近の玲は、以前にも増して距離を取るようになっていた。

ニヤが意識的に避け、アトリエにも行かず、

顔を合わせない日が続いているのだから、当然なのかもしれない。


それでも、どこかで期待してしまう。

玲が、まだ自分を欲してくれているのではないか、と。


分かっている。

もう、依存してはいけない。

玲の幸せのために、自分は自立しなければならない。


それでも、離れられない。


あと少し。

もう少しだけ。


そうやってニヤは、

ずるずると玲のマンションに留まり続けている。


「神山……神山!」


強く呼ばれて顔を上げると、

岩城が呆れたようにため息をつきながら立っていた。


チョコとイチゴ、二つのジェラートが入ったカップを差し出される。


「食いたかったんじゃねーのかよ?」


「あー……うん。うまそ。あんがと」


一口すくって口に入れる。

冷たさと甘さに、思わず笑みがこぼれる。


「やっぱアイスはうまいよな」


昔は、アイスなんて食べたことがあったろうか?という程度のものだった。

玲と暮らすようになって、たまたま出されたデザート。

何も言っていないのに、玲はニヤがアイスを気に入ったこのに気づいてくれた。


『お腹冷やすといけないけど、今日は特別だよ』


そう言って、もう一つ頼んでくれた。

それ以来、アイスが大好きになった。


「溶けてんぞ」


「……うわっ。早く言えよ!」


混ざり合って変な色になったジェラートに悲鳴を上げ、

岩城を睨む。


「人のせいにすんなよ、お前がぼーっとしてるのが悪いんだろ?!」

「うっせぇ。ニヤは世話が焼けるから、ちゃんと――」


言いかけて、ニヤは言葉を飲み込んだ。


「神山?」


急に黙ったニヤに、岩城が怪訝そうにする。


「なんでもねーよ」


立ち上がって言う。


「映画見るんだろ? もう時間じゃね?」


岩城が慌てて時計を確認し、

ニヤの腕を引いて走り出した。



映画を観終え、遅めの昼食を取ったあと、

二人はショッピングモールをぶらついていた。


ニヤは買い物が得意ではなく、

岩城がスパイクを選ぶのを、ただ眺めている。


「なあ、どっちがいいと思う?」


「あ? 何が?」


「……だからさ。全然聞いてねーだろ」


「わりぃ。で、どれ?」


二足のスパイクを差し出され、

ニヤは少し考えて指を差す。


「こっち。猫のマークのやつ」


「適当だろ。しかも猫じゃねーし」


拗ねたように言う岩城を置いて、

ニヤは別の棚へ歩き出す。


このモールには、よく玲と来た。

ワインショップで、よく分からないラベルを一緒に眺めた。


『どっちがいい?』

『馬のやつ……いや、フクロウのほうがよくね?』


適当に答えても、玲は楽しそうに頷いた。

それが、特別に感じられた。


――比べるな。


自分に言い聞かせる。

岩城は玲じゃない。


「終わったぞ」


岩城が戻ってくる。


「神山、買うもんないのか?」


「別に」


岩城は少し複雑そうな顔をして、

「帰るか」と言った。


夕日に照らされた街を、並んで歩く。

岩城の手はポケットに入ったままだ。


手を繋がないのか、と一瞬思う。

けれど、自分から伸ばす気にもなれず、

ニヤは二歩ほど後ろを歩いた。


重い沈黙。


やがて岩城が立ち止まり、

近くの小さな公園を指さす。


「……ちょっと話さねーか」


錆びたブランコに並んで座る。

鎖が、きい、と音を立てる。


「あのさ」


岩城が言った。


「今日、初めて目が合った」


寂しそうな笑い。

胸が痛み、ニヤは俯いた。


間違っている。

最初から分かっていた。


「ごめん」


無意識に言葉がこぼれた。


「どういう意味のごめん?」


ニヤは覚悟を決め、顔を上げた。


「お前を、好きな人の代わりにしようとしてた」


岩城は驚かず、「そうか」とだけ言った。


「別れなきゃいけなくて。でも一人になるのが怖くて。

お前を利用した」


言葉は止まらなかった。


「ずっと、冷たい路地裏みたいな所にいた。

でも、その人の近くは暖かくて。

そのぬくもりがなくなるのが怖かった

最低だな」


自分で言って、笑った。


「だから、ごめん」


「……もう無理ってことか」


ニヤは頷いた。


「俺じゃ、代わりになんねー?」


首を振る。


「誰の代わりもいない。

だから、最初から無理だった」


岩城は黙って、後ろから抱きしめた。


暖かい。

けれど、違う。


違う温もりだと、はっきり分かった。



***



「岩城、ごめんな」

「気にすんな」


乱暴に頭を撫でられる。

そこは、いつもの十字路だった。


「オレ、知ってたんだよ。

お前に好きな人がいるの

泣いてるとこにつけ込んだ。

だから、おあいこだ」


そう言って、岩城は笑った。

ニヤは背伸びして、最後のキスを送る。


「ばいばい」


背を向け、坂を上る。


玲に言わなければならない。


たくさんの「ありがとう」と、

それから――

ちゃんとした「さよなら」を。


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